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それ、ホントに僕ですか?  作者: 海々深々魅々美
違うは何時かの齟齬からか
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第36話

「……でね、ここの社にはその時に落ちた鬼の爪が祀られてるんだって。それはね、鬼を遠ざけるんじゃなくて神様として讃える事で嫌う存在じゃなくて迎え入れてしまおうと修験者の提言でそうなったんだって。そうすれば、悪さをしに来るんじゃなくて憩いとしてこの場所を訪れるらしいよ。それとね……。」


美夜はオカルト話に華を咲かせるや徐々に気持ちは舞い上がり、前のめりとなり嬉しそうに雷太に日曜日に訪れる予定地である、忌之厄災山の頂点に聳える鳥居の真下、そこの小さな社の歴史を話している。


地元周辺に住んでいるとどうにも貴重さは失われ、そうした町の歴史や逸話を疎かにしていた彼にとって、まるで他県の観光地の話をしているようで新鮮味があった。


朝美からの料理を待つ間、机上には歴史資料や観光マップを広げ、どのような経路を辿りそこへ向かうかをマーカーでなぞり、声色は楽しそうに明るい。


話と地図に夢中でまさか二人の距離が、鼻先がぶつかる程近付いていたとは思っておらず、お互いの前髪が交錯しているのに気付いた瞬間、示し合わせたかの如く二人は勢いよく離れた。


「ご、ごめん!話に夢中になっちゃってて…。」


「いや、僕の方こそ……。」


お互いに謝罪し合い、そうして訪れる静寂には気まずさがない交ぜとなり、美夜は足は静かに椅子の下に巻き込む形で下がり、チラチラと雷太を見ては恥ずかしさに顔を俯かせる。


しかしその沈黙を破るようにボリボリと何か固い物を噛み砕く音が聞こえ、両者はふと顔を向ければ朝美が煎餅菓子をつまみながら入り口付近に立っており、壁に備え付けられた簡易のテーブルに置かれたお酒を一口飲んでいた。


「…何してるんですか。」


「ピーピング。」


朝美はガサガサと袋から煎餅を取り出しながら悪びれもせず二人の様子を眺めていたらしく、その証拠に飲み干した缶が何本か。


彼女に気付かない程まで彼らが盛り上がっていたのだ。


「仕事は?」


「美夜ちゃんの為に父さんに丸投げさね。」


今頃、美夜の父親がてんてこ舞いなのだろうか、と心配するも朝美の存在が邪魔し余計な勘繰りを入れてしまう。


「何処まで見てました?」


「あれ。えーと、もうちょいで二人がチューするんじゃないかってとこまで。いやー、冷やかしで入ったつもりだったんだけど、二人とも熱々で。あ、これは割り込んじゃいけない空気だわ、なんて思いながらも美夜ちゃんが奮闘する姿が可愛くて、ついつい見てたくなってね。」


「お、お姉ちゃん!」


雷太をからかいつつ、良からぬ方向へと流そうとする朝美の策略に美夜はまんまと引っ掛かってしまった。


「まだ、そんなつもりじゃ。」


「美夜ちゃんはスケベだなー。まだだなんて、じゃあわたしが居なかったらチューしてたのかな~?」


つい口走ってしまった言葉に朝美は敏感に反応し妹を困らせる。


美夜がまだ中学生の頃には心配ばかりして冗談なんて言わなかった朝美がこうして砕けた対応をするようになったのも全て彼が関わっている事に彼は気付かない。


「朝美さん、美夜先輩が困ってるじゃないですか。」


「…雷太君、美夜ちゃんに足りないもの、それは一押しする勇気だと思うんだが、どう思う?」


朝美を制しようと試みるが矛先は雷太へと向くだけだった。


「と、言うと?」


「美夜ちゃんは雷太君にべた惚れだ、ってのはもう態度から見て明らかだと思うのだが…。」


「お姉ちゃん!!」


「まあまあ。雷太君も美夜ちゃんの事を好いてるみたいだが、どうも何かが引っ掛かってるのかな。先輩後輩の関係のまま立ち止まってるよね。だから、雷太君から告白を待つんじゃなくて、美夜ちゃんの方からモーションを掛けてかない事には何も始まらない。ただ、正攻法では恐らく雷太君は通用しないだろうから、手っ取り早く既成事実でも作らせようとね。考えた訳だよ。」


何をそんな自慢気に言うのかと思えば、結局は桃と思考は似通り、更に余りにもおおっぴろく話したせいで美夜はぐずつきながらも姉に怒りの視線を向けている。


「お姉ちゃん!余計な事しないでよ!」


力強くテーブルを叩き、そのまま立ち上がると朝美を部屋の外へと連れ出し、喚きながら口論していた。


外は暗く、街の灯りが綺麗に並ぶ頃、未だに料理は来ないのであった。

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