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それ、ホントに僕ですか?  作者: 海々深々魅々美
パンドラの箱は誰が閉じる?
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第44話

もう夏が前日乗り込みしているのではと疑いたくなる眩しい日射しに頬を伝って落ちる汗の雫、そして繋いだままの手の隙間からも汗は滲む。


唯一の救いは風がまだ心地好い涼しさを保っている事で、首筋を通る風に悩みさえ吹き飛ばしてしまう程、暑くなった体を速やかに冷やしていた。


一頻り号泣した後に、桃は漸く落ち着きを取り戻し何時もの快活な彼女へと戻りつつあるも不安は拭いきれず、現にこうして恥ずかしいながらに手を繋いだまま登校するに至ってしまった。


周囲からの冷やかしや嫉妬、あらゆる視線で囲まれながらの登校に雷太は些か気まずく感じるも桃の事を考えればと、くっと堪える。


「ねえ、らい君。周りからはどう見えてるんだろうね?」


髪の毛で泣き腫れした顔を隠し、照れながらも置かれている立場に満足しているのか控えめに笑い、こう言わせたいのだろうと彼は直ぐ返答した。


「引きこもりを無理矢理、登校させてるのかな?」


「違うじゃん。カップルだよ!」


不満に頬を膨らませ、眉間に皺を寄せる桃の姿に雷太は一先ず安堵し緊張感を和らげる。


しかし、安心して握る力を緩めれば即座に彼女から握り締め悲しそうに見つめてくるのだから、まだ心は癒えてないらしく高校に着こうとも放さなかった。


クラスに入れば茶化した声で迎えられ、どんどんと誤解が突き進んでいかないか心配なのに彼女は満悦と口角を上げ嬉しそうに肯定も否定もせず、ただ受け入れている。


「おはー。随分と見せ付けちゃって。」


「おはよう。そんなんじゃないって。」


流も一部始終を見ていたのか、したり顔をして如何に二人の熱々で割り込めない雰囲気を醸していたかを語り始めた。


雷太は聞き流しながら彼の誇張話を随時否定しているのだが桃は賛同しつつ、あれこれ聞き出そうと相槌を打つ。


勿論、その間も手は握りっぱなしの状態で。


「今日の放課後ね、らい君とデートするんだよ~。」


客観視された惚気話に体をクネクネさせながら言いもしない事を吹聴する彼女に雷太は自身の置かれた立場を利用しての言動にズル賢さを覚え、罪悪感は薄れ少しばかり苛立たしさを感じた。


「言ってないし、今日はバイトだし。」


「え~?あんな事する人の所でバイトしてたら、らい君ダメになっちゃうよ?だから、今すぐバイトを止めて、もっと私に尽くした方が有意義に時間を費やせるよ?」


雷太は一瞬、確かにと納得しかけるも何か根本的な面で間違ってる気がして頷きかけた頭を止めた。


桃は確定していない事実に基づき行動しているのであって、それに全て付き合っていたのでは過去を検証しなくとも彼女のらい君を刷り込ませられてしまう恐れがあるのではないかと頭を過る。


そうすれば、例え彼がそうでなくとも代理としてこれからの高校生活を全うしなくてはならない可能性を帯びる。


結果、桃の最終目標である結婚に行き着く危険性を伴う。


「駄目だよ。確認出来るまではある程度に抑えないとかないと本人に会った時、大変になっちゃうよ?」


そう言い、雷太は手を放そうと試みたものの今度は腕ごと抱かれ、更に膝の上にまで座る始末で彼女はどこ吹く風か、重大な事を言っても気にしていなかった。


「その時はその時だよ。まあ、ほぼ確定してるけどね。」


勝ち誇った顔で彼女は生徒手帳に挟まれた写真を取り出し、二人に見せる様に机の上に置いた。


それは二人の園児が色違いのテディベアを抱えた写真。


一人は毛先だけ黒いピンクゴールドの女の子。


そしてもう一人が左目の下に黒子がある男の子。


追い打ちとして彼女が写真を捲り裏側を見せれば『らい君と』と書かれていた。

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