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閑話:混迷の時代

 シンが隣国で新しい生活を始めるのと同じ頃。

 クロッサス王国では“真の勇者”があまりにも弱かったため、誰もが頭を抱えていた。


 さすがにシンに再び勇者をやらせようという話にはならなかったが、王女との結婚、そのお披露目がされていなければ国王は娘の意思を無視してそうしたであろう。

 四年も勇者に頼ってきたため、辺境を支える戦力が全く足りていなかったのである。



「どうなっているのよ!! 勇者の力は確かに移植できたんでしょう!?」

「おおお、落ち着いてくだされ! まだ彼の者は勇者の力に慣れておらぬのです! 聖剣が腰にある以上、成功は間違ないないですぞ!」

「それは何度も聞いたわ! じゃあ、いつになったら慣れるって言うのよ!」

「それは……その……。ハッキリとは分かりません……」

「どうしてこんな事に……」


 新しい勇者が弱い、その主な理由は、彼が勇者の力の使い方を知らなかった事にある。


 シンは力を失ったが、手加減をする様に、力を使わない状態での新しい体の動かし方を学ぶことができた。例えば事故で片方の腕の骨が折れた時、もう片方の腕だけを使って生活に支障が無いように練習したような状態だ。

 しかし真の勇者は力が無かった状態に新しく力を追加されたが、頭の中にその力を使うための方法が無く、どうすればいいのか分からなくなっているのだ。極端な例えだが、外科手術で健常者に腕を移植したようなものである。普通の人間は腕が三本になったからといっていきなり三本目の腕を使いこなせないのだ。



 ただ、真の勇者に関する問題はそれだけでは終わらなかった。


「大変です! 勇者様が、勇者様がっ!!」

「何事です!!」

「勇者様が、倒れられました! 聖剣を奪われ、意識がありません!!」

「なんですって!?」


 真の勇者は、宮廷魔術師によって勇者の力を魂に“無理矢理”移植されただけの元一般人である。

 勇者の力を使おうと必死になって練習していたことで意識と魂の間に致命的な誤差が生じ、(からだ)の方が壊れたのである。

 倒れた、意識が無いと伝令の兵士は言ったが、実際はそんな生易しい容体(ようだい)ではない。兵士が気が付いた時には、魂が半ば砕けかかった瀕死の状態だった。


 それはつまり。


 真の勇者が倒れたことで動揺した王女と宮廷魔術師に、更に訃報(・・)が続く。

 先ほどの伝令兵に続き、別の伝令兵が王女の所に来たのだ。

 彼は青い顔をしていて、何を言えばいいのか、言ってもいいのか、すぐに報告を上げようとしない。


「何が起きたの! 早く言いなさい!」


 そんな伝令兵の態度に不安から強く当たった王女は大声をあげる。

 そうして、ようやく伝令兵は重い口を開いた。


「勇者様が、お亡くなりになられました」

「へ?」

「死因は、不明です。ただ、両方の手のひらが、焼けただれていまして、それが死因の一つではないかと……」

「姫様!?」


 伝令兵は、真の勇者の死を告げた。

 あまりの話に意識を保てなかった王女は思考停止し、気を失った。

 宮廷魔術師筆頭は慌てて王女を支えるが、彼女の意識は数日間戻らないのであった。





 事がそこまで動き、しばらくしてからシンの行方が問題となった。


 真の勇者がいた時は、それでもまだシンを如何こうしようという話は出なかった。

 王女が彼を嫌っていたというのもあるが、真の勇者と元勇者を接触させることで悪影響が出る可能性があったからだ。勇者の力がシンの所に戻ってしまうと考えられていたのである。



 しかし勇者不在となると、単純に別の可能性が誰もの頭をよぎった。

 シンこそが本物の勇者であり、勇者の力は彼の元に戻ってしまったのではないかと。

 勇者の力とは人がどうにかできるものではなかったのではないかと。


 そうなるとシンの状態が気になるのは当たり前で、彼の故郷に人が送られた。

 だがシンの故郷に行った兵士は、シンが家族に家を追い出され、そのまま村を出ていった事を知る。



 王女はともかく、その事を知った騎士団長他国の上層部は思い通りにならず大激怒したが、勇者不在は既にどうしようもないほど人の口に流れていた。

 彼の家族が処罰されるなどの始末はあったが、だからといって勇者不在は辺境に大きな影を落とす。


 クロッサス王国は、勇者の時代から混迷の時代を迎えようとしていた。

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