表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おっさんウサギ男は女勇者にプロポりたい!?  作者: 九重七六八
第3章 ヤマダ、仕事に励む
21/35

カードを作ろう

9月23日0時より、新作2作品目。「ゲスなダンジョン」投稿予定。

ウサギの方は明日から、ぼちぼち投稿します。

「さて、代金を払う時になったわけだが、モグ子、このハンバーガーは銅貨5枚のわけだが、お前はどうやって払うのだ?」

 

 支払いの段階になって、ヤマダはポケットから銅貨5枚を取り出した。モグ子と割り勘と言ったが、本当のところはケチらずに支払ってやろうかと思ったが、正直、ヤマダの懐は余裕がない。


「モグ子はこれで払うモグ」


 モグ子が出したのは銀色のカードだ。それはまるでクレジットカードのような形状をしている。


「何だ、それは?」

「知らないでモグか。無知なおっさんはキモイでモグ」

「知るわけないだろ。俺はお前にラチられて改造されたのが1週間前。この世界のことは知らないことが多いのだ」


 お金についてはファンタジー世界の定番通り、希少価値が高い金、銀、銅が貨幣として使われていることは知っている。最初に護衛侍女ガードレディのエリスにお金を渡されたからだ。だが、街での買い物を見ていると少額の場合は、その貨幣で支払っているが、中にはモグ子が持っているようなカードで払っている人間もいたことを思い出した。


「これはマジックペイでモグ」

「マジックペイ?」

「そうでモグ。金貨や銀貨は重いでモグ。持ち運びは大変でモグ」


 モグ子が説明をしだした。このマジックペイは人間世界の経済を担当している中央ギルドの銀行が発行しているカードだ。それはギルド銀行が保有している金、銀、銅の量により発行しているポイントが魔法によって記憶されているのだ。


 カードの所有者は、自分がギルド銀行に預けたお金をポイント化し、それを支払いに当てることで自由に消費活動ができるのだ。


「なるほど、デビットカードみたいなものか」

「各国で発行されている金貨の種類は違うでモグが、銀行で預ければその価値に応じたポイントを使えるでモグ。カードは所有する本人しか使えないよう、5重の魔法暗号で管理されているでモグ。物騒な世の中だから、旅する人間には必須アイテムでモグ」

「なるほど……それはよくできている」


 正直、仕組みはよく分からないが、そこは魔法という単語でわかったように錯覚させたヤマダ。このカードは所有するに値するものであると判断した。


「ヤマダは持っていないでモグか?」

「ああ。今、そのカードの存在を知ったのだ」

「この世界に住む真っ当な人間は全員持っているでモグ。持っていない人間は、底辺ランクの人間でモグ」


「改造人間のお前でさえ持っているのだ。それは理解できる。それで俺としては、そのカードを作りたいのだが」


 ヤマダはそのマジックペイというカードを手に入れたくなった。正直、エリスからもらったお金も小さな袋へ入れてベルトに吊り下げているが、重いし、落としたら終わりである。また、街で窃盗に合う可能性だってある。


 できるおっさんなら、そのカードは絶対に手に入れるべきカードだ。支払いはカードで一括。実にスマートな支払い方法である。ただ、クレジットカードでないようなので、手持ちのわずかなお金分でしか効力はないが。


「カードはギルド銀行で作れるのだよな?」

「モグ子でも作れたから、簡単でモグ」

「お前、いつの間に作ったんだよ」


 モグ子は任務の度に人間の住む町へと侵入する。その際、工作活動たべあるきをするために作ったのだという。


「じゃあ、この後、俺もそのカードを作りにギルド銀行へ行く」

「モグ子も行くでモグ」


 ギルド銀行はどんな町にでも1つはある。それは人間世界の津々浦々まで金融網を張り巡らせている。おかげで誰もがキャッシュレスで消費生活が送れ、報酬の受け取りも簡単にポイントで受け取ることができた。


 そのシステムは複雑に絡んだ五重の防護魔法で守られ、専門の魔法使いが24時間体制で監視、プロテクトの解除コードは6時間おきに変更されるという。

 そしてそのサービスを受けるためには、ギルド銀行の支店に行き、登録していくらか預けるだけだ。但し、人間の場合である。


 ヤマダは改造人間ウサギ男である。人間でないヤマダが銀行カードを作れるかというと甚だ疑問であるが、モグ子も持っているのだから作れないことはないはずだ。ちなみにモグ子は窓口で普通に作れたという。


「あの……銀行口座を作りたいのですが」


 ヤマダはそう町のギルド銀行の窓口へ申し出た。窓口担当の女性はにこやかに対応する。


「はい。では、こちらの用紙にご記入いただけますか?」


 一枚の紙を渡される。


(なになに……お客様情報登録カード……あなたは人間ですか、人間じゃないですか?)


 こんな質問項目が現代日本の銀行にあったら、絶対に問題だろう。幸いにもここは異世界。人間じゃない生物も闊歩している。そして、その人間じゃない部類のヤマダは悩んだ。改造人間ウサギ男だから、人間じゃないだろう。それで人間以外に丸を打つ。そこの丸を打つと別の番号へ行くよう指示がある。


(えっと……あなたは次のどの種族でなりますか。エルフ、ドワーフ、その他……その他ってなんだよ!)


 ヤマダは仕方がなく、その他のカッコ内に『改造人間』と記入した。そして、次に住所を記入。性別に年齢を書き込む。


(うっ……次の項目は……既婚者、独身……そんな情報がいるんかよ!)


 ヤマダはちょっとさみしい気持ちになって、独身に丸をうつ。なんだか、38歳で独身を囲むのは、虚しい気持ちになってしまう。


(それで……次は……年収?)


 年収の最低限ラインは年に金貨100枚となっている。正直、今のヤマダが年収ベースでいくら稼げるかは分からない。


(仕方がない……あの護衛侍女が毎月、おこずかいをくれるはずもない。バイトするしかないよなあ)


 これはヤマダにとっては現実的な問題。とりあえず、金塊100枚以下に丸を打つ。そして、窓口で申し込みをすると、担当の女性は首をかしげながらも対応をしてくれた。


「ええっと……ヤマダさん、カードの種類はご存知ですか?」

「え?」

「ですから、カードの種類ですよ」


 ベレー帽を被ったギルドの窓口担当の女の子は可愛い。おっさんであるヤマダを見ても普通に接している感じがする。おじさんは普通に対応してくれるだけで嬉しいのだ。


「いや、よく知らないんです」

「では、ご説明します。年収で金貨100枚がボーダー。ここから500枚まではシルバーカードをご提供します」


 それは銀色に輝く四角いカードである。500枚以上でこのシルバーが金色になる。庶民で持てるのはここまでである。その上はプラチナカード、ブラックカードとなる。まるでクレジットカードのようなランク付けである。


 クレジットカードなら、日本でブラックカードを持っていたヤマダ。この世界ではしょぼいシルバーカードである。


 いや、それですらなかった。ヤマダの所持金は金貨10枚に満たない。それではシルバーカードも持てない。まだ、種族が人間であったなら多少の手持ちの少なさでもシルバーカードになるそうだが、亜人間どころから改造人間であるヤマダの場合は、信用度が最低ランクとなるそうだ。つまり、最低ラインの信用度。よって、この人間の世界では最底辺の人間が持つレベルのカードとなる。それはシルバーカードの下。木の板に銅が薄く貼ってあるブロンズカードである。


 それでもギルド銀行にとっては、一応客である。窓口のお姉さんは親切に笑顔でヤマダに接してくる。

 おじさんになると、こういうシチュエーションは妙に気になる。例えば、コンビニのレジ。若い女子だとお釣りの小銭を渡すときに手に触れないように渡してくる。


 これが若いイケメン男だとそれはない。別に思春期の若い女子はおじさんを毛嫌いしているものだから、別に気にしない。でも、女性も年齢を重ねてくるとちゃんと丁寧にお釣りを渡してくる。これはどの客にも同じだろうが、おじさんには嬉しいのだ。


 もちろん、ヤマダは、それで「この姉ちゃん、俺に惚れたか~」「この奥さん、俺に気があるのか~」と勘違いする痛いおっさんではないが、窓口のお姉さんの優しさには癒される思いがする。


「それではヤマダさん、ブロンズカードは毎月、口座維持管理料として、銅貨5枚が自動的に引き落とされます」


「え?」


「引き落とせない場合、その時からカードは、無効となり、5年間はギルド銀行での取引はできなくなります」

「マ、マジかよ!」


「あとシルバーカードに昇格するには、金貨10枚上のお金をギルド銀行に1年間預けた実績が必要です」


 にっこりと笑っている窓口のお姉さん。ブロンズカード所有者をデスっているとしか思えない規約の説明をする。


 これは厳しい。最初から金貨10枚預ければシルバーカードが発行されたのだから、貯めておいてから作ればよかったんじゃないの……と頭によぎったヤマダ。しかし、今、貧乏人判定されてしまったから、どうにもならない。


「くそ……やはり、どの世界へ行っても金は人生を左右する」

「おっさんのプライドもでモグ」

「お前のおっさんの心臓をエグルその一言をなんとかしろよ」


 銀行からの帰り道。モグ子のデスりに耐えつつ、トボトボと帰るヤマダ。ふと、モグ子が持っていたカードの色を思い出した。


「おい、ちょっと待て。モグ子、お前のカードは?」

「シルバーでモグ」

「なんで、お前がシルバーなんだよ」

「簡単でモグ。最初の申し込みで人間に丸を付けるでモグ。それで金貨10枚を預ければ簡単にできるでモグ」

「がああああっ~。お前、人間じゃないだろ、改造人間だろ、モグラ女だろ!」

「元は人間でモグ」

「じゃあ、正直に書いた俺は間抜けなのか?」

「心配する必要はないでモグ。世の中のおっさんは、みんな融通が利かないでモグ。だからおっさんはメンドくさいでモグ」

「う~。正直者がバカを見るのか?」

「違うでモグ。解釈の幅が狭いだけでモグ」


 なんだか納得がいかないヤマダ。でも、ヤマダは誓った。今は底辺のブロンズカード。これをシルバーに昇格させる。できればゴールドカードを手に入れる。


 おっさんヤマダはそのためにバイトを探そうと心に誓った。なんだか、志の低いおっさんの思考だが、ヤマダは混乱している。許してやって欲しい。


「それじゃ、モグ子は魔界へ戻るでモグ。ヤマダは女勇者にプロポるのは、まだ無理としても、少しは好感度を上げておくでモグ」


「モグ子、なんだか上から目線だな。言っとくが、お前がシルバーカード持ちだからといって、お前が偉いわけじゃないからな。ただ単にお前は正直じゃなかったからだな。あと、魔王がお前におこずかい多くくれたからだからな」


「おっさんの僻みは醜いでモグ」

「僻みじゃない、世の中の理不尽に対する抗議だ。いずれにしても、好感度上げるの失敗したら、即死だからな。がんばるしかない」

「健闘を祈るでモグ」


 地面を高速で掘って消えてしまったモグ子。ヤマダはブロンズカードを握り締めて、小屋へと戻ることにした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ