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失われた力

 勇者とは何なのか? その力を他者に移すことは可能なのか?

 その挑戦は宮廷魔術師筆頭だった男に王家より与えられた、遣り甲斐のある仕事だった。

 魔術士の弟子として勇者を与えられた筆頭は4年の歳月を経て勇者の力の源を突き止めた。


 勇者の力、それは人の魂の中にある「何か」を源に溢れる力。

 それを移植する、再現する事ができるのかと挑み続けた。勇者にその事がバレないように、多くの魔術師を生贄(モルモット)に使い潰して研究は行われた。

 その成果が、先ほどの光である。

 魂に干渉し、勇者の力を指定した者へと移植する大魔術。神の奇跡たる勇者に対して行われた、後に禁術となる呪法であった。



「ふう。これでこの男から解放されるのですね。

 お父様に言われたとはいえ、平民の相手などは金輪際御免ですわ。レディに対し気が利かない、無作法、戦ばかりで私まで砦暮らしをする羽目になる。

 12の頃から今までの時間を浪費させられたと思うと腹立たしくもありますが……まぁ、今後は勇者の妻、聖女としての身分が保証されるのですから。寛大な心を持って許すとしましょう」

「お疲れ様でした、姫様。

 では、これからは王城で?」

「ええ、勿論ですわ。辺境など、たまに手を貸すだけでいいのです。常時勇者の力に頼るなど、ただの堕落ですわ」


 痛みをこらえるシンに対し、王女マリーベルは満面の笑みを向けた。

 その顔は確かに笑顔だが、マリーベルの目に温かさは欠片も無く、虫や畜生を見下すような冷酷さがあった。

 マリーベルは、シンの事を路傍の石程度にしか思っていなかったのである。

 婚約者と言うのもシンが勇者だからであって、シン自身には何の価値も見出していなかった。むしろ、王女である自分が平民と結婚しなければいけない事が大いに不満であった。


 それに追従する騎士団長は機械的な臣従の態度である。

 特に他意も無くシンの事を鍛えていた彼は、弟子としてのシンに対しそれなりの思い入れがあったのである。とは言えそれなり程度でしかないので、王家への忠誠心を上回る事はなかったのだが。

 彼の心境は「あまり面白くない仕事をやる羽目になった」といったものであり、出来ればやりたくは無かったが、諫言をするなど王命に逆らおうとはしていない。仕事に私情を挟む気は無いのである。


 なお、勇者であったシンは生活拠点を辺境の砦としていた。

 モンスターの被害を出さない為には早期殲滅が有効であり、逆に魔境へと攻め入る程の姿勢を見せる事が有効だったからである。

 そのおかげで辺境はずいぶんと北に移っていたのだが、マリーベルにとってそれは王都から離れるだけの事であり、生活がより不便になるという認識しかなかった。




「それで、この者はどうしましょうか?」

「剣士としては使えるのね? ならば一兵卒か何かとして使えばよいでしょう。わざわざ殺すのもこれまでかけた手間を思えば勿体無いですわね」


 ただ、価値を見出されていないというのは、危険視されていないという意味でもある。

 シンはこの場で殺されることなく解放されるようであった。


 ただ、シンは何が起こっているのか正確に理解している訳では無かったので、腰に佩いた剣へと手を掛けようとした。

 痛みでこの場を戦場と認識したことによる、無意識の行動である。

 だが、この行動はシンにより深く絶望を刻むことになる。


「っ!? 痛っ!!」


 シンの腰にあったのは、勇者しか使えない聖剣である。

 その聖剣がシンを拒絶し、手に電撃を放ったのだ。


「あらあら。所詮は平民ですわね。状況の理解が未だに出来ないだなんて。

 お前はもう勇者じゃないの。真の勇者が生まれた以上、お前は聖剣の主ではなくなったのよ。

 勇者の力、その称号は貴族にこそ相応しいのだから平民であるお前が持っていたこれまでが間違っていたの。

 ――身の程を知りなさい」


 シンの行動を見た王女は、その結果に満足すると嬲るようなゆっくりとした口調でシンを馬鹿にする。

 そして、最後に突き放すように、感情を消したかのような言葉を放つと、視線を騎士団長へと向ける。


 騎士団長はその意図を正確に理解できたので、シンを抱えると魔術塔を辞去する。

 シンを外に放り出すためだ。



「これでこの国はもっと栄えますわ。これからもその叡智を捧げなさい」

「御意」


 王女の頭の中では、勇者の力を世代を超えて引き継がせることで国を栄えさせる計画を立てていた。


 勇者の力を人の手で移せるのであれば、彼女の言う真の勇者とは、国が管理できる存在まで落ちる。

 そうすることで圧倒的な武力を持つ勇者の名前で他国を侵略し、クロッサス王国が南にある光の帝国並みに栄える未来が見えていた。


 それを為した、主導した王女は今後どれほどの権力を持つというのか。

 輝かしい未来を目前とした王女は高らかに笑い声をあげるのだった。

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