第6話
バスに揺られれば、ものの10分程度で中心街に着くのだが、桃は敢えて徒歩での移動を選んだ。
雨が降りだしても不思議じゃないこの曇天であろうと桃は断固として歩いて中心街に行くと決めていた。
その理由としては勿論、雷太との会話が主たるものでもあるし、何よりこの10年間溜め込んできた想いが果たして本物なのか確かめたいという気持ちもある。
幼い頃の写真を見ればおおよその容貌は想像がつく。
ただ、桃にとってみれば外見なんて判断基準には入らない。
私にとって1番大事な事、それはらい君が私に対しての接し方、それに尽きた。
「さて、何処で飯食べる?」
流はもうすぐ賑やかな通りに出ようとする所で一度立ち止まり、二人に尋ねた。
少し傷心していた彼も桃との懐かしい出会いに癒されていったのだろう、昔話に華を咲かせつつ、いつも通りの彼に戻っている。
中心街、つまりはあの大きな鳥居が立っている山、『忌之山』に向かって円形上に大通りが等間隔に走っている。
しかし、駅やバスは碁盤の目の様な配置になっているのだから、慣れない人は大体迷子になる。
僕もその一人である。
だからこそ、ここは遊び慣れてる流大先生に任せようじゃないかと熱視線を送る。
そうすると今度は見てくれない雷太に顔を膨らませ、いじけながら凝視する桃がいる。
流は大通りに顔を向け、どんなお店があったか思い出していた。
雷太は気付いてくれない流に対し、呪いを掛ける様に顔をしかめ、両手を彼に向け指を蠢かせる。
桃も負けじと雷太に両手を向け、指を広げた。
「二人共、何してんの?」
ようやく、候補が見つかったと振り返れば、奇妙な動きをする二人の姿に呆れ気味に問う。
二人?と疑問に思い後ろを振り返るや、雷太はすっとんきょうな声を上げ、大袈裟に飛び退いた。
あわや大事になりそうな程、桃は彼に近付いていたからだ。
「何!?」
「何?って、らい君が見てくれないから、こっち見て~ってお祈りしつつ、あわよくば抱き付けたら良いなあって思ってたら段々近付いてた。」
まるで無意識にしてたかの如く話す。
「でも、らい君のせいだからね。」
「僕?」
「そだよ~。だって抱き付きたくなる背中してるんだもん。ね、流君?」
「そうかぁ?」
「ねっ!?流君っ?」
「……そうだな。雷太が悪い。」
気のせいか、雲行きが怪しくなっているのは僕の勘違いだろうか。
えーと、昼ごはんを何処にするか決めかねてて、流に委ねようと考えてたら、後ろは後ろで昼ごはんなんかより、見
て貰いたくて祈ってる。
所が僕の背中が無性に抱き付きたくなる雰囲気を醸し出しているが故に、抗えずに近付いてしまったと。
「これは罰としてハグの刑で満場一致だね、流君?」
流が彼女の味方をし始めてる。
「雷太、ごめんな。」
何で体を取り押さえられてるんだろ。
「約束も忘れてる。抱き付きたくなる背中をしてる。これはもう結婚して罪を償うしか方法は無いよね?」
どんどん近付いてくるし。
どういう訳か、唇も尖らせてるし。
いかがですか?皆さん。
羨ましいと思います?
僕には恐怖でしかないですよ。