第49話
雷太との昼食を堪能し、その余韻に浸りながら李は化粧直しをすべく、トイレへと向かった。
鼻歌混じりに個室へ入り、洋式便器に腰掛け一息吐き、気持ちを落ち着かせる。
「………よっしゃ。」
彼女は隣に聞こえないよう小さな声と控えめなガッツポーズで手応えを喜んだ。
思い返す程、気持ちは昂り小気味良くステップを踏み、彼の顔を想像するだけでニヤケ顔は止まらない。
「良かったー。久し振りに話したけど、戸惑わずに喋れたー。」
回想を終えるやホッと胸を撫で下ろし、雷太との関係性が小学校高学年の頃から全く変わっていない事に安堵する。
その頃から彼と直接的に会話する事が無くなってしまい、何時も遠くから眺めているだけの生活にピリオドを打てた事、そして構いたがりの桃の存在のお陰で自分の評価は良くなっただろう事に達成感を感じた。
「好感度上がったかなー。でもちょっときつく言い過ぎたかなー。」
トイレの個室で反省会を始めた李は一唸りした後、膝の上に肘を置き、掌に顎を乗せ、目の上のたんこぶの様な桃の存在をどう扱うべきなのか悩まされた。
「うーん。桃っちの反応が面白いから、ついつい調子に乗って煽っちゃったけどなー。ライもお人好しだから桃っちに甘いし、ウチが悪者みたいになっちゃったかなー?。」
唇を尖らせ訝しく眉間にシワを寄せ、甘い汁を啜る桃の現況に羨ましさと妬みを覚え、余計に自分の立ち位置の重要さが身に沁みる。
こうして考えている間にも女生徒の出入がある中で一室を独占し、考察に耽っていた。
「何で桃っちはそんな事だけ覚えてんのよ?もっと、他に思い出さなきゃならない事だってあるのに…。」
敢えてその事については触れず彼らと接したのは時期尚早と判断した為と、桃の執着したあの必死さが事実を知った時に訪れる自己喪失による錯乱を生む危険性、又は開き直りによる執拗した態度の激増を懸念したからであった。
それは当然、雷太にも二次災害を被る恐れもある故に桃を根絶から引き離さなくてはならない。
「不安要素はあの先輩だけだったのに、どうしてライにばっかり群がっちゃうかなー。」
一人は地雷、もう一人はハニートラップと位置付ける李の見立てにじゃあ、自分は?と考える。
「別にライに危害を加えるなんて有り得ないし、色仕掛けするでもない。ライの好きな事は応援するし、理解したい……ウチはライの盾なのか?でもなー、攻める時もあるし。まあ、ライにとって危険な存在でない事は確かだし、強要はしないから心の拠り所程度にはなるのかなー。」
長考のせいで下半身が痺れた頃にようやく我に返り、時計を見るや既に五時限目は始まっていた。
それ程、李はこの先どのようにして雷太との距離を縮めつつ二つの危険から守っていくか考察しているのに夢中だったのだ。
「もう、こんな時間かー。」
しかし、急いで行く気にもなれず、彼女は再び便座に腰掛けるや先程の続きをと考えに浸った。




