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それ、ホントに僕ですか?  作者: 海々深々魅々美
再開は決意を込めて
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第17話

「流には何度も言ってたんだけど、栗林先輩とは付き合って無いからね。」


「へぇ~、栗林って名字なんだ~。」


しまった。


もっと端的に伝えれば良かったのに、これじゃ、火に油を注いでしまっている。


「どんな先輩?可愛い系?綺麗系?背は高い?低い?」


「いや、あのさ……。」


「結構、すらすら名字が出てきたって事は、大分親密だったのかな?だから、あんな露骨にボディータッチしても反応が薄いんだ?と、なると私の為に残してた初体験とかも済ましちゃってるとか?」


太陽が燦々と輝いているせいだろうか、額から汗が滲み出てくるのは。


ただ、訂正しようと言葉を紡ごうにも、桃はマシンガンの如く栗林に関して、更なる情報を集めるべく多方向から質問を投げ掛ける。


彼女の質問に狼狽する雷太を見るや、妄想は加速度を増して危険な方へと突き進む。


「やっぱり、そうなんだ。となると、らい君を狙う人は私だけじゃないのは確か。どうしようらい君?らい君を表には置いておけなくなっちゃうよね。ちゃんと、筋の通る正当な理由から、らい君を家に閉じ込めるしかなくなるけど、文句は言えないよね?」


「いや、聞けよ。」


鼻と鼻がぶつかり合う程、近く瞳を覗き込む桃の突飛且つ恐怖感満載の行動に気負わされながらも何とか、短めの言葉を発した。


「栗林先輩が苛められてたから、色々あって守る事になったの。だから、一緒にいる時間が長かっただけ。それだけだから。まったく、お前も話を最後まで聞けよ。」


「お前なんて………なんか夫婦っぽいね。」


何か言い返そうかと、言葉は喉元まで込み上げてきたが桃の大分ずれた思考回路では、また良からぬ方向へ転がりかねないと、雷太は彼女の主張を無視して、歩き続けた。


昨日とはうってかわっての晴天。


雲一つ無い青空は一体、誰を祝福して太陽を照らすのだろうか。


鳥たちが囀ずるのは、何を囃し立てているのだろうか。


桃の恋心なのか、はたまた雷太の日常か。


「話は変わるけど、らい君も連絡先教えてよ。仲間外れされてるみたいで嫌なんだよね。」


拗ねた様に口を尖らせ、不機嫌に彼の後ろを小走りで歩みより、再び手を握る。


「イタズラしないならね。」


「イタズラって?」


流石、愛に忠実な彼女は、これから起こりうる事態に気付けていないみたいだ。


「メールとか電話とか。」


「あ~。大丈夫大丈夫。私も節度位、弁えるから……そ~だな~……大して使わないと思うから。まあ、らい君から教えてくれなくても流君に教えて貰うし。」


あっけらかんと喋る桃の後ろ姿に見える禍々しく邪な空気に雷太は少し身を引き締める。


雷太の為なら手段を選ばず、雷太の為なら何をも厭わず、雷太の枷が無いのなら遠慮はしない。


そこまでの執着心が彼女の顔を一瞬、腹黒くさせた。


その瞳は薄暗く、全てを吸い付くしてしまう。


そんな危険な橋の上で成り立つ恋慕を果たして、僕は渡るべきなのか。


恐る恐る、携帯電話を取り出す雷太の左手を凝視し、一角が現れた途端、ひったくるかの如く強引に携帯電話を奪取する。


無表情のまま、携帯電話を弄る彼女の瞳から光源は消え去っていく。


「女の子の連絡先は無し……うん、良い傾向だね。」


母親以外で女性からの連絡先が入っていない事を確認するや、桃は普段の声色で雷太に携帯電話を返し、その代わりとして待ち受け画面や連絡先と桃一色に染められてしまった。


こんな写真を何時撮ったのだろうか、化粧から撮影アングルまで幅広くこだわりが見てとれ、彼女の素材の良さが色濃く映えでている。


呆然と画面を見つめていると、早速彼女からメールを受信した。


したのは良いが受信音が鳴り止まない位、何度もメールが流れ込んでくる。


桃は笑顔のまま雷太の反応を楽しむ様に佇み、携帯電話を触る素振りすら見せないのだから、余計に怖さが増すばかり。


今までの気持ちを溜め込んでいたかの如く届くメールの数々の一つを恐る恐る開けば、画面一杯に並ぶ文字に彼は軽い立ち眩みにあった。


「どう?」


桃の意味深な質問が横から囁かれる。


額から目尻の脇を戦きながら流れる汗が、太陽に包まれた体にはとても冷たく感じる。


だのに心は寒く感じた。


「すごい愛だね。」


乾いた笑みが張り付く雷太をよそに彼女は「でしょ?」と誇らしげな態度をして彼を先導する様に高校へと闊歩する。


「私、蛇年だから執念深いよ?」


同い年なんだから大体そうだよ、なんて言い返したかったのに桃の目を細め、小さく笑う姿に怯んでしまっていた。

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