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Dead End/Over Route(デッドエンド/オーバールート)  作者: 高嶺の悪魔
第二話 取り返しのつかない話 ~少女奉納~
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ブクマを頂いている二名の方へ、心よりの感謝を込めて。

大変長らくお待たせしました。

相変わらず、深く考えずに書いております。

何も考えずにお読み下さい。


久々に書いて思ったのですが、僕もお姉ちゃんが欲しいです。

 未逢みほう市。

 それが、僕ら姉弟が住む街の名だ。

 太平洋に面した臨海都市であり、東側を海に、残る三方を山に囲まれたこの街は、中心を東西に奔り流れる伏流ふくりゅう川という川によって北を市街地、南側を高層ビルの立ち並ぶビジネス街に分断されている。

 街の人々が新都と呼ぶ、この南側のビジネス街は数年前に行われたという都市開発計画の成功によってできたものらしく、近頃では新都心としても注目を集めているそうだ。

 街のほぼ中心部、市街地側には伏流川の流れに寄り添うように小さな山があった。


 これが、何もかもが終わってしまった僕ら姉弟が住む街。

 そして今回の、もうどうしようもなく取り返しのつかない、知ったところでどうすることもできないお話の舞台になる場所だ。


 それは夏休みが明けてから、つまり何もかもが終わってしまった僕ら姉弟が、あの鉄錆と腐臭に彩られた真夏の十日間を過ごし、とある魔法使いによって助けられてからこの未逢市へとやってきて、僕が私立高天ヶ原学園高等部二年E組に転校してから二週間目のことだった。 


 その日も僕はお姉ちゃんと一緒の布団から起き、お姉ちゃんと一緒に朝ご飯を食べ、一緒に歯磨きをして、顔を洗い、着替えさせっこをして支度を整えた後、一緒に住んでいる安アパートの前で行ってきますのぎゅーとチューをしてから学校へと向かった。


 この一週間、止む気配もなく降り続く雨の中、お姉ちゃんに買ってもらった傘を差しながらご機嫌で登校した僕が下駄箱で靴を履き替えている最中。

 偶然か必然か。その前を通りかかった黒髪ロングに細い縁取り眼鏡を掛けたTHE・委員長といった見た目の女の子が、朝の挨拶をしてきた。

「あら、六道縁ろくどうえにし君。おはよう」

「おはよう、委員長」

 そんな彼女に、僕は片手をあげながら挨拶を返した。

 彼女は委員長だ。

 その見た目の通り、僕のクラス委員長を務めている女の子で、毎朝、職員室から朝のホームルームで配るプリントを教室へ運ぶのが日課であるらしい。それがちょうど、何故か、僕の登校時間とばっちりかぶるのである。

 靴を上履きへと履き替えた僕は、とりあえず委員長が抱えている重たそうなプリントの束の半分を受け取った。それから、先ほどの挨拶に妙な点があったことを思い出す。

「ん? ところで、なんで、フルネームで呼んだの? いつもは六道君って……」

「半年ぶりだもの。みんな、忘れているかもしれないでしょ」

「え、誰が?」

「ちなみに、私はこの私立高天ヶ原学園の理事長の孫娘で、日那潟伊吹ひながたいぶきよ。委員長じゃなくて」

 え。誰に向かって喋ってんのこのJK。

「だって、六道君に任せてたらお姉ちゃんのことしか語らないじゃない」

 やれやれと言った視線を向けてくる委員長。

 いや、そりゃあそうだけどさ。どういうことなの。

「しかし、困ったものね。この雨にも。一体いつまで降り続くのかしら」

 そしてすげえ唐突に話題を切り替えやがった。それもあろうことか、話すことがない相手と無理やり会話を繋げるときに出す話題ランキング第一位の天気の話に。

「天気予報では秋雨前線が停滞している影響だとか言っていた気がするけど」

 僕とのトークってそんなに面白くないのかと軽く落ち込みながらも、朝見たニュースを思い返しつつ僕は言った。

 前線が停滞していると言っても、どうやったらそうなるんだよと思わずツッコミが入りそうになるぐらいピンポイントで未逢市だけに雨雲が掛かっている天気図を思い出す。

 委員長は同じような天気予報を見たんだろうか、僕の言葉に曖昧に頷きながら雨がしとしとと降りしきる窓の外を眺め、ふと、ぽつりと漏らした。

「ほんとに。このままじゃ、お祭りが中止になりかねないわ」

「お祭り?」

 思わず僕の聴覚が全力で反応するワードが委員長の口から発せられて、僕は脊髄反射で聞き返していた。すると委員長は一瞬不思議そうな顔で僕を見た後、あ、そうかと思い出したように言った。

「六道君、この街に引っ越してきたばかりだものね。秋の大謝祭を知らなくても仕方ないか。ええっとね、あ、ほら、ちょうどそこの掲示板に張ってあるわよ」

 言われるまま、僕は委員長が顎で示した方向へと顔を向ける。そこには校内のお知らせなんかを張っておくための掲示板があった。そしてその中に、先ほど委員長が言った“秋の大謝祭”と大々的に書かれたポスターを見つけた。

「ふぅん。地元のお祭りかぁ」

 ポスターに書かれている、祭囃子や出し物への参加を呼びかける文句を流し読みしながら僕が呟くと、委員長は大きく頷いた。

「そ。そんなところね。ほら、街の真ん中に小さな山があるでしょ? あの山の山頂に瑞池大社みずちたいしゃっていう小さな神社があってね。この街の人たちは“お山の神社”って呼んでるんだけど……大謝祭っていうのは、そこに祀られている龍神様に大きな災害が無かったこととか、去年の豊作だとかを感謝するお祭りなの」

「なるほどね」

 なんて返事をしたが、正直、委員長の言葉は半分くらい聞いていなかった。

 お祭り。お祭りか。お祭りと言えば浴衣だ。お姉ちゃんの浴衣姿。今年はもうお目にかかる機会もないだろうと箪笥の一番奥にしまいこんでしまった。何たる失態。

 何時何時如何なる時でも、姉の衣装の準備だけは怠るなというのは弟界では常識なのに。

 などと後悔しながら、僕は再びポスターに目を向けた。お祭りの賑やかさが伝わってくるような、華々しいイラストで彩られたポスターから確認すべき事項はただ一つ。お祭りの日程である。

 出し物に参加を希望する場合の連絡先などが並ぶ下に、それはあった。黄色い楕円で囲まれたそこに記されていた日付は、今月最後の土日二日間。良かった。まだ二週間くらいある。

 だったら、今日はまず浴衣を取り出して……解れていたら縫い直さないと出し、色落ちしていたら染色からやり直さなきゃ……ああ、でも、洗濯は雨が止まないと……いや、焦るな。まだ二週間ある。落ち着け。時期を待つんだ、僕。

「ああ、雨もそうだけど。むしろ、お祭りにとってはこっちのほうが問題ね」


「え?」

 脳内でお姉ちゃんとの素敵幸せお祭りデートプランを練り始めていた僕の横で、委員長が再び溜息をついていた。今度は、話の話題を変えようとしたわけでもないらしい。本当に困っているような声だった。

「なにか手を貸そうか、委員長?」

「……あのね、こういう時は普通“どうかしたの”って聞くところよ。その辺、見事にすっ飛ばしちゃうんだから、君は」

 なんとなく尋ねた僕を見て、委員長は呆れたような顔をしていた。

「違うわよ。ほら、そのポスターの隣を見て」

 そう委員長が示した先に張られていたのは、華やかなお祭りのポスターとは対照的な、言ってしまえば堅苦しい文書のような張り紙。

「お堂が壊されるイタズラが相次いでいます。心当たりのある生徒は、学校の教師または未逢市警察署までご連絡ください……?」

 真っ黒な太字で大きく“重大なお知らせ”と題打たれたその下に書かれている文を僕は読み上げた。その後ろにはさらに“公共物を故意に破壊、破損する行為は立派な犯罪です!”と警告めいた一文に目を通し終えた後で、僕は首を捻る。

「この、お堂って何?」

「ん。お堂っていうのはさっき言ったお山の神社からの分社で……まぁ、小さな祠みたいなものね。そういうのが、この街にはいろんなところに建てられているんだけど。そうね……ほら、他の地域でも道端にお地蔵様が祀られていたりするじゃない? ああいう感じ」

 あー、なるほどと僕は委員長の説明に頷いた。

 お地蔵様なら、僕の住んでいた村にもあった。田んぼ道の真っただ中とかにぽつねんと佇む三体のお地蔵さん。たまに、花とかお茶菓子が添えられていたような記憶がある。

 小さな頃、某教育チャンネルでやっていた昔話アニメを鵜呑みにして、お姉ちゃんと一緒に寒い雪の夜、なけなしの服をお地蔵様に着せに行ったことがあったっけ。

 当然、お地蔵様は金銀財宝やら山のような食べ物やらを持って恩返しには来なかった。

 幼心に、藁にもすがる気持ちでやっただけに、あの時は随分と落胆したものだった。けれど、僕とお姉ちゃんは重要なことを学んだ。神や仏に対して、救いという対価を求めるのは無意味であると。

 結局、そんな考えのせいで僕らはこんな有様になってしまったわけだけど。

 おっと。話が逸れた。

「ん。つまり、その祠が壊される事件が多発しているってこと? イタズラにしても、タチが悪いなぁ……」

「そ」

 僕が言うと、委員長は頭を抱えるようにして頷いた。

「壊され方も凄いのよ。確かに、お堂は随分古い、木でできたものだけど、それなりにしっかりした造りなのよ。それが木っ端みじんだったり、基礎から根こそぎ倒されていたり……」

「それ、イタズラのレベル超えてない?」

 お堂の一部を叩き壊すとか、そういうトンカチレベルのイタズラを想像していた僕の出した驚きの声に、委員長は深刻そうに頷いた。

「そうなのよ。もう重機でも持ってきているのかってぐらい、しっちゃかめっちゃかに壊されてて……大謝祭の期間はね、家の近くのお堂にお供え物をするっていう習慣があるんだけど。一体、どこの誰がやっているのかは知らないけれど、このままじゃあお祭りそのものが台無しになりかねないわ」

 委員長の声にはわずかに怒りが滲んでいた。

 きっと、その大謝祭はこの街の人にとって年に一度の、街をあげての大事なお祭りなのだ。

 僕の住んでいた村でも、年に一度か二度、お祭りのような催しがあった。そんな時、僕ら姉弟はここぞとばかりに屋台を冷かしたりしたものだ。少ないお小遣いで、何を買おうかお姉ちゃんと頭を悩ませて、結局一本しか買えなかったリンゴ飴を二人で分け合ったりしたっけ。

 あの村での日々は、決して良いモノではなかったけれど、それだけは大事な、楽しい思い出だ。

 そういうものが、誰かの心無い行いのせいで中止になってしまうのを、委員長は許せないんだろうな。なにせ、道徳と規則が奇跡的なバランスで服を着て歩いているような委員長だし。

 そう思った僕は、うーんと頭を捻っている委員長の心情を察するように声を掛けた。

「そうならないといいね。早く犯人が捕まってさ」

「まったくよ。今回の大謝祭の実行委員会には、私たち高天ヶ原学園生徒会も名を連ねているのよ。つまり、ここで私が有能さをアピールしてお祭りを成功に導けば、次期生徒会長の座も盤石になるってわけ。それに、そういうエピソードって大学入試とか就職のときに役立ったりするしね」

 前言撤回。

 委員長は向上心しゅっせよくの塊だった。

 それにしても、何も起こらなければいいけど。

 こんな僕が言うのもなんだけど、神さまとかを祀っている場所やものは気安く荒らすべきではない。

 信心深いだとかそういうことではなく、これは経験則として。

 祀られている神さまによっては、或いはその行いの程度によっては、取り返しのつかない代償を支払うことになるかもしれないのだ。まぁ、自業自得と言ってしまえばそれまでだけれども。

「なにかの助けになるかどうかは分からないけど、僕もあとでそのお堂を見回ってみるよ」

「気持ちは嬉しいけど、危ないからやめなさい。私の話聞いてた? 犯人はちょっとした小屋みたいなお堂を粉々にするような凶器を持っているかもしれないのよ?」

「あ、僕、粉々くらいは平気だから」

「は?」

「ナンデモナイデス」

 あぶねえ。委員長があまりにも委員長感に満ちた発言をするものだから、思わず僕も素が出ちまったぜ。

「ていうか、なんで六道君がそこまでするのよ」

 やれやれと、呆れ気味に委員長が言った。

「なんでって」

 僕は真顔で応じた。

 何を言っているんだこのJKは。そんなの、考えるまでもないじゃないか。

「お祭りが中止になったらお姉ちゃんの浴衣姿が見れないだろ」

「それさえなければ救いようのないお人好し止まりなのにね、君」

 救いようがないって点だけはその通りなので仕方がない。

続きは日曜日!

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