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それ、ホントに僕ですか?  作者: 海々深々魅々美
パンドラの箱は誰が閉じる?
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第41話

ただ店にあった洗髪料や衣料用洗剤を使っただけなのに、彼女にとっては禁忌に触れるかの如く、許されない様子で顔を涙で歪ませ、無言のまま雷太の衣服を剥ぎ取ろうと強引に掴みかかる。


浴室の狭い密室の中で彼の行動は制限され、かといって女性に暴力などもってのほか、剥ぎ取られないようにと抵抗するだけで彼女の悲壮に暮れる表情を見ると罪悪感ばかりが胸を締め付けた。


「らい君脱いでよ!お願いだから!」


泣訴し、身体中が液体まみれの彼女はこの一晩で雷太との距離が大きく離れてしまった事、そして美夜を甘く見た為に軽率な行動であった事を悔やみながらも必死にすがり付こうとする。


だからこそ彼女の知る彼に戻す必要があった。


「その匂いは嫌いなの。だから、早く洗ってよ。私を置いてかないで。またひとりぼっちは嫌なの!」


気が動転し、雷太の理解を得られない言葉の羅列を連ね、ほんの少し前であれば彼の体を触れただけで喜んでいたのだが思い入れのある匂いを優先し、あれだけ触れても顔は強張り、絶望に落とされる寸前にまで顔色は悪くなっていく。


自身が落ちぶれようと蔑まれようと桃は一向に構わない。


しかしながら、雷太に関しては決して譲れない頑なな理想を持ち合わせ、それに準じた、いわば彼女の幼い頃の思い出に沿った彼に近い状態でなければならないしがらみを抱えていた。


長年、離れていたからこそ急な変化を恐れ、雷太について無知の部分があれば不安が思考を卑屈にさせる。


だが、そうでもしないと桃と雷太との繋がりは薄く、直ぐに途切れてしまうのだ。


「やだ、やだやだ。もう我慢出来ないよ。」


美夜と長時間、側に居たからこその安心感を桃は酷く嫉妬して腹立たしくて、何よりも羨ましかった。


そうして訪れる一つの解決策。


桃は衣服を脱ぎ捨て裸体をさらけ出すや、雷太は両手で顔を隠し体を反転させた。


彼が桃を連れ込む形で浴室へと入ったせいで、抜け出す事も出来ず、見ないようにと尽力する事しか出来ずにいるのに彼女はそれを知ってか露にしたまま、臆しもせず近付いていく。


桃の荒い呼吸音やひたひたと響く足音、そして微かに壁に映る影が雷太の緊張感を煽り、古典ホラー映画ばりの演出を生で体験していた。


脳内からは不安を助長させるBGMが流され、更にと加速しだす鼓動の音を携え、彼の貞操を脅かす存在の生暖かさを背中に感じ始める。


見ちゃいけないと目を瞑り、且つ両手で塞げば視覚以外の感覚は研ぎ澄まされ、背後から抱き締めようと伸びる両手の気配とうなじに伝わる熱のこもった吐息、そして彼女の甘い香りが直ぐそこまでそ迫っていた。

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