第61話
身震いを起こしそうなひやりとした風にはたと目を開ければ、既に辺りは夕焼けに染まり、雷太の眠気は一気に覚め、バタバタと手当たり次第に段ボール箱を漁り散らし、ようやく見付けた頃には暗がりと共に足元は酷い有り様となっていた。
雷太は急いで家から懐中電灯を持ち出し、慌ただしく目に入った物から段ボール箱に詰め込み、片付けていく。
その様は母親の性格譲りに項目訳などせず、隙間なく詰め込むだけ詰め込み、危うくアルバムまで入れてしまいそうな程、忙しく動いていた。
「ライ、もう遅いから家で食べてきなさいよ。」
庭に面した窓から母親が心配そうに覗き込みながら、彼にそう告げ、あらかた綺麗になってる様子に満足したのかそれ以上は何も言わずに中へと引っ込む。
やっとこさ倉庫の扉を閉めた所で雷太は大きく深呼吸し、額に浮かぶ汗を袖拭い、大仕事を終えたようで充実感を満喫したかったが、汗ばんだ体を更に冷やそうと吹く風に耐えきれず、小走りで家へと駆け込みアルバムを鞄へとしまいこんだ。
中身を確認しようかとも考えたが後々見ることを考えれば、そう焦らなくとも良いと判断し、そのまま居間へと向かう。
「あ、そうだ。」
思い出したか様に携帯電話を取り出し、桃にメールを送信した。
桃に不要な妄想を抱かせない為にも、何故かこうしたメールを打たなければならない状況に雷太は少し疑問を感じる。
付き合っている訳でもなく、頼んだ訳でも無く、言い方は悪いが桃が勝手にしている事を何故、自分が気遣ってやらなければならないのか、とちょっとふてぶてしく思うも、ほんの少し寂しさも抱いていた。
もしこれで僕じゃなかったら、桃は居なくなるのか。
と考えると、ほんの短い間ではあるが騒がしくも楽しい日々だったな、と感慨深くもあり煩わしさから解放される安堵と様々な感情が押し寄せてきた。
この感じは一体何に似てるだろうか、と頭を巡らせると一つだけ自身の体験に則したものがあった。
それは野良猫を拾った時である。
段ボール箱に入れられ、捨てられていた赤ちゃん猫を拾い、甲斐甲斐しく育てたものの、ある日を境に居なくなってしまった。
それが現状と酷似しているが故に桃の事をペット感覚に考えていた事に気付いてしまったのだ。
ある程度のスキンシップに御褒美を携え、叱るべき時はしかり、褒める時は褒めと桃の性質はどちらかと言えば犬寄りなのかなと結論付いたりと誰にも話せない様な結論を頭の中で出す。
しかしその間、送れば直ぐにでも返信がよこす筈なのに一向に無く、代わりに美夜から明日の事についてのメールが送られてきた。
相当緊張した挙げ句、更に考察した後が窺える文章はあまりに硬く、拝啓から始まり、季語を加え近況を語り、本筋に至るまで細々と書かれている。
メールでは無く手紙であればとても素敵なのだが、そこは手軽さと素早さを売りにしている電子メールなのだから、もう少し砕けた感じで良いのに、等と文章を読みながら雷太は微笑ましく、美夜の純粋さを感じた。
そして雷太も堅苦しさは無いものの、彼女の文章量に見合った量を打ち込み、返信する。
そう言えばと考えると、美夜と休日こうして予定を擦り合わせて会うのは初めてだと気付いた。
その事実に気付いてしまった時点で彼の緊張感は増し、服装やら食事やらとどうすれば良いのか分からなくなってしまった。




