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事件による変化

 王女を討ったことで、シンの中でいくつか意識の改善がなされた。


 これまでシンは女性と付き合いたい、結婚したいという意思を見せているにもかかわらず、特に行動してこなかった。

 その臆病さの理由、それは王女に振られた事が根っこにあったのは間違いない。

 恋愛とは全く異なる方向性の克服方法だが、過去に決着をつけた、王女を自分の手でどうにかしたという事実が良い方向に働いたようである。

 ……恋愛的には何もしていないが、良い変化なので問題は無いはずである。


 もう1つの変化は、自分の影響力についてようやく理解した事だ。

 シンの周囲にはシンの意志を汲んで動いてくれる人間が多く、これまで考え無しでもあまり問題が起きなかった事もあり、シンは真剣に自重しない傾向にあった。全く何も考えない訳では無いが、影響の大きさに見合う思考をしていなかったのである。

 それが、エドを害された事で学んだのだ。自分の影響力は人の命にかかわるのだと。

 戦場で守れる・守れないではなく、自分のいない場所で大切な誰かが狙われるかもしれない事を実感したのだ。

 これはすぐに結果が出る事では無いが、自分に対する他人の思惑を考えるようになったのは進歩と言えるだろう。





 斬られたエドだが、こちらは5日ほどの休養を経て職場復帰した。

 いつまでも寝ていられないとばかりに働くのは、一家の大黒柱としての自覚からだ。お父さんは子供を養うために稼がないといけない。安易に祖父母に頼るようでは一人前ではないのだ。

 職場では仲間から「無理をするな」と気を遣われる事になったが、血が足りないが傷は塞がっているので、大きな問題は起きないだろう。



 今回の件についてシンがみんなに謝っていたが、それは周囲から止められた。

 シンが悪いと思っている人間が少なかったのである。


 また、男爵が自分の管理責任を理由にシンやエドに頭を下げる一幕もあったが、男爵の責任、力不足を責める者はほとんどいなかった。直接責める声は全く上がらなかったと言っていい。

 それもそうだろう。他国の間者をどうにかできる男爵など普通はいない。

 もし責める相手がいるとすれば、国同士のやり取りになるので国王などぐらいである。

 そして顔も見たことの無い国王を責めようとする、意識の高い人間は村人には居なかった。


 その分だけ死んだ王女やそのお付きの二人は責められる事になるのだが、既に森に還った死人なので言われ放題でも「だからどうした?」である。

 責任を取るべき悪人は正義の味方に討たれたのだから、それで話は終わりでいいのだ。





 小さくない問題を引き起こしたシンの魔術教室だが、これはそのまま継続される事になった。

 周囲への影響を考えると止めた方がいいのではないかとシンは言いだしたが、むしろ今更止めた方がよっぽど問題であると男爵などは考えた。それまでやってきた事を取り止めようものなら、暴動が起きると思ったのである。


 男爵の考えはそこまで大きく間違っていない。

 人間は慣れる生き物であり、既得権益と言うのは一度認知されてしまえば手遅れなのだ。

 人は不便な生活に戻る事を善しとしないし、得られたチャンスを奪われるなら抵抗する。


 それに教える事がまだこれからという魔術教室は予約でいっぱいだ。生徒は村の外にもいる。

 もしも魔術教室を閉鎖するなら、不平不満は村の運営を脅かすほどの規模になるだろう。


 シンの教師役は、基本的にそのままである。





 これはシン以外の変化だが、シンの周囲が少し静かになった。


 シンを口説くべく送り込まれた人員も、シンの周囲が思った以上に危険である事を知ったからである。

 単純に、将来有望なシンの嫁に収まれば贅沢出来たり、食うに困らない生活ができるのではないかと期待していただけの女が距離を取ったからである。


 シンに対し、ぐいぐいと迫ることの無くなった彼女たちだが、それでも存在感を薄れさせない程度にシンの周りにいたのである。時々仕事帰りに話しかけたり交替で料理を持っていくなど、顔を見せるぐらいはしていた。

 それが半数ほどに減った。さすがに命がかかると思っていなかったのだから当然である。


 いまシンの周りに残っているのは、後が無いとまでは言わないが、それでもシンとの生活に賭けている女達である。

 ある意味では、ふるいに掛けられ選別された状態である。

 シンと共に生きる覚悟を決めた彼女たちは、たとえ元勇者であっても簡単に振り切れないだろう。



 また、この一件によりクロッサス王国はシンの奪還を諦めるという一幕もあった。


 王女たちがシンに殺されたというのは、証拠や確たるものは無くとも想像できる話である。

 ここで下手に話を膨らませてサイアプ国と揉めるより、これ以上の損害を出さない事を選んだのである。


 もともと王女たちの行動は公式なものではなかったので、損切りしたのだ。

 勇者の恩恵は欲しいが、それもこれも勇者が戻ってくる算段を付けられればの話でしかない。クロッサス王国の国王は、夢を見るよりシンがいた頃に広げた領地を安定させることを選んだ。





 シンにとって、その周囲にとって。

 大きな変化を起こした事件は終わってしまえば呆気なく。

 その後は静かに時は過ぎ、特に何があるともなく、一年ほど時計の針は進む。


 シンが国を出て四年。

 シンは二十歳になり、一つの決断をしようとしていた。

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