大層な果報者じゃぁないか
「ライカ! いつまで寝ておる。早う起きよ」
という声を聞き、はっ、とライカは目覚めた。
(何!? デジャブ? ってか、昨日の朝と同じパターン!?)
一瞬、寝ぼけた頭でそう思ったが、急いで首を左右に振り意識を覚醒させようと頑張る。
そして気付いた。目の前に、ライカを覗き込む彼の顔があった。
よく眠れたのか、実に爽やかな笑顔である。昨晩酷かった、目の周りの隈も消えている。
(よかった~)
ライカの頬が自然と緩んだ。
「そなた、デカい乳をしておるなあ。……子が生まれたら、牛の如く立派に育ちそうだ」
突如、彼がそう言って笑った。
(……!?)
と首を傾げ、そしてふと気付く。あたしってば胸丸出しの、パ○ツ一枚姿ではないか。
「ぃやんっ」
慌てて掛け布団で身を覆い隠す。
「さあ、早う着替えて、女将と余の家来をここへ呼べ」
そう促され、ライカはジタバタしつつ服を着込むと階下にすっ飛んだ。
程なく、座敷には女将と赤丸が揃い、四人が顔を突き合わせた。
「昨日女将には伝えたが、ライカを儂が引き取る。……赤丸、これなるおなごの住まいを探せ。長屋か何かで良かろう」
「いや福之介様、それは……」
と口を挟んだのは、女将である。
「ライカはどういうわけか、煮炊きや針仕事はおろか、水汲みひとつ出来ませぬ。一人で長屋住まいなぞ無理でございましょう」
「ほう」
――あたしはフツーの家に生まれ育ったんだけど、一五〇年後の人間だからぁ、多分今の将軍様より便利な暮らしをしてたの~、と彼女が一昨日の夜に語っていた事を、彼はふと思い出した。
「なるほど。そういうものかのう」
「殿、……じゃなくて……主殿。今後もこのおなごの下に、お忍びで通われるので?」
赤丸も彼に尋す。
「まあ、そうだ。……あ、いや、ライカは儂の愛人ではないぞ。時折ライカの下を訪れ、知恵を借りるだけだ。妙な勘違いはするなよ」
「いやどちらにせよ、同じことでござるが……。長屋は意外に人目がござる。それに壁も薄うて、会話が周囲に筒抜けとなります故、勧められませぬ」
「左様か……。されば長屋ではダメか」
彼は暫く腕を組み思案すると、
「赤丸、お前は手頃な旗本の株を探し、買え。一〇人扶持程度の身代でよかろう。下男下女も数人、手配せい」
「はっ。承知」
赤丸が畏って頭を下げた。
「されば女将。それらの手配が整うまで、いま暫くライカの面倒を見てくれ」
「はあ……。それはまあ、ようございますけど」
女将が面食らっている。
彼女は赤丸が、福之介の事を『殿』と呼びかけたのに目聡く気付いていた。
(さては……どこぞのお殿様なのかねえ、福之介様は)
と、密かに悟った。
もっとも、さすがに彼が次期将軍様だとは知らない。
いや、福之介様よりもっと得体が知れないのは、ライカの方だろう。得体が知れないのは、どうやら見た目だけの話ではないらしい。
「ライカ、あんた一体何者なの!? ……何とまあ、大層な果報者じゃぁないか」
驚き呆れる、女将。――
当のライカは、未だ事の重大さを解っておらず、女将の隣でポカンと呆けている。
第二章、以上です。
う~ん……。な~んか、今イチですなあ。
軽いノリでサクサク読める、ってお褒めの言葉をちょくちょく耳にした作品だった筈なのですが、どうも初っぱなから重すぎるような気が……。
うん、あれですな。――
構成的に、第二章は重くならざるを得ない。
……ってえ事は、序章をどげんかせんといかんですな。もっと序章を軽くして、一気に読者を作品世界に引き込まんにゃいかん、と。
つまりアレですわ。元々の作風を活かしつつ、ラクに改修しようとして、序章をほぼそのまま利用したのがイカンかったようですな。
よし、年末年始は序章の見直しを行います。
さて、第三章はいよいよ井伊直弼君の登場です。
家茂君からいきなりアレを命じられ、井伊の赤鬼が青くなります。乞うご期待!!(!?)