勇者時代
クロッサス王国、北の辺境。
そこは人類の最前線である。
辺境とは国の端であるだけでなく、モンスターが多数生息する“魔境”に面している地域の事だ。
当然ながらモンスターから国土を守る砦があり、多数の兵士がそこに詰めている。
人類と辺境のモンスターの戦いは一進一退で、北の大地の特性上、農業など生産活動があまり盛んではなく、それ以上先に進めないのだ。
それでも戦線を押し込もうと新しい砦を造ろうとしてはいたが、知性あるモンスターの暗躍により、それは叶わない事となっている。
モンスターの脅威にさらされる辺境を開拓し、モンスターがほとんどいない内地を広げる為、人類は常に終わらない戦いを繰り広げてきた。
終わりの見えない戦いではあるが、止めてしまえば逆に辺境が魔境に呑まれ、内地が削られてしまう。
戦費が国庫を圧迫しようと、戦わない訳にはいかなかった。
だが。
今の時代はとても恵まれている。
なぜなら、モンスターを圧倒する“勇者”がいるからだ。
勇者の持つ聖なる剣はどんな堅いモンスターでも容易く切り裂く。
勇者の魔法は時にモンスターを焼き払う業火となり、時に傷ついた人を癒す光になる。
万のモンスターがいようと、勇者の力でその全てを薙ぎ払える。
勇者は世界に一人しかいないが、不在の時代も珍しくない為、今の時代は恵まれているわけだ。
クロッサス王国は勇者を厚遇し、国王は王女の一人を嫁に出す事にした。
勇者は強者であるため他国に奪われるわけにはいかず、国につなぎとめる為の方策である。
勇者に憧れた王女はその決定に快く応じ、純朴な勇者は王女との交流で彼女に好意を抱く。
交流を始めて3年、二人の結婚が大々的に報じられるその前日に事件は起こった。