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それ、ホントに僕ですか?  作者: 海々深々魅々美
穏やかに柔らかに
101/109

第101話

小さくガッツポーズをし、改まった様に気持ちを落ち着かせた後で放たれた言葉に三人は不意をつかれ、盲点だった事に悔しさと目先の欲にばかり囚われていた浅ましさに皆が頭を抱えていた。


「そっか……その手があったんだ。でも、これってルールとしてはどうなの?」


桃は少なからず納得はしたものの、その願いはゲームにそぐわないのではないかと異議を申し立てる。


別段、雷太と彼女がイチャイチャするのが嫌で抗議したとは言い切れないが、それとは別にもし、それが通れば色々な選択肢が増えるメリットを踏まえた上での言葉だった。


「まあ、ルール自体も曖昧だからね。ライがオッケーであれば良いとだけしか設定してないからね。日付や場所の制限も指示してないし…ウチ的には有りだと思うよ。」


一応、誓約書を作成していた李はそれと願い事が書かれた紙を見合せながら、桃の疑問に答える。


怒るでもなく、彼女にしては珍しく冷静に李の言い分を受け入れ、色々と考え込んでいるのだろう、視線は天井を指しテーブルに片ひじをつき、返事の代わりに唸った。


「それは駄目だねぇ。」


そう渋い表情で反対したのは水華だった。


「ここで決めちゃうって事はぁ、後々に影響するってぇ、事でしょう?そもそもぉ、あたしぃ、嫌われてるんでしょう?だったらぁ、尚更それは有りにすべきじゃないよねぇ。だってぇ、その紙をあたしが引いちゃったらぁ、只のハズレくじになっちゃうよねぇ?それは、不公平でしょう?」


友人である美夜の奇策にでさえ、苦悶とした顔色を見せるあたり、雷太に拒否されるのを酷く恐れているのだろう。


美夜に金魚のフンの様にまとわりつくから相手しているのであって、個人では視線の端にさえ入れて貰えない。


そんな分かりきった事実を雷太から体現して欲しくない、と頻りにルールの抜け穴を掻い潜る賛成意見に反論していく。


「これは何の会なの!?あたし達の暴走を抑える為に設けられた行事じゃないの?」


流石に怒るとあの間延びした喋りは消え、鬼気迫る声色に美夜は体をびくつかせ、徐々に顔色は強張り、少し萎縮した様に体を丸めた。


耳障りな声量に雷太の表情は困窮としたものから、敵対心を剥き出しに視線は鋭くなり、水華を睨んだ。


あの頃の記憶がまざまざと蘇る。


「じゃあ来るなよ。」


雷太は突き放す様に水華が喚く原因の根本的な解決策を提示した。


「……え?」


「あんたが来なきゃいいだろ。」


「いや…だって……。」


「だってもクソもあるか。美夜さんを怖がらせて、ぐだぐだぐだぐだ言って、何もあんたが来なきゃ、それで解決だろ。」


怒気のはらんだ瞳で睨み付けられ、半分嬉しそうに口角を微かに上げる水華だが、瞳からはポロポロと涙が零れ、口元は震え始める。


「そんな言い方無いよぉ。」


彼に責め立てられ、彼女は手持ち無沙汰に首を触ったり、額に浮かぶ汗を拭い、弱々しく抗った。


それでも、彼から目を背けはしなかった。


「良いも悪いも無い。」


「は…ははっ。」


年齢や立場を度外視した雷太の言葉に水華は乾いた笑い声をあげ、後は滝の如く涙は流れ始めた。


「も、もう止めなよ!らい君。見てて可哀想だよ。」


見かねた桃は堪らず雷太を宥めようとするも、彼は止まらない。


「何を?…桃にとっては邪魔者が減るんだから、僕に加勢するんじゃないの?」


「そ、それは……そうだけど。」


そうして尻窄みに黙り込む彼女の後ろで突如として、水華は大声で笑い始めた。


「あぁ、スッキリしたぁ。良い夢見られそうぅ。」


雷太はその発言に我慢の限界を迎え、飛び掛かろうとするも桃は割り込み、邪魔をする。


「桃、どいて。」


「え?でも…。」


「良いよぉ。あたしに殴りかかるんでしょ?良いよぉ。」


既に水華の瞳は輝く宝石の様に魅惑的に情欲の炎を燃やしている。


「久しぶりだねぇ、この感じぃ。嬉しいよぉ。」


水華の変貌ぶりに怒り心頭な雷太でさえ、戸惑ってしまう程、彼女の情緒はどこかオカシイ。


「あたしに怒ってくれるんだねぇ。友達想いだねぇ。雷太のそんなぁ、素直な気持ちにぃ、あたしが必要なんだねぇ。」


「…あんた、ヤバイよ。」


雷太は恐ろしくなった。


もう昔の記憶が甦り、強張る美夜の為に怒った気持ちは霧散し、水華の異様な思考回路にただ恐怖を覚えた。


「あたしはぁ、来週も来るよぉ。ふふっ。雷太のお陰で良い事、思い付いちゃったぁ。だからぁ、美夜の願い事はあたしも賛成で良いよぉ。美夜、ありがとうねぇ。それに雷太もぉ。」


「う、うん。」


美夜はただ、休日のデートを願っただけ。


それなのに。


それだけなのに、この集まりを大きく変えてしまうとは美夜自身。


いや、誰一人として予想出来なかった。

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