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やってきたおっさん竜

 扉ごと突き飛ばされたのだ。普通は怒ってもいい場面だが、ヤマダは下手に出た。なぜなら、この大男の正体がそうしないと自分の生命に関わると思ったからだ。


「貴様、貴様がウサギ男のヤマダか?」

「は、はい。ヤマダです」

「俺は赤竜。炎の守護者古代竜ゴールド・サックスなるぞ」

「ははああっ……」


 いつの間にか、ヤマダの横にモグ子がいる。一緒にひれ伏した。これは機嫌を最大にとっておかないとやばい奴だ。


「ささ、ゴールド様。こちらのソファにお座りください」


 ヤマダは両手の指先をピンと伸ばしてソファを勧める。大男は満足そうに頷くとソファにドスンと腰掛けた。あまりの重さにソファの4つの足が折れてそのまま床に落ちるが、大男は全く動じていない。


「これはゴールド様。このようなむさくるしくて汚いところにようこそでモグ」


 モグ子の奴、人の家をむさくるしいとか言っているが、接待に忙しいヤマダは突っ込めない。すぐにお茶を入れて差し出す。


「それでゴールド様。よくこの町へ入れましたね?」


 ヤマダは世間話の意味でそう聞いてみた。前にエリスからの話で町にはモンスター避けの防御魔法がかけてあり、魔族は勝手に侵入できない仕組みがあると聞いていたからだ。


「ふん。そんな魔法、最古の竜であるこの俺を妨げることなぞできぬ」


 さすが最強のドラゴン様。無敵のドラゴンには町の防御魔法程度は障害にもならないということらしい。


「そうですか。それでゴールド様はどうしてここに?」


 これはヤマダの素直な疑問。魔王との契約で勇者チョコを倒しに来たというなら、直接町を破壊し、それを防ごうとする勇者と対決というのが手っ取り早い。


「くくく……戦いは頭を使わねばな」


 そう言ってこの古代竜は自分の頭を指でトントンと打った。ドラゴンは頭もいいのであろう。ウサギ男のヤマダには考えもつかぬことを考えているに違いない。


「我は狂戦士として、勇者のパーティに加入する。我の能力ならば申し分があるまい」


(なるほど……。俺と同じようにパーティに潜り込んで仲間になる。そして隙をついて……はああああああっ?)


「仲間に加わって信用されたところで、不意を突いて勇者を葬る」


 ヤマダの予想通りの答えが帰ってきた。古代竜、最強のドラゴンにしては情けない作戦である。


(コイツ、偉そうだけど、勇者に勝てそうもないって思っているんじゃ……)


 事実である。


 古代竜ゴールド・サックスは、勇者とまともに戦っても勝ち目はないと思っている。思っているから、まともに戦うことは愚かな行為だ。人間ならプライドが邪魔をしてこのような作戦はできないが、ドラゴンの思考は人とは違う。手段を選ばないのだ。


「それでどうやって勇者パーティへ加入するので?」

「決まっている。お前が手引きしろ」


 平然と言ってのけるドラゴン。赤髪の大男はさも簡単そうにそう言い放った。


(ム、無理~っ)


 そんなことをしたら、ヤマダは殺されるかもしれない。そもそも、こんな怪しい大男を紹介すること自体が不自然だ。ヤマダは勇者チョコからは仲間認定されているが、他のメンバーの護衛侍女エリスからは、胡散臭いと思われているし、司祭のエヴェリンはペットと思われている。


 だが、ドラゴンの命令を断るわけにはいかない。なぜなら、この場で瞬殺されてしまうからだ。そこでヤマダは問題を先送りすることにした。


「わ、わかりました。しかし、急にゴールド様を紹介すると勇者は怪しむかもしれません。ここは慎重に事を運ぶ必要があるでしょう」


 ヤマダは最もらしいことを言う。幸いにも赤髪の大男は頷いた。一応、納得してくれる流れだ。


「しばらく時間をください。うまくゴールド様が仲間になれるように取り計らいます」

「うむ。それではそれまでここに滞在することにしよう。おい、酒と肉を持って来い」

「はっ……すぐに用意を……」

(あちゃ~町で買うにも金がない~。この大男、絶対いっぱい食うし。俺の持っている金じゃ無理じゃあ~)


 ヤマダはどうしたものかと思案している。しばらく滞在してもらうことにしたが、ドラゴンを食わせるには食費が足りない。


「なんじゃ、お前は何をしている。早く、準備をしないか」

「ははっ。ゴールド様……ご準備したいのは山々ですが……ごにょごにょ……」

「よく聞こえぬ。はっきりと申せ」


 ヤマダは迷った。はっきり言えと言われて、その通りにしてうまくいくことはまずない。うまくいくのは言った本人に相当の度量がある場合である。普通の人間は面白く思わない。


 この古代竜ゴールドに対しては、そんな度量があるようにはヤマダには思えなかった。そもそも、ドラゴンたるもの、正々堂々と戦って散るのがボスキャラ級の矜持というものだ。


「ウサギ男は金がないでモグ。居候するなら金を出せと言いたいでモグ」


 恐ろしい言葉が部屋にこだました。


(モ.モグ子~っ!)


 言ってはならない心の声をモグ子の奴が代弁しやがった。ゴールドの太い眉がぴくりと動いた。完全に機嫌が悪くなった。


「な、何を言うモグ子。ゴールド様に失礼なことを……ああ、ゴールド様、お気を悪くなさらずに。なんとか、用意しますので」


 あてもないのにそう取り繕うヤマダ。ここは生命の危機だと判断した。


「用意するって、ヤマダ、無理をする必要はないでモグ。このドラゴンのおっさん、めちゃ食うと思うでモグ」


「そりゃそうだが……」


 古代竜ゴールドの口ひげがピクピクと小刻みに震えているのがヤマダの目に飛び込んできた。不用意な心の言葉が具現化してさらに事態を悪化させている。


(や、やべえ~。決定的だ~)


 本音が出てしまったときの気まずさは大変なものだ。後で何を言ってもフォローができない。


「ククク……ハハハハッ」


 赤い髭が割れて大口を開けてゴールドは大声で笑った。


「ウサギ男よ」

「ははっ」

「このゴールド様に金を払えというのか」

「え、えと……偉大なるドラゴン様に少し援助してもらえないかと」


 もはや捨て身。ヤマダは捨て身になった。ここはぶっちゃけるしかない。


「魔王様に命令されたとはいえ、資金の援助はありませんし、勇者サイドからは当面の生活費は支給されましたが、僅かですし、日々のバイトで暮らさないといけない状態で」


「バカ者め!」


 丸太小屋が震える大声が鳴り響いた。ヤマダもモグ子も縮こまる。だが、ドラゴンはゆっくりと袂から1枚のカードを取り出す。黒く光るカードだ。


「こ、これは限界解除のブラックカード!」


 ギルド銀行で発行できる最強のカードである。これがあればなんでも買える。


「これで肉に酒を買ってこい。たっぷりとな……ガハハハッ」


 大変な居候がやって来たが、当面の食費はなんとかなりそうである。


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