表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
それ、ホントに僕ですか?  作者: 海々深々魅々美
パンドラの箱は誰が閉じる?
50/109

第50話

「ねえ、桃っち女子会しない?」


放課後、雷太から「バイト先に来ないでね」と釘を刺され不機嫌に拗ねた桃は軽口で近寄ってくる李を訝しげに見つめる。


あれだけ雷太の前で恥をかかされた彼女は敬遠したい程、李が苦手となり少し身を反らし警戒しながらも曖昧とはせず、はっきりと断りを入れた。


「嫌なんですけど。」


「えー?そんな、拒絶しないでよー。」


しかし、李は嫌がる桃の腕をお構い無しに掴み無理矢理連行する。


「本当に勘弁してよ!」


そう言いながら掴んでいる指を引き離そうとするも、李の歩く速度に対応しきれず、上手く力が入らなかった。


「まあまあ、桃っち落ち着きなよ。たまには我慢とか忍耐とかしとかないと、この先、ライと付き合えないよ?」


雷太の事をダシにされるとまともな思考を働かせられない桃はまんまと口車に乗せられ、嫌々ながらも彼女の後ろを黙って付いていくしかなかった。


「って、何処に行くの?」


「んと、もう一人欠かせない先輩が居るじゃん。」


李だけでも随分と窮屈な思いをしているのに更に美夜まで加わるのかと考えると桃は気が滅入り、気持ちは一層沈んでいく。


旧校舎と新校舎を繋ぐ廊下を渡り、三階奥のこじんまりとした倉庫の扉にオカルト研究会と書かれた紙が貼られ、中ではごそごそと模様替えを試みている様な音が聞こえた。


「よく知ってるね。」


「まあ、ミヤセンとの関係は中学の時から知ってるし、盗み聞きしてたから場所も把握出来てたからねー。」


一切の迷いなく、此処に来れた事に桃は素直に驚くも李は退屈そうに呟き、扉の向こうに居るであろう美夜の存在を卑しく見つめていた。


雷太の隣に居る筈だったのに気付けば美夜がその役を担い、独占していたのを李は間近で見せ付けられていたのだから、苛立たしく感じるのと平行して自身の不甲斐なさが露となる。


かと言って強く出てしまえば自ずと美夜にとっての逃げ道は彼しかいないのだから桃同様扱いが難しくもあり、今回はその境界線を探るべく女子会を開こうと企画したは良いものの中々、扉をノックする勇気が出ずにいた。


「栗林先輩!入りますよ~」


しかし、臆しもノックもせず声だけ掛ける桃の行動に扉越しから美夜の素っ頓狂な声が漏れ、慌ただしく物が崩れ落ちる音まで聞こえてきた。


扉の隙間から埃が、次いで美夜の咳き込む声まで抜け出てくる。


李はその一連の動きに『ミヤセンは桃っちの事が苦手なんだ』と氷解するも口には出さず、笑って内心を誤魔化した。


「あと、えっと、桃ちゃ…さん。どうした、んですか?」


埃まみれの顔で豪快に扉を開けぎこちない喋り方で出迎える美夜の顔色は緊張で強張り、無理に笑顔を作っているみたいだが、追従笑いしてるようで薄気味悪かった。


「今から女子会やるんで来て貰えますか?」


「え、っと、いや、気持ちは嬉しいけど、行けるかはわからないと言うか、行けるような行けないような。」


抑揚なく話す桃の後ろで笑み笑みとした李を一瞥するや更に消極的になる美夜は扉の後ろに少しばかり隠れ、言葉を出そうにも桃の圧力で押し潰され、曖昧な返事をしてしまう。


「ミヤセン、行っといた方が後手に回らなくて済むと思いますよ?」


含みを持たせた言い方に反応するよりも、彼女の声色に美夜は酷く驚き、また懐かしげにその強張った顔を緩ませ、微笑みへと一変する。


「その声に変わった呼び名……もしかして李ちゃん!?大分、変わったから分からなかったよ。」


「まあ、大胆にイメチェンしたんで…って、そうじゃなくて女子会に参加した方がライともっとお近づきになれるかもしれないですよって言いたかったんですが…。」


「わあ、その髪型素敵だけど、セットするのに時間掛かるでしょ?それで注意されないって事は李ちゃん頭良いんだ。その上着とかも可愛いし。」


交遊が有るか無いかでここまで対応の差がでるのかと桃は傍らで見守り、グイグイと話し掛けてくる美夜に圧倒される李を嘲笑した。


私の事を辱しめた罰が下ったのだと桃は彼女たちのお喋りに割り込まず、傍観し自己満足に浸りながらも、もうバイトに勤しんでいるのかなと雷太の事を想う。


「兎に角、ミヤセンも強制参加ですから早く準備して下さい!」


息切れしながら宣う李に美夜は昔話に満足したのか、埃まみれの部室から荷物を取り出し、施錠した。


ふと、桃を覗き見するや美夜は笑顔をきゅっと締め、微かに口角の上がった口元で、小走りに部室の鍵を返却しに行く。


「あんな先輩、初めて見た。」


彼女の後ろを歩く、桃はたじたじとなり脂汗が額に浮かぶ李に話し掛けた。


「仲良くなるとね。結構饒舌だったりするし。」


ハンカチで汗を拭い、手鏡で化粧を確認しながら李はこれまでの軽口へと戻る。


「でも、らい君は私の物だけどね。」


例え知り合いの前でだけ心を開く人であろうと誰彼構わず喋れる人であろうと桃には一人の女性として勘定している為、はっきりと彼女は首尾一貫している事を口走った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ