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おっさんウサギ男は女勇者にプロポりたい!?  作者: 九重七六八
第2章 ヤマダ、町で暮らす
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ヤマダの過去

「社長、おはようございます」

「おはようございます、社長」


 今日も住んでいる都内の億ションから、社用車でオフィスに向かった山田正則。彼はネット上のショッピングサイト『ふるさとスイーツ』と展開し、一躍、有名になった起業家である。大手商社で係長をしていた時に、地方で出会った有名ではないが親しまれて美味しい和菓子の存在を知り、それを紹介して通販できるようにしたいと思ったところから、彼の人生が変化した。


 大手商社でも20代で係長、課長までいけると言われた優秀な山田は、惜しげもなく商社を退社。それまで築き上げた人脈と持って生まれた粘り強さと交渉力で、次々と老舗和菓子店を口説き落として自分が立ち上げたサイトで独占販売することに成功した。


 絶対売れると確信した和菓子だけを厳選して販売。その味の素晴らしさに、なんでも販売する他のネットサイトとは違うブランド力を確立。


 和菓子を皮切りに洋菓子、漬物、果物と取扱商品を増やし、売上高を2倍、3倍と成長する企業へと育て上げた。


 山田が立ち上げた会社。

『ジャッジメントスター』


 取扱商品の品質と消費者への満足が評価されて、少々、割高でも飛ぶように売れていた。今は年商500億円にも届き、今年は1000億円を超えると言われていた。


「社長、本日の最高経営会議は10時から。その前に8時に北海道支社長の面会があります。9時にブライトンホテルにて、経団連理事の渡部様と面会となっております」


 美人秘書がそうタブレットの画面を見ながら、山田に午前中の予定を確認する。山田は頷きながら、美人秘書から香る香水の匂いに気づく。これはS社の最新作の香水である。


「美帆くん、よく手に入れたね。これはニューヨークでしかまだ手に入らない香りだと思うが……」

「あら、さすが山田社長。よく気がつきましたわ」

(あ……ち、ちょっとまずかったか?)


 朝からセクハラ発言だったかと思った。社長と言えど、女性社員に対する言動は細心の注意が必要なのだ。人によっては匂いを嗅いだだけで、セクハラとなる。セクハラの定義は、相手が不快に思った瞬間に成立する。特に年上の男は、よく理解しないと人生を棒に振ってしまうのだ。


 基本、おじさんが若い女性に何かアクションを起こせば、ほぼセクハラとなる。おじさんはそういう時代になったことを自覚しないといけないのだ。


「ああ、この間、ニューヨークで試供品を試してね。その匂いと同じだったのでね」


 山田はそうさり気なく会話を続けた。卑猥な響きは一切なかったはずだ。実際に先週はプライベートジェットでニューヨークへ出かけていたから、この話は嘘ではない。


「社長、鼻がいいですわ。それは私の匂いも嗅ぎ分けてくださるということですよね」


 そう言って秘書は山田に体を預けてきた。日本でも有数の会社となった山田の会社の社長秘書だ。かなりの美人だし、頭も切れる。この美帆という秘書は26歳で英語とフランス語が堪能だということだ。


「いや、そういうわけでは……」

「社長、この前の約束、忘れていませんよね?」

「約束?」

「はい。赤坂の方で美味しいすっぽんを食べさせくれる割烹店に連れて行ってくれると約束してくれましたよ……」

「ああ……そうだったね」


 山田はだいぶ前のパーティでこの秘書に話の流れでそんなことを喋ったことを思い出した。だが、それは話の流れである。確かに美人で聡明ではあるが、この秘書の積極的なアプローチは、社長夫人の座を狙っているということが透けて見えて、山田はうんざりしてしまうのだ。


「今週は忙しいので、次の機会にするよ」

「そんなことおっしゃって、また忙しくなってしまいますよ。お店の名前を教えてください。来週の金曜日はどうでしょう。私の方で予約しておきますわ。金曜日は福岡のクライアントのご不幸絡みで接待の予定がキャンセルされておりますので、お時間がありますから」


(ぐ……グイグイ来るな~)


 少したじろぐ山田。だが、ここでニヤケたり、動揺してはただのおっさんに成り下がる。山田はできる、そしてセレブで社長。いろいろ持ってる男なのだ。


「あ、ああ……そうしてくれ」


 努めて冷静に渋く応えてみた。うれしそうな秘書の顔を見ると、その努力は成功したようだ。


 社長秘書が若い社長と結婚する例は結構あると、他の青年実業家でつくる会合で聞いたことがある。なんの根拠もない単なる冗談だと笑い飛ばしたが、スケジュール管理をされているならば、こういう強引に来られて仕留められる者もいるだろう。


(しかし、部下とすっぽんか……やっぱ、まずいだろう……)


 美帆には悪いが、金曜日までに差し障りのない理由を作るしかないと山田は思った。


 社長室へつながる専用エレベーターのドアが開く。社長室の前には部屋付きの秘書が2名立ち上がってゆっくりと頭を下げる。


 その傍には見事な胡蝶蘭が飾られている。銀座の行きつけのクラブから今朝届けられたものらしい。そういえば、スマートフォンの方にそれ関係のママやホステスからお誘いのメールがいくつも入っていた。


「君、お返しの花を贈っておいてくれ」

「はい、社長」


 山田は最近、よく取引先の経営者を連れていくクラブに花を贈るように秘書に命じた。こういう付き合いも面倒であるが無視はできない。


「社長、京都の風神堂のご主人が、是非ともと置いていかれました」


 そう言って秘書から手渡されたのは、美しい着物を着た娘。最近、山田が直接足を運び、本店以外では出さないと言われた老舗和菓子店の娘のお見合い写真である。


「あのおやっさん……しつこいなあ……まあ、ありがたい話ではあるが」


 娘は24歳。写真を見ても結構な美人である。日本舞踊やお花、お茶と古式ゆかしき習い事は全て習得したという手塩にかけた娘さんだ。それを是非と山田にもらってくれと父親が猛烈にアプローチをしてくるのだ。


(この娘さんもかわいそうに……俺は38歳だぞ。いくら父親の命令でも、こんなおっさんに嫁ぎたくはないだろう……)


 今時の良家の子女というものは、付き合う相手と結婚相手は明確に分けるという。学生時代は散々遊んでおいて、結婚となると家柄が確かで大金持ちの男を選ぶのだ。そこははっきりしている。


(この娘も清楚な顔をしているが……中身はどうだが……)


 はっきり言って、山田の中の女性観はかなりゆがんでいる。これまで38年間。仕事で成功し、一生で使いきれないほどの財産を作っても、女とまともに付き合ってきたことはほとんどない。


 高校までは勉強に打ち込み、男の友人と遊んでばかりいたので、女には興味がなかったし、大学生で周りが彼女を作るようになり、山田も作ろうとした。そしてその努力が実り、大学1年生の秋に友人も羨む可愛い彼女ができた。


 だが、その彼女との思い出は思い出したくない倉庫の奥底に厳重に封印されている。このことが原因で山田は恋愛に対して臆病になったのだ。おかげで大学を卒業するまで彼女はいなかった。

 

 そして社会人になると猛烈に仕事をし過ぎて出会いがなかった。もしかすると、いくつもあったかと思うが、仕事優先で逃した。脱サラして会社経営に没頭し、軌道に乗ってきた頃、どんどんと女性の方から迫ってくることに気がついた。


 金持ちになると何もアプローチしなくても女の方から寄ってくるのだ。山田は悟った。


(人間も所詮は動物である)


 野生の動物は強いオスをメスは求める。それは自然界で生き抜くために絶対に必要なこと。力の弱いオスに自分の運命と子供を託すわけにはいかないのだ。


 そして人間の場合は、地位やお金。本人が能力はないけど、財産はあるケースはともかく、基本的に金を稼げる男に女は群がる。


 これは決して軽蔑されるものではない。自然の摂理なのだ。女だって、自分の人生を託すなら、少しでも稼いで豊かな生活をさせてくれる男がいい。人間だから、それプラス優しいとか子煩悩だとか、浮気しないとか人間性の部分も加味されるが、稼げるという点は重要なファクターだ。


 その証拠に億単位でお金を稼げるプロのスポーツ選手の奥さんはみんな美人で頭がいい。頭いい美人な女は自分の価値をよく知っている。自分にふさわしい男を選ぶ能力があるのだ。


 もちろん、みんながみんなそうではない。男女平等になりつつある時代だ。女が自立して金を稼ぐこともある。そういう場合は、金目当てという下衆な見方は返上するが、そういう女の場合は、他の能力を男に求めるものだ。


 しかし人間は面白いもので、金も財産も、そして性格も悪いクズ男に寄り添う女もいる。それは自分がその程度の男としか合わないと諦めているか、男を見抜けない低脳か、男の強引さを断れない心の弱い女だろう。


 いくら自分には優しいとか言っても、働きもしない、遊んでばかりいる男に貢ぐ馬鹿女には、山田は同情するつもりはない。そういった意味では、自分にアプローチをしてく女は馬鹿ではないと思うのはさすがに傲慢だろうが、真実でもある。


(だが、狙われた男もたまったものではない……)


 つまり、山田は自分に好意を寄せてくる女はすべて、自分の金を狙っているという不信感をもっているのだ。もう一つの不信感は、大学1年生彼女に起因するのだが、それは思い出さないことにした。

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