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それ、ホントに僕ですか?  作者: 海々深々魅々美
パンドラの箱は誰が閉じる?
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第43話

「桃、早くしないと遅刻するよ?」


すっかり意気消沈してしまった桃は快活とも言える雷太への熱烈なアプローチをせず、お淑やかでアンニュイ漂う女の子へと変貌していた。


「…うん。」


彼が逃げた事が余程、衝撃的であり信頼を打ち砕かれたとも捉えられる行動であった為に彼女が今まで培ってきた人間不信は目を覚まし、疑念が心を揺さぶっていた。


大家のお陰で大事には至らなかったものの代償は大きく、桃を再びひとりぼっちとさせ、雷太は少なからず罪悪感を抱いてしまった。


そんな些細な事と思うかもしれないが彼の一挙手一投足全てに彼女の一喜一憂が委ねられていた。


笑みは消え失せ、辛く彼を見つめる瞳には情欲の炎は鎮火し、どうして良いのか分からない不安が彼女を苦しめる。


「あ…。」


今の桃を見ていると昔の美夜を彷彿とさせ、そして昔の、溢れんばかりの自身の求める正義への情熱を甦らせた。


高校生となって気付いた自身の考えた正義は結局、極度の構いたがりでありはた迷惑だったのかもと、そんなごっこ遊びを止めたつもりだったのに体は自然と彼女の手を握り締める。


「……ごめん。僕も伝えれば良かったね。」


始まりは些細な事だったかもしれない。


けれどもそんな小さな事でさえ、彼女は乱されてしまうのをどうして見抜けなかったのかと罪悪感は込み上げ、今更ながらに謝るしかなかった。


「違うよ。私が全部悪いよ。私がもうちょいしっかりしてれば……。」


桃の求める世界は雷太だけ側に居てくれたら、それだけで良い、単純ながらもそれさえ手に入らない難しい現況の中をもがいてきたのだ。


我慢を貫いてきたからこそ彼を目の前にした時、抑制の効かない欲望が飢えた心を満たそうと突き動かしてしまう。


「でも駄目なの。らい君を目の前にすると何も考えれなくて、頭がぼ~っとして、本物に触りたくて。何もかも要らないから、ただらい君が欲しいって思っちゃって。だから、他の女の子と一緒だと思うと何で私じゃないだろう?私の何かが駄目だから一緒に居てくれないじゃないかな?とか考えちゃって。頭は真っ白なのにらい君の事ばっかり考えて、パニックになっちゃって…。」


震えた声で心情を吐露し、空いた手で前髪をかき分ける桃の両目からポロポロと涙は流れ落ち、赤みがかった鼻と泣き腫らした瞼が大家と朝美による策略とは言え、身勝手に動き過ぎたと雷太は再び反省した。


「いや、やっぱり僕が悪いよ。」


握り締める力を強め、寂しい思いをさせた事、健気に待つ徒労に報えなかった事、何よりも桃の気持ちを真摯に受け止めなかった事、全てをひっくるめ雷太は再度謝る。


「本決まりじゃないからって桃の気持ちを真剣に受け止めなかったのがそもそもの原因だよ。だから、最初から僕が悪かったんだ。」


塞き止めていたものが爆発したのか、彼女はいきなり抱き付き声を上げて泣き出してしまった。


「そうだよ!違っても良いから、少しの間だけでも私に夢を見させてよ!」


疑念は何時も彼女につきまとう。


古く朧気で小さな彼しか知らない思い出を頼りに、探し続けたのだから人違いした事は幾度としてあった。


その度に傷付き、自分の殻に閉じこもり風化と美化を繰り返した記憶はもう当てになどならない。


「でも、桃の知ってるらい君じゃなかったらって考えると残酷過ぎて…。」


「それでも良いの。」


民家が建ち並ぶ、幅の狭い道で奇異の目で見られる二人。


その後ろ姿を羨望の眼差しで見られていた事に雷太は気付けず、ただ桃をあやし、落ち着かせていた。

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