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それ、ホントに僕ですか?  作者: 海々深々魅々美
記憶は何処へ、記録は悲しく
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第60話

雷太と別れ彼の部屋を片付けた後、李は美夜と共に駅まで歩いていた。


「「………。」」


桃との三つ巴があったからこそ李は喋れたものの、こうして二人きりだと美夜の根暗な雰囲気が彼女の軽くあっけらかんとした調子を狂わせ、話し掛けづらくやきもきと一人、この気まずい空気に悶えていた。


美夜もまた李の明るい口調にいじめっ子を思い出しては、違うと分かっていても体は縮こまり、言葉を出そうにも上手く連なる事が出来ず、発する前に口の中で消えてしまう。


ただ、美夜にとって沈黙や静寂は嫌いではなく寧ろ好きであり、彼女は二人が歩くローファーの足音や遠くに聞こえる電車の音、それに小忙しく開店の準備を始める音、それぞれの音を聞き、微笑みながら歩いていた。


「…李ちゃんはどう思うの?」


「えっ?」


頻りに視線を空中にさ迷わせ何を話せば良いのか考えあぐねている所、急に美夜に話し掛けられた為に李は話の内容を聞きそびれてしまった。


「ミヤセン、もっかい言って?」


「その…あの…桃ちゃんと雷太君が結婚の約束したって話なんだけど…。」


もう一度言って貰いたく聞き返したのだが、美夜は恐る恐る要点を伝え、そのまま俯き極力、李と目線を合わせようとはしなかった。


「ああー。あれなら、大丈夫っすよ。桃っちがどう覚えてるかは分かんないけど、違うっすから。」


美夜にとって雷太との本格的な出会いは中学生になってからである為この検証会に参加出来ず、またその経緯や真実の分からない不安さを一蹴する様に李は軽やかに言い放ったのだが、美夜の心に疑問を生んでしまう。


「じゃあ、何で桃ちゃんに真実を話してあげないの?」


当事者を除く当時の状況を知ってるのは今の所、李と流だけなのだが、それをどうしてひた隠しにするのか美夜は納得がいかなかった。


もし、自分がその立場であると考えたら直ぐ様、真実を告げ少しでもライバルを減らすのが懸命な筈なのに李は敢えてそこには触れずに時が来るのを待っていたのだ。


「言うのは楽勝っすよ?でも、あの執着ぶりを見せられたらそう簡単に桃っちが納得するかはまた別な話じゃないっすか。それに許せない気持ちもあるっすから。」


そこまで言った時に李はハッと口をつぐみ、少し後悔した様に顔をしかめ、昂る気持ちを落ち着かせる。


「…許せない?」


「あ!いや!これはウチ自身の問題なんで気にしない方向でお願いします。」


李は無理矢理、歯を見せて笑い、美夜の詮索を断ち切った。


しかし、美夜は見てしまう。


当時の事を思い出したのだろう、歯を食いしばり、握り拳を作る瞬間を。


その気持ちさえ共有出来ない立ち位置に居る美夜は歯痒くもあり、疎外されている様で悲しくもあった。


自分とは直接関係は無いもののいずれは関わってくるこの検証会を一体どんな気持ちで見守れば良いのだろう、と彼女の心は葛藤に苛まれる。


桃の偽証を祈り、自身の幸せにこぎつくか。


それとも桃の真実を祈り、自身は撤退するか。


どちらにせよ誰かは傷付かなければならない状況に美夜はそれ以上喋らなかった。


そして、許さないと言った李は果たしてどんな感情を以て臨むのか、美夜には当然はかり知れずにいた。

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