香夜の助言
「で、ヤマダよ。心を通わせるにはやはり恋愛するしかないようじゃが、その女勇者と恋愛できるのかや?」
「……無理……絶対に殺される……俺はおっさんだし、ウサギ男だし……」
「ケケッ。急に弱気になったのじゃ」
「もうすぐ40だし、ビールを飲むと腹が出るし、痛風にも気をつけなきゃいけないし」
「カッコ悪いのじゃ」
「疲れやすいし、目もかすむし、精力剤飲まないと朝の元気はないし」
「悲惨じゃ……」
ヤマダが落ち込むのを見て、香夜はポンと胸を叩いた。
「それでは、我が手助けしてやろう。ヤマダの恋愛を助けようじゃないか」
ヤマダは(ふう~)と息を吐いた。これはため息である。さすがに落ち込んでいても大人なヤマダ。幼女幽霊の説得力のない申し出を一蹴する。
「幼女のお前にそんなことできるわけないじゃないか」
「ヤマダよ。我は180年以上生きていると言っただろう。お主よりも恋愛経験は豊富だ」
「幼女じゃ説得力がない。魔法少女級の青臭い恋愛ストーリーはお呼びじゃない」
「失礼じゃな。我は幼女の姿をしているが、生前は80歳まで生きたのじゃ」
「え、じゃあ、ロリババア~」
香夜はヤマダに指さした。幽霊のもつ特殊能力。デスタッチである。いわゆるエナジードレン。ふにゃふにゃとその場で腰を抜かすヤマダ。エナジードレンは摂取カロリーの全てを奪い取る。よって軽い栄養失調状態に陥るのだ。
「ち、力が出ない……」
「失礼な男にお仕置きじゃ。そもそも、お主よ。お前は恋愛経験ないだろう」
「ううう……」
一応ヤマダには女性とそれなりの関係をしたことはある。それは向こうから誘ってくるから。社長で金持ちのヤマダには、据え膳というのはたくさん提供してくれたのだ。だが、好きになった女は不思議といない。一度だけ、たった一度だけ、そんな気持ちになった女はいた。だが、それは悲惨な結果に終わった。
ある意味女性には冷めた気持ちをもっていることにヤマダは気づいた。それは、女は面倒だと一言で片付けていたことの影に隠れていた複雑な思いなのだ。
「ない。確かに両思いになったことはない」
「かわいそうな奴……ううう……」
「な、泣くな!」
見た目幼女幽霊にそんなことで泣かれたら、惨めである。とんだ罰ゲームである。
「それではまず、ヤマダのことを好きになってもらわなければならないと思うのじゃ。好きになってもらえば、殺されることもあるまい」
「そうれはそうだが……俺はおっさんだし」
「おっさんからアプローチするからセクハラになる。かっこいいおっさんは、女の方から誘ってくるものじゃ。それは経験あるのじゃろう」
「それもそうだが、金や地位は今はない。俺は弱い、貧乏なウサギ男に過ぎない」
「うむ、えらいのじゃ。自分のことよく分かっている」
感心したように腕を組み頷く香夜。正直、全く嬉しくないし、デスられているとしか思えないヤマダは投げやりになっている。
「ヤマダよ。セレブでなくても、芸能人でなくてもモテるおっさんはいるぞよ」
「そんなのいるのかよ」
「なんやかんや言っても、男も女の中身。魅力というのは最高の媚薬じゃ。そして、おっさんは経験値において若い男を超えることもできる」
「無理やろ、おっさんは若い男には勝てんわ」
ヤマダの言葉には重みがある。おっさんはその滑稽な響きから、数多くの小説で主人公に取り上げられている。しかし、多くは転生して貴族の子供になったり、転移と同時に神様にチートな力を与えられ、ついでに若返らせてもらったりする。
これは物語上の必然である。年若い女の子にキャーキャー言われるのは、若返るしかない。稀におっさんのままの場合は、ハーレム路線は封印となる。じゃないと、おっさんでハーレム若い女の子のきゃーきゃーと言われる物語。そんな脳内妄想はあったにしても。それはおっさんの脳内奥深くに厳重に封印するものだ。
うっかりだそうものなら、(こいつ……イタすぎる)(やっちまった)(勘違い野郎)(おっさん道が分かってない)(キモ……)
もう立ち上がれない。以上。
「お主よ、おっさんはおっさんの強みを生かす。それを磨くのじゃ」
「強み?」
「経験、懐の深い態度、品のある行動……いっぱいあるぞよ」
「……そうか……おっさんは金だけじゃないのだな」
「そうじゃ」
「おっさんは社会的地位だけゃないのだな」
「そうじゃ」
「チート能力がなくても、若返りの魔法をかけてもらわなくても……」
「そうじゃ……というか、面倒じゃの」
香夜は耳をホリホリしてめんどくさそうに答えた。
「し、師匠~っ」
どうたら、ヤマダは完全に洗脳されたようだ。幼女にそんなことを言ってひれ伏すおっさんがいたら間違いなく通報されるだろう。
「まずは肉体じゃ。お主はおっさんにしては、いい体をしているがそれだけでは勝てない。ましてや、腹の肉がデブっとマフィントップだと嫌われる」
「やっぱり、見た目じゃないか、師匠」
「違う。腹の肉はだらしない生活の結果じゃ。女はそういうだらしなさを嫌悪するのじゃ。どんなブ男でもできることはある」
「?」
「顔は整形するしかないが、体型は自己管理とトレーニングで変えられる。まずは運動、筋トレ、適切な食事にきちんとした生活じゃ」
「それはしているつもりだが……」
「甘いのじゃ。おっさんの代謝率の悪さをなめんなよじゃ。若者に勝つにはストイックな生活じゃぞ」
「師匠、俺はやります。腹筋100回、腕立て伏せ100回をノルマに。食事にも気をつけます。次に何をすればいいのですか?」
「細かいことはこれから教えていこうぞ。だが、次にやるとしたら仕事じゃな」
「仕事?」
「そうじゃ。仕事のできるおっさんは魅力的じゃぞ。仕事は生きるための必要事項じゃ」
「なるほど……」
動物の世界でもこれは言える。強くて勇敢で賢く、食べ物をたくさんもってこれるオスのみがメスと暮らせる。弱くて臆病で馬鹿な奴にメスは絶対に来ない。チャラチャラして甘い言葉一つで女に貢がせるようなヒモ男は人間だけである。
「じゃあ、明日からの仕事を頑張ろう」
ヤマダの仕事は勇者の事務仕事の手伝いである。それくらいなら、元会社経営者のヤマダならお茶の子さいさいである。
「それじゃ、これから毎晩、お前の成果を聞こう。我は眠いからこれで消えるのじゃ」
ヤマダは生まれ変わったような気がした。焦ることはない。おっさんの魅力で女勇者チョコ・サンダーゲートを恋に落とす。彼女を愛せるかはまだ分からないが、それが達成されたとき、プロポる。任務成功なら魔界は平和になり、ヤマダは元の体へ戻してもらって日本へ帰ることができるのだ。
「おっさんは自分の魅力を磨こうと思った時に、腹筋をする。しかし続かない」
おっさんヤマダ名言集




