表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
それ、ホントに僕ですか?  作者: 海々深々魅々美
記憶は何処へ、記録は悲しく
58/109

第58話

電車に揺られる事三十分、其処から歩いて更に三十分と少しばかり遠いものの、過ごしやすい気温且つまだ朝早くというのも相まって疲労感は和らぎ、心に蟠る彼女達の思いを整理していれば、意外と直ぐ到着したと感じた。


三人にこの決意を伝えると皆が喜びにうちひしがれながらも何処か不安めいて、雷太を見送るのはいいが落ち着かず自然と霧散するように女子会を解散した。


「た、ただいまー。」


数日振りであるにも関わらず何だか他人の家に上がり込む様な気がして、戸惑いつつ玄関の扉を開けば懐かしい匂いと共に彼を出迎える。


「あら、ライ、早かったのね。」


「うん、意外とスムーズだったからね。」


廊下の奥、キッチンからパタパタと音を立て雷太の母親がエプロンで手を拭きながら、まるで毎日会ってるかの様に何時もの調子で話し掛けた。


「アルバムってどこだっけ?」


脱いだ靴を揃え、スリッパを履き、母親に尋ねながら居間へと向かい部屋の中央に据えられたソファーへと体を委ねる。


「アルバムなんてどうするの?」


電話で話した時もそうなのだが母親は彼の幼少時の思い出を話したがらず、記録も出し渋り、良い声色とは言えず、寧ろ仕送りを銀行振込にすると来ることさえ拒もうとする程だった。


「だから、言ったじゃん。友達と見せ合いっこするって。」


ソファーで気持ち良く寝てる短毛の猫を無理矢理、抱き起こしあたかも猫が喋っているかの様に前足を持ち、縦に振りながら抗議する。


「それは良いけど…全部倉庫に仕舞っちゃったわよ。」


「良いよ、自分で探すから。」


されるがままの飼い猫は悟りを開いているのか、遠くを見つめお腹に顔を埋める雷太への反抗を一切しなかった。


そうして充分猫と戯れた後、彼は腰を上げ、玄関で外履き用のスリッパへと履き替え庭に置かれた、小ぢんまりな鉄製の倉庫へと足を運ぶ。


解錠し扉を開けば蓄積された埃が風に舞い、雷太は咳き込みながら両手で埃を払い、きっちりと詰まった段ボール箱の山に覚悟を決めた。


ただ、その気持ちを邪魔する邪な存在が開封口の隙間からチラチラ見え隠れしている。


母親の性格上、ジャンルやカテゴリーに分けるのではなく段ボールの隙間という隙間を埋めていく為、見過ごす訳にもいかず、雷太はまんまと術中にはまってしまった。


アルバム探しをそっちのけで懐かしい漫画の数々をポカポカと陽気漂う庭の地べたに座り、幼い頃を思い出しながら読み耽る。


はたと気付き、誘惑を振り切り再び作業に取り掛かろうとすれば今度はソフビや戦隊ものの合体する玩具に気持ちは舞い上がり、またもやそちらに夢中になってしまった。


雷太を囲む様に散在する漫画や玩具に充実感は募り、満悦と心地好い日射しを浴びながら一望すると次第に瞼は重くなっていく。


ここ数日、まともに眠れていたのだろうか?と、考え始めれば気持ちは自然と単調となり、瞼は開かなくなっていき、呼吸は静かに落ち着いていった。


昔を思い返したせいだろうか。


子供の頃の夢を見た。


誰かと何かを約束する夢。


彼女の顔は靄がかかり、声はジャミングして聞き取れないのに僕は元気良く頷いている。


その後ろでは誰かが見ている。


誰かは分からない。


でも腕に抱えるあのテディベアには見覚えがあった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ