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それ、ホントに僕ですか?  作者: 海々深々魅々美
違うは何時かの齟齬からか
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第27話

朝早くから騒々しく階段を駆け下る音はまるでドラムロールの様に緊張感と煽動感に満ちていて、雷太の矛先は桃にでは無く大家に向けられていた。


仕事明け、朝帰りの大家は現在就寝中であろうがお構い無しに彼は玄関の引き戸を叩き、未だ電池交換されていないインターホンもついでに連打する。


「おい!クソババア!何て事してんだ!」


雷太の言葉遣いが悪くなるのも仕方がない。


何故なら、雷太と桃の部屋の鍵が一緒だと言うプライベート無視のあるまじき処置に見舞われたからだ。


執拗な位に叩き叫んだお陰か、引き戸の向こうから先程の雷太の足音なぞ足元に及ばない、地響きとでも言うべき足音が雷太の決意を容易に萎ませていく。


そうして乱暴に開かれた引き戸の奥の暗闇から突如として、細長い腕が飛び出し雷太の頭部を鷲掴み、地獄の唸りと形容したくなる低音が彼の威勢を簡単に削いでいく。


「誰に向かって口きいてんだ!?ババアは良いとしてもクソは許さねえぞ!」


奥から顔を出した大家。


彼女の顔は化粧を落とさずに寝たのだろう、所々布団で拭われてしまい、斑に残っているその姿は形容し難い恐ろしさとなっていた。


「ババアは誰だって、いずれ訪れるから仕方がないけど、あたしは人間様だぞ!クソとは何だ!クソとは!?」


こういう時はババアの方に着目するんじゃないの?、と雷太は徐々に痛くなっていく頭が現実逃避したくなるのか横道逸れた事を考えるも、当然だが痛みが勝っていた。


「痛たた!すいませんでした!」


こうして、謝りながらも頭を締め付けられ、且つ説教され再び謝るを繰り返しをかれこれ十分程続けられた。


「で?暴言吐きに来たの?」


「じゃなくて、これですよ。」


しっかりとこめかみに指がめり込んだ跡を付けた雷太はやっと自身の目的である鍵を大家に見せ付けた。


「…鍵だね。」


「鍵ですけど。どうして、隣の部屋の鍵と自分の部屋の鍵が一緒なんですか?」


大家は彼の問に対し少し考えた振りをした後、自慢気に表情を勝ち誇らせ答えた。


「あたしは考えた。マスターキーが一杯あるってのも格好いいけど、いざ使うとなった時しどろもどろしてたら情けないでしょ?だからこの際、全部同じにしちゃおうと。そうすればマスターキーは一つだけ。何て良い発想なんだと思って早速行動に移したまで。誰も自分の鍵で他人の部屋の鍵が開くとは考えないから盲点を突いてみたんだけど、どう?頭良いでしょ?」


「こっちとしては甚だ迷惑ですけどね。」


「おいおい。もし誰かが災難に遭った時に即助けられるんだよ?メリットしかないでしょう!」


「こっちはもう災難に見舞われてるんですがね。」


大家はいまいち納得していない様子だが、もう飽きたのか諦めたのか「寝る」とだけ言い残し、引き戸を閉め施錠し暗闇の奥へと消えていく。


雷太は相手にされない事に苛立ちを感じるよりも呆れて、がくりと肩を落とし自室へと戻っていく。


唯一の砦であった鍵と言う物理的障壁が無くなり、ほぼプライベートは無いのだなとこの先を考えると悲壮に暮れるしかない。


既に美味しそうな匂いが換気扇から吐き出され、楽しそうな鼻歌まで聞こえてくる現況を端から見れば羨ましい事なのだろうか。


けれども、雷太は開けるのを戸惑ってしまう。


自然と心は安息を求めよと美夜の事ばかり考えていた。

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