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それ、ホントに僕ですか?  作者: 海々深々魅々美
違うは何時かの齟齬からか
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第34話

放課後の騒がしく雑多な人混みをすり抜ける様に小走りで正面玄関口に向かえば、そわそわとして頻りに時間を気にしたり、帰り行く生徒達を見たりと落ち着かない彼女が玄関の隅の方で居たたまれなさそうに立っている。


それでも美夜はオカルト雑誌を小脇に抱えているのだから、主張したいのか気配を消していたいのか分からない。


ただそれでも嬉しそうに口元を上げ、三つ編みの解かれ緩くウェーブの掛かった後ろ髪を弄ったりと、雷太との心霊スポットへ行くのを待ち遠しいのだろう。


「すいません。お待たせしました。」


軽く息を切らしながらも彼は美夜の元へと駆け寄り、謝った後に何度か深呼吸をして脈打つ鼓動を落ち着かせた。


雷太もまた、久し振りの出来事に乱れた呼吸は整ったものの鼓動はよりはっきりと彼の胸を踊らせる。


楽しみだったのは美夜だけじゃなかったのだ。


「ううん。全然全然!わ、わたしも今来たとこだし。それに休日じゃないから終わり時間とかも決まってるし仕方ないと言うか。今日は日曜のデートの為の……じゃなくて、ホントに待ってないから謝らなくても大丈夫だから。」


いざ、彼を前にすると美夜の弱々しさは一層顕著となり、俯きながらも辿々しく且つ慌ただしく早口に喋り、彼女のちょっとした希望を口走ってしまうあたり、その緊張ぶりが窺えた。


美夜の申し出を喜んでお受けする事をメールで伝えた所、直ぐ様彼女から返事がきた。


それによれば夜遅くに心霊スポットに行くらしく、ルートの確認やその他準備物を調整する為に今日集まって話し合いましょうとの事だった。


「えっと…バイト、大丈夫だった?」


「ええ、事情を話したら快く承諾はしてくれたんですけど……。」


「けど?」


バイト先は美夜の父親が経営する軽食喫茶であり、美夜の姉である朝美も働いている。


それが意味する事。


「話し合いはあそこでやるのを条件とされまして…。」


「んん~。まあ、お姉ちゃんらしいね。仕方ないよ。」


どうして朝美は妹が絡み出すと甘々になるのだろうか。


メニューの変更や動線を考慮したテーブル席の変更、時間帯やニーズに合わせ微調整の多いこの軽食喫茶は常に朝美が考えている為に休みを貰うには一週間以上前に申請しなければならない。


従業員の数を念頭にそれぞれが二度手間や手持ちぶさたにならない様にと朝美は合理主義に傾いている。


しかし、いざ妹が関わりだすとそれさえ放っておいてそちらに尽力するのだから余程、美夜を溺愛しているのだなと感じた。


「じゃあ、お姉ちゃんにメールしてとびきり美味しいの作ってもらうね。」


そう言いながら不器用に携帯電話を弄る美夜の後ろで雷太は、あのイメージから朝美の妹への文面にはふんだんに絵文字やら顔文字やら使われてるのかな、と想像していた。


あの日だって、美夜先輩が苛められて事を知った時には誰よりも悲しんで、悔やまれて、心配して、怒って、そして感謝された。


自分の事は何一つ喋らないのに美夜先輩の事となるとマシンガンの如く話題は尽きず、常に不機嫌そうに顔をしかめていても美夜先輩の話の時だけ本来の和らいだ顔付きになっていた。


「雷太君、お姉ちゃんが特別な席を用意してくれてるって。」


だからこそ、嫌な予感しかしないのだ。


超シスコンに合理的思考が組合わさった時、一体どんな事が待ち受けているのだろうか、と雷太は身震いする。


「じゃあ、行こっか。」


と、美夜は微笑みながら空いた手を差し出す。


「あの……。」


「…!あ!ああ!ゴメン、雷太君。つい、癖で……。」


彼の戸惑いを見て美夜はゆでダコの如く赤面し、素早く手を引っ込め、ひきつった笑みをして必死に誤魔化す。


彼女は雷太に一人じゃないという、見える形として何時も下校中に手を繋いで貰っていた。


そんな事をしているから流にも誤解される訳で。


「まだ怖い?」


雷太は恥ずかしさで今にも泣きそうな美夜に優しく聞いた。


そして少しの間があり彼女はゆっくりと頷き、恐々と再び手を差し出した。

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