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王女の末路

 人間、距離を詰める事でより仲が悪くなる事もある。


 数少ないシンを良く思っていない者達も、シンの教室で魔術を習う。

 シンを嫌っている事と、シンから魔術を教わる事は両立するのである。

 そうしてシンから魔術を学び、嫉妬からよりシンを嫌うようになるのだ。


 嫌っている相手から利益を得てさらに嫌うなど、まるで身勝手などうしようもない連中だが、真っ当ではない人間が周りにいるのはごく普通の事だ。

 シンが居る世界は善人だけの優しい世界ではないのである。



 例えば、シンを騙し続け裏切ったあの王女のように。





 シンがクロッサス王国を離れ、3年が経っていた。

 シンが魔術教室を開いてから半年以上の時が経っており、近隣では誰もがシンの事を知っているほどの有名人になっていた。


 外来の生徒というのは、シンに対して礼儀正しい者が多い。

 彼らは魔術を学びに来たわけだが、シンに対し無礼を働けば魔術を学べなくなる可能性が高いからだ。

 魔術はどこでも手軽に学べるものではない。こういった専門知識は教える側が圧倒的に上なのである。



 そんな理由もあり、門番のエドは外から来る者に対してあまり警戒しない。


 明らかに問題がありそうな者というのはそうそう来るものではないし、そういった連中は来るとしても門をくぐらず隠れてどこかから侵入するのである。

 門番の存在意義が問われる話であるが、門以外から入ろうとする者への対策として村の周りには罠が仕掛けられているので大きな問題は発生しない。そもそも、物見櫓に見張り番が詰めているのでそういった不法侵入者へは彼らが対応するのである。



「えーと、シンへの取次ぎ? そういった事は出来ないんですね。あいつは忙しいから、先に村長へ話を通してもらって、それから予定を組んでもらえるか確認してもらう事になります」


 その日、エドは厄介ごとの塊のような三人組と話をしていた。

 彼らはシンに魔術を習いに来たと言って、シンに取り次ぎを願っていた。



 若い女に護衛らしき男が二人。まずその時点で明らかに訳ありであった。

 護衛を雇える資金がある人間なら、魔術ぐらい王都で学べば済むのである。何故王都で魔術を学ぼうとしないのか。とても怪しい。


 若い女はどこかの貴族の御令嬢といった雰囲気であったが、そんな立場の人間が馬車も使わず歩き出来た時点で怪しい。

 それに、貴人であれば先触れぐらいは出すものだ。普通の貴族は飛び込みをしない。それが出来ないのは出来ない理由があると言う事なのだ。

 エドはとても警戒し、相手を注意深く観察することにした。



 男のうち片方は明らかに鍛えられた体つきをしており戦闘経験豊富といった身のこなしをしていたが、もう一人は剣を握ったことが無さそうな細身の男である。エドは男が魔術師であると気が付いた。

 異国の魔術を学ぼうという魔術師が来ることは不思議ではないが、そもそも彼らだって他国の者である。彼らはシンと同じクロッサス王国の者特有の訛りがあり、同じ魔術を学んできた者であるはずだ。

 そこまで気が付くと色々と話に矛盾が見えてくる。


 シンを連れ戻そうという関係者か、シンを暗殺しようという刺客か。どちらにせよ、ろくでもない。

 エドは内心の焦りを隠し、仲間を呼ぶことにした。相手に見えないようにハンドサインで仲間を集めろと指示を出す。



 エドの意識があったのはそこまでであった。

 気が付けば、エドは血にまみれて倒れる。


 エドは元・騎士団長に斬られていた。

 右肩から左の脇腹まで切り裂く、強烈な一撃を受けた事で意識を手放し、倒れた痛みで意識を取り戻したのだ。

 エドは意識を取り戻したが、その意識も出血ですぐに混濁していく。



「ちょっと! いきなり何をしているのよ!!」

「この門番には疑いを持たれている。このままではシンに逃げられるぞ」

「だからといってこれは無いでしょうが! 私の計画が!!」

「まだ準備も何もしておらんのだぞ! この脳筋めが!!」

「相手はシンだぞ。命じれば済む話だ」

「そんなに簡単な話じゃないのよ!!」


 三人組は、王女たちである。

 彼らはシンをクロッサス王国に連れ戻し、復権を狙ってやってきたのだ。

 ただ、その為の手法が事前に打ち合わせなどされておらず、認識に大きく差があるようであったが。


 王女は色仕掛けをするつもりであった。

 元・騎士団長は命令すれば済むと思っていた。

 元・宮廷魔術師筆頭は再び勇者の力を奪うつもりであった。


 ロクに話し合いをせずに、強行軍でここまで来たことが裏目に出ていた。

 王女は護衛としての力を求めて二人を連れてきたが、主導権は自分にあると思っていたのが間違いである。


 男たちは王女の資金をアテにはしていたが、王女の言う事を聞く気はほとんど無かった。

 元・騎士団長は国王に忠誠を誓っていて、シンを連れてくればいいとしか考えておらず。命令すれば何とかなるとしか考えていなかった。

 元・宮廷魔術師筆頭は自身の研究にしか興味が無い。失敗した勇者の力の移植を今度こそ完璧にやってみせようとしか考えていなかった。

 成功するかどうかは別にして、男どもより王女が一番まともにものを考えていたりする。



 エドが斬られた事で、門の周りは大騒ぎになった。

 すぐに最強戦力であるシンが呼ばれる。

 ある意味では、元・騎士団長の思惑通りの展開であった。


 ただし。

 彼らはシンの視界内に入った瞬間に、一言すら喋る間もなく命を刈り取られた。

 当たり前の話であるが、危険人物はまず拘束しておくものだ。特に人の命を救おうとしている時なら、安全の確保こそ優先されるのだから。



「エド!! ……良かった、まだ間に合う」


 シンは三人を問答無用で制圧すると、エドの容態を見る。

 傷は深く放置すれば命にかかわるが、シンが間に合った以上は救える命である。シンは魔術でエドの傷を塞ぎ、最低限の回復を行う。


 シンの使う魔術による回復は何でもありという訳では無い。自然治癒力を高める種類の回復魔術なのだ。

 だから対象となった者の体力を相応に消費するし、足りなくなった血などは時間をかけて作るしかない。

 魔術の世界では攻撃よりも回復の方が難しい。

 それだけの話である。



 その後、問答無用で殺された三人の遺体は犯罪者として森に捨てられた。

 金目の物を回収することもできたが、シンたちはそれすらせずに捨てたのである。それだけ関わりたくないほど、シンは怒っていたのだ。



 王国からは王女たちの行方を聞く声もあったが、そもそも王女たちは日陰者である。

 そのうちだれの記憶からも忘れ去られるのであった。

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