第59話
雷太は果たして桃の言う『らい君』なのかを検証する為、参加しているメンバーにアルバムを取りに行くと伝えるや、各々もまたアルバムを来る月曜日に向け持参すべく動きだす。
と、言っても李や流に至っては自宅から登校しているので探す手間は無いにも等しく、問題は桃の方にあった。
「…どうしよう。」
自室へと戻った彼女は弱気で落ち着かず、何度も座っては立ってを繰り返し、机の上に置かれたアルバムを開く勇気が出ずにいる。
しかしながら、彼女の部屋の四方には雷太の様々な角度からの写真が飾られ、如何にも彼に関しての写真なぞ捨てる程あるようなその量なのに『らい君』の写真は一切無いのだ。
床に散らばる男物のTシャツを拾い上げ、そのままの流れで鼻へと押し当て香りを堪能しながらも徐々に追い詰められるかの様な時計の音に桃の不安は膨張していく。
意を決し、正座しアルバム表紙を捲れば、母親の几帳面な記録と共に集合写真が一面に飾られていた。
朗らかに懐かしさに浸れればいいのだが彼女にとっては苦い思い出ばかりで、雷太を探し当てる前にページを捲り等間隔に並べられた写真が飾られているのに彼の姿は一向に見当たらない。
これこそが彼女の得体の知れない不安であった。
何故か上手い具合に二人が揃っている写真が無く、唯一雷太に見せたあの写真だけなのだから、桃の勘違いである可能性を自ら引き上げてしまい、提案に乗ってみたは良いものの自身が証拠の薄い物ばかりな為に、嫌な予感がしてならない。
両親に連絡を取ってみた所でやはりアルバムは桃が所持している物しか無く、膝から崩れ落ちてしまいそうな程に落胆し、あんなにアプローチを掛けてた本人がまさか数少ない証拠を元に行動していたなんて恥ずかしさで萎縮してしまう。
そうなってしまうと心の拠り所を求め、体は自然と雷太の住む部屋へと向かって行く。
らい君だけが私の全て。
心にそう誓ったのはもう随分と前の事。
なのに離れざるを得なかった境遇をどう呪えばいいのか。
私の記憶は何時も鮮明にらい君の姿を捉えている。
だからこそ、間違える訳がない。
例え、長い間会えなくともらい君の面影はしっかりと残っているのだから。
揺るぎない気持ちだけが不安と立ち向かい、より頑強とする為に桃は雷太の部屋へと赴き、彼の衣服に着替え、より彼の匂いに包まれようと布団に潜り込み、ようやく訪れる判決の日を待ち望んだ。
瞳を閉じれば、らい君の思い出が駆け巡り何を喋り、どんな顔をしていたかが脳裏に浮かぶ。
そうして心に穏やかさが戻ると、陽気と相乗して眠気が彼の匂いと共に優しく桃を抱え込んだ。
思いは叶うと夢を見た。
らい君と二人手を繋ぎ、走る後ろ姿。
桃は楽しげにらい君を連れ回す。
嗚呼、またこんな日常がやって来るのだな。
桃はそう信じ安らかに寝息を立てていた。




