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おっさんウサギ男は女勇者にプロポりたい!?  作者: 九重七六八
第2章 ヤマダ、町で暮らす
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勇者の痴態

 女勇者チョコは、執務室で書類を書いている。戦況はどうだとか、治安状況はどうだとか、戦利品はどうだとか、都から様々な報告書が上がってきていて、勇者として決裁をしなくてはならないのだ。


「ま、まったく、めんどうだ!」

「オーガが10匹出たので討伐しろだって。あんなもの10日前に皆殺しにした!」

「収支報告で金貨1000枚予算オーバーだって、なに、ケチなこと言っているのだ。あの巨大モンスター、ベヒーモスを倒したのだ。町の被害にしては最低限だろが!」

「なんと、1週間後の国王の誕生日パーティに招待って! けっ、これだから平和ボケのじじいは困るのだ。都はもう安全だからといって、気を抜き過ぎ。ちょっと前まで、ドラゴンに攻め込まれて青くなっていたくせに。まだ地方は戦場なのだ。バカ国王と間抜けな貴族には呆れてものが言えない!」


 書類を見る度に罵倒している勇者チョコ。相棒の女司祭エヴェリンはこの町の大神院で祈りを捧げている。この手の書類はエヴェリンも手伝ってくれることもあるが、彼女に任せると3倍はかかるので、ほとんどチョコが行う。


 トントン……。ぶ厚い木の扉が叩かれる。叩き方でもう誰なのか、この勇者には分かってしまう。


「エリス、入って良い」

「はい」


 扉をあけてメイド服に身を包んだ侍女が静々と歩いてくる。勇者チョコ付きの護衛侍女エリスである。護衛侍女は仕える主人に身の回りの世話を行うと同時にその身辺警護も行う。無敵の女勇者に護衛が必要とは思えないが、それでも油断は禁物。不意打ちを受けないようにこの護衛侍女が安全を守っているのだ。


 この護衛侍女、魔法は使えないが、鍛えられた戦闘技術で戦闘力はベテラン冒険者10人に匹敵すると言われる。


「チョコ様……仰せのとおり、あのウサギ男は家を借りに行かせました。明日から、朝の10時にはここへやって来る予定です」


 護衛侍女エリスはそう勇者チョコ・サンダーゲートに報告をした。チョコは冒険者ギルドからの要請や、王国からの命令書にサインしながら報告を聞いている。その顔は気持ち嬉しそうだとエリスは感じた。


「そ、そう……エリス、それはご苦労だった」

「チョコ様、あの男、魔界への入口を白状させて、拷問にかけるのでしたら、わざわざベッドに寝かせて介抱することはなかったのでは?」

「エリス、拷問にかけるって誰が言ったのだ?」

「え、チョコ様が彼をこの屋敷に運び込んだ時に、そう仰っていましたが?」


 エリスはそう聞き直した。実のところ、自分の主人には最初からそういうつもりはなかったことを見抜いていた上での確認である。


「あ、あんな下っ端3等兵がそんな重要な秘密を知っているわけがない。あの人は私のパーティの戦力になると思って連れてきたのだ」


「はあ……下っ端3等兵がですか?」


 エリスはチョコの矛盾をさり気なく突いた。慌てて、取り繕う女勇者。


「彼は改造人間だ。下っ端といえど、元は人間」

「はあ……それはそうですが」

「元人間ならば、人間界の救世主たる勇者に仕えると思うのだ」


「ですが、チョコ様。これまでも改造人間はコブラ男とか、蝿男とか遭遇した瞬間に消去してきましたよね?」


 エリスの鋭いツッコミに勇者チョコはまたもやたじろいだ。


(この子、ヤマダさんの件になると妙に追求してくるわね……)


 少し強引な論理展開であると、この賢い女勇者は反省した。ほんの少しだけシナプスを開放し、この護衛侍女の不信感を取り除く方法を考えた。


「それは当然。彼らには能力がない。例え、元人間であっても、人間に役立たなければ、意味がない。可愛そうだが死んでもらったのだ」

「はあ……しかし、ヤマダさんはウサギ男ですよ」


 ギクッ……。明らかに墓穴を掘ったと自覚した反応を見せたチョコ。そこで意地悪く、主人を追い詰める護衛侍女エリス。

「ウサギですよ、最弱ですよ、しかも、おっさんです!」

 エリスの厳しい追求にタジタジになったチョコであったが、おっさんという響きに反応した。

「何を言っているのだ、エリス。おっさんの渋さが素敵じゃないか!」

「はあ……チョコ様はおっさん好きだったのですか?」

 慌ててプルプルと顔を振るチョコ。思わず、思ったことを言ってしまって慌てて打ち消す。

「と、ともかく、私のカンでは彼は絶対に役立つと思うのだ」

「カンですか……いつもは、私は現実しか信じないわとか言ってませんでしたか?」

「い。言ってない!」

「……では、そういうことにしておきましょう」


「とにかく、彼を我がパーティの一員として、私の下僕とする」

「分かりました。チョコ様の決定ならば、侍女のわたしが口を挟むことではありません。しかし、チョコ様、下僕にするなら別にここへ住まわせればよいのではないですか。町の別の場所へ住まわせる理由がわかりません。ここには小間使い部屋がいくつもありますのに……」


 エリスはチョコがウサギ男をこの屋敷に住まわせない理由が未だに分からない。そもそも、退治に行った先で改造人間を捕らえてくることが珍しい。先程もエリスが指摘したとおり。この無敵の女勇者は、これまで魔族は例外なく消してきたからだ。


「そ、それは……私の考えがあってのことだ。詮索は不要」

「はい。出過ぎたことを聞きました」

「では、エリス、私は疲れた。少し休むことにする。今から1時間は起こさないでくれ」

「はい、チョコ様」

 

 エリスは勇者チョコの忠実な侍女である。彼女は幼少の頃から、神によって召喚された勇者に仕えるためだけに訓練されてきたのだ。チョコの命令には絶対に従う。


「それではチョコ様。おやすみなさいませ。起きた時においしいお茶をご用意させていただきます」

「そうしてくれ……」


 もう一度言おう。護衛侍女エリスは勇者チョコの忠実な侍女である。忠実だからこそ、常に勇者チョコを気遣う。忠実だから、こっそり勇者チョコを見守る。


 部屋を出たエリスは密かに作らせた隠し部屋に滑り込んだ。これは勇者チョコが執務をしている部屋の壁にかかった肖像画の裏壁に通じている。絵画の人物の黒い瞳を裏かスライドするとそこから密かに観察できるのだ。壁が薄くなっているから音もよく聞こえる。


 エリスがドアを閉めていなくなったのを見て、勇者チョコは執務室に置いてあるソファにダイビングした。そこには愛用の等身大のウサギのぬいぐるみがある。それを抱きしめた。長い脚でぐいと挟み込み、ギュウギュウに抱きしめる。


 綿が入った柔らかいぬいぐるみは、それだけでちぎれそうになる。


「はうううううっ……好き、好き、好き~ああああ……早く、会いたいわ~。ヤマダさん~」

 

 ぶちゅぶちゅとぬいぐるみにキスをしまくる女勇者。


「な、なんで社長がこの世界にいるのよ~。声も渋いわ……ああ、全てがダンディ~」

 

 その様子をこっそりと見ている護衛侍女エリス。思わず、頭を抱えた。


(ああ~チョコ様、やっぱり、あのウサギのおっさんに心奪われて~)


「あんなダンディでかっこいい、ヤマダさんと同じ屋根の下で過ごせなんて、エリスはなんて馬鹿なんでしょう。そもそも、まだヤマダさんとの関係はこれからなのよ。今から同棲だなんて、いくらなんでもはしたないじゃない……そりゃ、まあ、それでも私はいいけれど……やはり女は慎み深くないと」

 そう言いながらも(はあ、はあ)と息が荒くなる勇者チョコ。


「あんなかっこいいダンディなヤマダさんがこの屋敷で寝ていたら、私が夜這いするかもしれないじゃないの!」


 そこまで聞いていたエリスは思わず倒れそうになった。意識が途切れそうなくらいの残念オーラに必死に抗う。


(ダンディって、あの変なウサギ仮面が?)

(しっぽだって生えてましたよ。お尻にちょこんと間抜けな尻尾が!)


 そんな護衛侍女ガードレディが盗み聞きしているなんて、夢にも思わない女勇者はとんでもない妄想へと移っていく。


「だいたい、エリス自身が危ないわ。この屋敷にヤマダさんが住んでいたら、あの子がヤマダさんに迫ってイヤラシイことするに違いないわ。ちょっとだけ、私より大きい胸使って誘惑するのは間違いない!」


(あああ……チ、チョコ様、そんなことこのわたしがするはずがありません~)


「はあ~これは運命よ……絶対に運命なのよ。ヤマダさんは私の前に現れた時に運命だわって感じたわ」


(ダメだこりゃ……。チョコ様が間違った道に行かないように注意しなきゃ……)


 やがてぬいぐるみに顔をうずめて寝てしまった女勇者を眺めながら、自分の仕事の困難にため息をついたエリスであった。

 


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