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それ、ホントに僕ですか?  作者: 海々深々魅々美
再開は決意を込めて
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第14話

カーテンの隙間から射す太陽光は雷太の顔を程よく照らすと計ったかの様に携帯電話のアラームがけたたましく鳴り響く。


眉間に皺を寄せ、しかめ面の彼は音の鳴る方へ方々へと手を伸ばすも、手応えは感じられない。


微睡んだ瞳を何とか開き、薄明かりの中、携帯電話は枕元にあると言うのに意味も無く部屋中を見渡した。


早く止めれば良いのに、未だに雷太の意識は半分夢の中、大音量で鳴き続けているのに、水中に居るみたいにくぐもって聞こえていた。


昨日の夜の攻防は長くまで続いたせいで、本来予定日していた就寝時間を越えてしまい、眠り足りずに今、こうして寝惚けている始末にある。


それに加え、リフォームしたばかりだと言うのに壁からカリカリと鼠が這い回っている様な音が聞こえ、気になって眠れなかったのも一因かもしれない。


昨夜の桃との「一緒に眠る」「眠らない」の言い争いはメビウスの輪を連想させる、終わりの無い討論だった。


こんな日常が続くのかと思うと体は重く、思考も霞んでいく。


早く思い出さねばと焦る反面、彼女から勘違いでしたの一言が出ないか切望してしまうのは良い事なのか、考えてしまう。


その答えは月末の日曜日に分かる。


気長とは言いづらいが、それまでのらりくらりと彼女とのやり取りをかわせば良い。


勘違いであれば、桃が一番恥ずかしい思いをするのだから、彼女自身もう少し自重してくれれば有難い話なのだが……。


「おはよう、らい君~。アラーム鳴ってるよ~。」


扉越しから、桃の間延びした声が聞こえた。


「起きてるのは知ってるよ~。早く開けて~。」


そうすると今度は扉に付いてる投函口を開き、大きく見開かれた両目をそこから覗かせる。


薄暗い室内を一望する為に忙しなく動き回るそれは、怪奇現象を遭遇してしまったかの様に、背中に駆ける悪寒となり雷太の気持ちを薄気味悪くさせた。


布団から未だ出られず、上半身だけ起こした姿勢のまま、呆然と眺める彼の眠気は直ぐ様消え去る程、桃の奇行は彼の桃に対する心象さえも霧散させる衝撃は少なからずあった。


いや、大いにある。


何故なら彼女の瞳は雷太を見付けるや歪な三日月に細長くさせ、今度はドアノブを乱暴に捻り回したからだ。


ガチャガチャと金属の擦れる音だけが響く室内で、雷太は拍車を掛けて体を強張らせ、彼女のストーカー気質の満ちた行為はホラー映画に匹敵すると体とは裏腹に頭は冷静に現況を分析していた。


現代社会の閉鎖的な人間関係の中、人のプライベートが多大に詰まっている家と言う大きな箱。


私的であり、他人が無闇に開けてはならないパンドラの箱を彼女は無邪気に覗き込む。


人が油断している所を見逃さず、的確に抗う気力を削っていく。


昔でも最近でも、工夫次第で面白くなりそうなプロットだな、なんて現実逃避していると、桃は容易に現実に引き戻してくれる。


「早くしないと、愛の力で何とかしちゃうぞ~。」


「待って待って!今、開けるから!」


お願いだから、コンクリートの廊下に何かしらの金属を擦り付ける音は出さないで。


布団から飛び起き、階下の人の事など考えもせず、ドタドタと慌てた足音を立て、チェーンと解錠し、扉を開ければ寝間着姿のままの彼女がビニール袋を片手に立っている。


雷太からは見えない様に何かしらに金属は隠してるつもりなのだが、明らかにグリップが彼女の体と入口の枠の隙間から見えている健について、彼は何も聞かなかった。


一日ばかりのコミュニケーションだったが、桃がどういった人格なのかおおよそ見当がついている。


だからこそ、雷太は中身の詰まったビニール袋に着眼した。


十中八九、答えは決まっているのだが敢えて聞いてみた。

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