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それ、ホントに僕ですか?  作者: 海々深々魅々美
記憶は何処へ、記録は悲しく
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第56話

気持ちに負荷が掛かり過ぎれば、ふとした切っ掛けで突拍子も無い行動を起こすものなのだなと雷太は自身の部屋で意気消沈し、体を丸め蹲る桃の姿を見てのんびり考えていた。


それだけならまだ拗ねたとか落ち込んだとかで可愛らしい部分があるのだなと楽観的に捉えられるが、桃はそれだけでなく彼の体若しくは粘膜に触れたであろう衣装や生活雑貨を円形でしかも均等に並べ、その中心で蹲っているのだから、意味が分からない。


その横で二人は桃を慰めつつばつの悪そうな顔をして、彼に視線を送る。


結局、趣味の夜回りをしていた大家に誘われ、夜を大家宅へと過ごすのだが、その間ずっと恋愛とは何かを滔々と語り、頻りに雷太に同意を求めてくる為にゆっくりと一人で寝る事が出来なかった。


酒瓶片手に熱く語るその息遣いは酒臭く、酔いに負けたあの据わった目付きが恋愛に恵まれなかった恨み辛みを放出し、地雷を踏まぬよう慎重且つ手探りに進む根気の要る作業に雷太は疲弊していたが、この焦燥としつつも和気あいあいとした雰囲気には和まされる程で。


暫し無言のまま、桃がどう達振る舞うのかを眺める。


「ほら、桃ちゃん。雷太君が来たよ。」


「桃っち。ライだよ。顔上げなって。」


必死な呼び掛けにも応じない桃の底知れぬ落ち込み具合は恋敵である二人を心配させる位なのだが彼にとってはこの夜の経験が彼女達の仲を少しずつではあるものの改善へと進んでいるのだなと捉えた。


「桃、ごめんね。電話に出られなくて。今まで寝ててさ。」


雷太の呼び声でようやく、強固な球体はピクリと動き、徐々に顔を上げる彼女は上目遣いに彼を見つめる。


そして顔を上げきった時、そこには彼の下着をおしゃぶり代わりに咥えた桃があらゆる水を垂れ流し、懸命に泣き声を我慢した、くしゃくしゃな顔で雷太を迎えた。


「らい君、ごめんなさい~。」


恐らくそう言ったのだろう、しかし彼を見据えた途端に今まで塞き止めていたものが決壊し、盛大に泣き喚きながら話すものだから、言葉が崖崩れを起こし雑音にまみれていた。


「嫌われたと思った~。」


絶望に暮れたせいか、腰に力が入らず這うような形で叫びながら雷太の元へと近付いていく。


その這った後から何処に隠していたのかどんどんと彼の私物が転がり落ち、正にナメクジが這った跡の様な道筋となっていた。


「はいはい、ごめんね。直ぐかけ直せば良かったね。」


とうとう彼の胸元まで辿り着いた桃はそのまま顔を押し当て、腰に両手を回しわんわんと泣きじゃくる。


それを雷太は邪険にせず子供をあやすかの様に優しく髪を撫で下ろし、柔らかく言葉を紡いだ。


しかし、あんなにも近しい距離感であった美夜と李は一変して面白くなさそうに桃を見つめる。


それから李は淡白にもため息を吐き再び中途半端であった化粧をし直し、美夜は名残惜しそうにその場を離れ、台所へと向かい朝食の準備を始めた。


三人の自由奔放さに雷太は多少辟易しながらも、自分が蒔いた種だと思うと何も言えず、ただ桃が泣き止むのを待つしかなかった。

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