事故物件の理由
ヤマダは自宅の丸木小屋へと帰宅した。日は沈み、薄暗くなってきている。町で買った弁当をテーブル置く。モグ子と別れてから、ヤマダはアルバイトを探した。努力のかいあって、夕日が沈むまでになんとか、見つけることができた。それは野菜売りの店の配達のバイトである。
町にはいろいろとアルバイトの口はあったが、中年のおっさんは面接で若者に勝てない。採用1名で若者が相手なら100%採用してもらえないのだ。
日本でも今でこそ、人手不足でおっさんでも雇ってもらえるようになったが、ちょっと昔は、おっさんはアルバイトを選べなかったのだ。そしてここは異世界。ここでもおっさんは敬遠される。
そんなおっさんの悲哀を嫌というほど味わったヤマダ。日本ではカリスマ経営者だったのに惨めである。だが、ヤマダはこうなって初めて知ったことがある。
『おっさんは丸裸になった時にその真の価値が分かる』
おっさんヤマダ名言集
社会的地位とか、経済力とかをとっぱらった時におっさんとして価値があるかないかは、人間性しかない。初対面であった人間に一瞬で信頼されるコミュニケーション能力、見た目である。
『おっさんの見た目は、100%清潔感で決まる』
おっさんヤマダ名言集
どんなに高価なものを身につけていても、脂ギラギラで体臭がするおっさんでは信頼は得られない。安物でもちゃんと洗った清潔感のあるものを身に付ける。体も毎日洗ってヒゲの手入れもする。こまめにできるおっさんは、着飾らなくても好感度は高められる。
ヤマダは拉致された時のダークスーツ姿であるが、シャツは洗って真っ白。ジャケットやパンツは脱いでシワを伸ばす。ネクタイもきちんと締める。この世界の人間が見ても、見た目はきちんとした信頼できる感がある。
だが、アルバイト採用では苦戦した。
なぜなら、ヤマダはウサギ男だからだ。清潔感のある格好も人当たりのよい言葉使いも全てが変なウサギ仮面で台無しとなる。
町で歩いたり、食事したりすることは問題なかったが、いざ働くとなると断られた。これは仕方がない。スーツ姿のおっさんがウサギの仮面を被ってコンビニの面接を受けたら、100%落ちるだろう。
(こいつ……やべえ)
100人の店長が100人ともそう思う。
『おっさんのコスプレは誰も欲していない。それを知ることが重要だ』
おっさんヤマダ名言集
だが、このウサギ男の姿が最後に生きた。野菜売りのおばさんは、ヤマダの格好を見て、足が早そうだからと雇ってくれたのだ。仕事が午後というのもいい。午前中に注文した料理店に野菜を運ぶ仕事だからだ。
ちなみにウサギ男のヤマダ。
足は特に早くない。普通である。
(1日で銀貨3枚のアルバイトだが、毎日やれば月に金貨9枚は稼げる。切り詰めれば生活費は金貨5枚でいける。そうすれば、1月に貯金が金貨4枚。3ヶ月でシルバーカードへ昇格だ)
ウサギ男ヤマダ。よほどギルド銀行のカードが悔しかったらしい。
『おっさんは、悔しさを根にもつものである。そして、根に持つおっさんは侮れない』
おっさんヤマダ名言集
「さて、帰ってみるとここは実にさみしいな」
家に帰っても一人。日本にいるときはあまり感じなかったが、この異世界では人が恋しくなる。この際、人じゃなくてもいい。
(この際、モグ子の奴でもいた方がマシと思える……)
椅子に座ってテーブルに置いた弁当を食べる。すると、コツコツと家の中で音がする。それはやがて、パキパキという音に変わった。
「モグ子か?」
ヤマダの声が丸木小屋に響くが、モグ子ではなさそうだ。なんだか、不気味な音である。それはどんどんと音量を増していく。
(ち、ちょっと待てよ……忘れていたけど、この物件はワケありだったよな。昨日はモグ子が現れて、忘れていたけど。いや、ワケありの原因はてっきりモグ子だと思っていたけど、よく考えれば……)
モグ子は昨日偶然にここへ穴を掘って現れた。不動産屋が話していた内容とも合わないし、第一、時系列が合わない。この家に現れるという怪奇現象は別物なのだ。
「ということは、この音が怪奇現象?」
パチッ、パチッ……今度は何かが爆ぜる音。完全なラップ音である。さすがにヤマダも怖くなった。こんな森の中の丸木小屋である。おっさんでも怖い。テーブルに肘をついて耳をふさいだ。そして目線が下になって気がついた。
(テーブルに下に何かがいる……うそ、やべえ。これはやべえぞ!)
ヤマダの心は見るなと叫んだが、行動は逆であった。座っている自分のへそを見る。そこには、黒い髪で前髪パッツン。黒い大きな瞳と真っ白なワンピースを着た女の子と目が合ってしまった。その間5秒のフリーズ。
「ギャワワワワ~」
「ふわわわわっつ!」
ヤマダと白い女の子は同時に叫び声を上げた。




