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それ、ホントに僕ですか?  作者: 海々深々魅々美
パンドラの箱は誰が閉じる?
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第48話

ひたすらに空腹との戦いに悶えながら受けた授業内容は当然、頭には入ってこない所か文章や図形が自然と食べ物を彷彿とさせ、一人で「この三角形には一体どんな具材が入っているのだろうか、又は海苔はどの角度から巻いていこうか」などと考えていた。


ようやく、昼の予鈴が鳴った頃には想像だけでお腹が膨れ、妙な満足感だけを味わう。


「ライー。お昼食べよー。」


李は右手に持つ弁当箱をちらつかせながら、ゆらゆらと近付くのだが、それと比例して廊下を忙しなく走る音も近付いてきた。


「らい君!お待たせ!」


肩で息をする程、全力で来たのだろう、桃は髪の毛や制服の乱れを直しもせず重箱を抱え、満面の笑みで彼に見せ付け、李には勝ち誇った顔をして悠然と彼の隣の席へと座る。


あの時はすがり付く程、あわてふためいていたのに予鈴が鳴る前に急に教室から走り去ったかと思えば、アパートへと帰り、昼食の準備をしていた事に雷太は呆れるしかなかった。


それでも作ってきてくれる、その気持ちは嬉しいのだが授業を抜け出してまでこさえてくるのは些か後ろめたさを感じ、喜ぶに喜べないと苦笑するのに、反応待ちをする桃のキラキラと輝くあの目が居心地を悪くして堪らない。


「淑女として、そして妻として当然の事をしましたよ。ささっ、あなたはお友達と昼食を取って下さい。私はらい君と愛の共同作業に取り掛かりたいんで。」


冗談めかして李を除け者にしようと取り繕うが、明らかに彼女の声色は真逆である。


しかし李は動じず、彼の対面へと腰掛け、可愛らしい弁当箱の蓋を開ける。


キャラ弁とでも言うのだろうか、全ての具材が動物調に施され、そのクオリティも高水準で有るのだから、桃は悔しそうに眺め、雷太は楽しげに見つめた。


「らい君らい君!」


負けじと桃も机をほぼ占領せんと重箱を広げ、全てをハート型にした多彩なおかずを彼に見せ付ける。


「す、すごいね。」


桃のお弁当のその圧力たるや、雷太への愛情がこれでもかと言わんばかりに前面に押し出され、見ているだけで満腹になりそうな程、拘りが強かった。


何かの催事かと思わせるそのおかずの種類に流の方が食い付きが良く、羨望の眼差しで目まぐるしく雷太や桃、そしておかずに視線をさ迷わせた。


「流君も食べて良いよ。勿論、あなたも。私、器量の大きいらい君の妻なので、全然気にしないから。」


桃は一々、自慢気に口角を上げ李を挑発し返す。


しかしながら、李は一手先まで呼んでいたようで戸惑う事なく大声で叫んだ。


「みんなー!桃っちが作り過ぎちゃったから、お弁当食べて良いってよーー!」


それを聞いたクラスメイト達は一気に桃の周りへと群がり、我先にとおかずを奪い取っていく。


「え?いや、あの…。」


見てくれの良い桃の手の込んだ料理に女子は感嘆し、男子は歓喜の声を上げ、桃を混乱させた。


どう対応すれば良いのか分からずしどろもどろになりながら、受け答えしていればあっという間に重箱の中身は空っぽになり、桃の嫉妬に燃えた仕返しは不完全燃焼のまま、沈下する。


「らい君の為に作ったのに……。」


しょんぼりと悲壮に暮れる桃をよそに李は雷太にサンドイッチを手渡した。


悲しんでいたのも束の間、今度は怒りに燃え、あらゆる障害をもたらす李を睨み、机の下では体を戦慄かせる。


「器量の大きい桃っちはこれ位では怒らないよね?お嫁さんなんでしょ?だったら来客者には料理を振る舞わないと。良い経験になったじゃん。」


ハッと何かに気付かされたのか、それともお嫁さんと言う言葉が聞いたのか、桃は上機嫌に雷太にしなだれかかり、幸せそうに和む。


雷太はあの桃の扱い方の上手さに感心してしまい結局、李に理由を聞けないままお昼休みは過ぎていった。

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