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結婚前日

 クロッサス王国。

 周辺と比べ国土こそ狭いものの、魔法の力を持つ者が多い事と辺境を有する国家であったため、他国より侵略されないといった状態である。

 弱小国と言うほどではないがモンスターの相手で忙しいのでさほど恐ろしくなく、自分たちが敵にすると面倒くさい国と言うのがクロッサス王国の周囲からの評価である。



 王都であるリーヴァルの人口はおおよそ5万。

 周辺最大規模の国家である“光の帝国”であれば帝都の人口は100万を超えると言うが、国と言うより大きな村とでも言うような規模の小国であれば首都であっても人口が1万を下回る事を考えると、首都の人口が5万というのはそこそこの規模と言っていいだろう。


 リーヴァルは門から王都中央にある王城までの大通りに面した建物のみ見栄えのために石造りであるが、少し内側に入ればいくらでも木造の家がある。たとえ首都であっても全ての家を、店を、石造りにする経済的余裕が無いのだ。

 ただし逆に言えば、門から入りそのまま王城に向かうのであれば見栄えの良い街並みを見るだけで済むようにできていた。





「僕とマリーが婚約して3年だよね。そう思うと感慨深いよ」

「そうですわね、勇者様」


 数台の馬車が王都の北門より入ってきた。

 この馬車は門を素通りし、そのまま王城へと向かう。


 門で足を止められなかったのは馬車の一つにこの国の王女と、ある意味において王女よりも重要な「勇者」が乗っていたからである。

 一介の門番が誰何できる相手ではなかったのである。


「これからも頑張るよ。でも、できる事は頑張るけど、その……礼儀作法とか、まだ不安だから。いざって時は助けてね、マリー」

「もちろんです。勇者様の妻として、私も精一杯務めさせていただきますわ。

 勇者様はこれまでのようにこの国を守ってくださればいいのです。その他の雑事など些末事、お気になさらずともよいのですよ?」

「うん。でも、やれるだけやって、少しでも負担をかけないようにするね。女の子に頼ってばかりじゃ、かっこ悪いから」


 勇者は4年前、12歳の時に頭角を現した。

 元は開拓村で育ったただの子供であったが、モンスター襲撃の際にその眠れる力を解放し村を守りきったのだ。いつの間にか手にしていた武器が聖剣であったため、シンが勇者であるという事はすぐに知れ渡った。

 事情を知った国はシンを保護という名目で確保し、第三王女マリーベルと引き合わせることにした。陳腐ともいえるハニートラップであるが、村育ちのシンには効果てきめんで、自分を慕うように振る舞う美しい王女にすぐ心を奪われた。

 1年後には婚約を結び、シンが成人と認められる16歳になるのを待って結婚とお披露目を行う事になっていた。


 なっていたのだが。





 勇者の結婚とお披露目の前日。

 王女マリーベルとの結婚式の前日でもあるその日に、シンはマリーに呼び出され、魔術塔と呼ばれる場所に来ていた。

 シンは王女が呼んでいるからとメイドに案内されて、魔術塔の中でも宮廷魔術師筆頭が使う部屋まで連れられた。


 魔術塔は宮廷魔術師たちが魔術の研究を行うための場所である。

 シンは戦闘で使う魔術を修めるために何度かここに来たことがあるが、結婚式を控えたこの日にマリーから呼び出される用事が思いつかなかったので困惑していた。シンをここまで案内したのが王女付のメイドでなければ途中で引き返していたほど、この場所とマリーが結びつかなかった。



「ようこそ御出で下さいました、勇者様」

「マリー」


 本当にここに来て良かったのかと不安になるシンだったが、それでも案内された部屋に婚約者(マリー)がいれば話は別だ。安堵の息を吐き、笑顔を見せる。


「どうしたんだい、マリー? 話をするならもっと別の場所でも良かったと思うんだけど。

 防諜が気になるって言っても、城の別の部屋だって大丈夫だよ。それはマリーも良く知っているよね。僕も魔術が使えるし、外に聞かれたくない話をするだけならここじゃなくていいと思うんだ。

 ほら、お茶が飲みたいって言っても、ここだと不便だよね」


 シンはどこか落ち着かない空気を感じ、マリーに場所を変えようと提案する。

 しかし、王女はシンの提案に笑顔で首を横に振った。


「いいえ。ここでなくては駄目なのですわ」


 王女がそう言うと、シンの足元が光を放つ。


「え?」


 その光を浴びたシンは全身から力が抜ける感覚に襲われた。

 モンスターの使う悪しき魔術を受けた時の様な、そんな危険な状態である。

 シンは慌てて光の効果範囲用から逃げようとするが。


「残念だが、王命だ。逃がさんよ」

「え!? 騎士団長!!」


 そこに騎士団長が現れ、シンの逃亡の邪魔をした。騎士団長は魔法抜きなら王国一と言われる剣の使い手で、シンにとっては剣の師匠であった。無論、魔法ありでも王国で5指に入る強者である。剣の技だけであればシンよりも強いのである。

 殺す気は無いのか、騎士団長は刃引きされた鉄の剣を持ってシンに襲い掛かる。


 シンは騎士団長の攻撃を受け、逃亡に失敗した。

 普段であればただの人間でしかない騎士団長に後れを取る事などありえないのだが、光に力を奪われたことで生まれた感覚の誤差が思った以上に大きく、上手く避ける事が出来なかったのだ。

 腕に一発、そのあと腹にもう一発。強いダメージを受け、シンの動きが止まった。そのまま騎士団長に腕を固められ、身動きできなくなる。



 その為、シンは光にさらされどんどんと自分が弱くなっていくのを感じる。

 そして光が収まった時、シンは“勇者”ではなく“ただの人”となっていた。

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