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それ、ホントに僕ですか?  作者: 海々深々魅々美
違うは何時かの齟齬からか
38/109

第38

夜は夜で忙しいこの喫茶店に果たして客として入るべきか、又はスポットとして働くべきか悩む所ではある。


と言うのも遠目から美夜が臨時として給仕に駆り出されているのが見えた為、雷太は不完全燃焼のまま別れた先程の事を考えるとどうにも尻込みし、入店さえ躊躇した。


しかしながら体は冷え、お腹も空き、あわよくば賄いを恵んで貰おうと画策していたが故に、今更コンビニ飯やチェーン店で収めようと思案した所で経済面を考慮すれば、少しでも抑えた方が後の為になると却下した。


確実に賄いを貰うのであれば、やはりスポットとして働くしか無いと結論付いた雷太は裏口から静かに入り、先ずはと美夜の父親に近付いた。


これが朝美に見付かりでもしたら格好の餌食となり、色々と弄られる事は確実であり、未だに美夜もいるのだから拍車が掛かる。


「すいませ…。」


受け付け口で会計を終え一息吐く父親の後ろかろ掠れた声で呼び掛けようと近付いた途端、後ろから抱き込む様に彼の右肩から左の脇腹に腕を回し、したり顔をする朝美が隣に居た。


「いやー、そろそろ来る頃だと思ってたよ。」


そう意味深に言いながら強引に厨房へと引き連れる彼女からは随分とお酒臭さが増して、上機嫌にヘラヘラと笑っている。


「美月叔母さんも時には役に立つねー。」


「どう言う意……。」


雷太が疑問を投げ掛けようとした瞬間に何となく一連の出来事が偶然ではないのだと気付かされた。


「朝美さん……図りましたね?」


打ち合わせ時に料理を出さなかったのも、彼の部屋で口論していたのも全部、またここに戻ってくる事を見越した上での策略だったのだ。


「そうだが。残念ながらわたしではなく、あの美月叔母さんが、仕組んだ事なんだなー。」


厨房まで辿り着くや椅子へと座らせ、既に仕込んでいた賄い飯を彼の前へと運んできた。


「男日照りの叔母さんから、まさかこんな計画を思い付くなんて……悔しいねー。」


朝美は対面に椅子を置き、そのまま立ち去って行く。


ただそれもほんの数十秒程度で、今度は給仕衣装に着替えた美夜を連れ、先程置いた椅子へと座らせた。


美夜は接客の為に分けた前髪を照れながらも速やかに元の形へと戻し、はにかみながら頬を朱色に染めていく。


「こ、こんばんは…じゃなくて、さっきは恥ずかしい所見せちゃってごめんね。」


美夜は苦笑いしては姉の存在を警戒しているのか周囲を気にし、雷太を垣間見ては髪を梳き、頬を染めては着衣の乱れを直したりと照れ隠しが多かった。


「大丈夫ですよ。朝美さんは僕に対しては何時もあんな感じですし。」


姉のありがた迷惑な言動に困りながらも、それを否めない美夜は雷太の言葉を少々受け入れづらい部分があるも、彼には見せず、静かに微笑んだ。


彼もまた微笑み返した後、賄い料理に手をつけ始めた。


美味しそうに食べる姿を見てると自然と夫婦生活はこんな感じなのかな、と美夜はふと想像する。


どれだけ近付いたとしてもそれ以上の行動が出来ない彼女の臆病さに彼女自身、不甲斐ないと嫌気がさしても改善さえ儘ならない。


それほど、根底に染み着き生きてく術と化した美夜の心を守る、びくついたお城。


手を伸ばせば、届くのに拒まれたらと考えると指さえ動かなくなってしまう疑心を姉は必死に振り払おうとあの手この手で試行錯誤してくれてるのに、美夜は何よりも雷太との繋がりを失いたくなかった。


だからこそ、朝美を悪役に見立てる事で彼との連帯感を保持したく、肯定して欲しいのだった。

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