1
――高校二年生の夏休み。
僕ら姉弟は、終わってしまった。
完全に、完璧に、もうこれ以上どうしようもないくらい、僕らは完結してしまった。
リセットボタンもリターンキーも無いこの現実で、僕らの結末はとっくの昔に着いていて、神様にだって変える事は出来ない。
だから、これは終わった後のお話だ。
高校二年生の二学期が始まって三日目の教室。
教師がチョークで黒板に文字を書き、内容を解説し、クラスメイト達が黙々と板書を取りながら、授業に耳を傾けている中で、窓側の前から三番目の席に座っている僕、六道縁は暇だった。
三日前、即ち、二学期初日という何とも微妙な時期に転校してきたばかりの僕が、まだクラスに馴染めていないという事もあるが、そもそも、授業中に暇する以外、何をしろというのか。
真面目に授業を受けろという返しが返ってくるかもしれないけど、僕にしてみれば、今さら受けたところでどうにもできない授業を聞く気にはならない。
仕方なく、いつも通りお姉ちゃんの事を考えながら、ひと夏を生き延びたセミたちの盛大な断末魔に震えている窓ガラスの外に目を移した時だった。
目の前を、女の子が落ちていった。
「――は?」
思わず、そんな声が出た。
無意識のうちに立ち上がると、僕は窓ガラスへ手を伸ばす。
やや年季の入ったサッシが不機嫌そうな音を出しながら滑り、開け放たれた窓から僕は頭を突き出して外を、女の子が落ちていった先を見る。
「え?」
また、そんな声が出た。
見下ろした先の地面には、さっき目の前を落ちていった女の子の姿も、当然そうなるであろう死体も、血の跡も、綺麗さっぱり何も無かった。
確認の為に身体を百八十度捻って見上げると、――居た。
この学校の生徒じゃないのかもしれない、セーラー服を着た女の子が、屋上の端っこに立って僕を、というよりも、下を見下ろしていた。白。
あー。成程。
「あ、あの、六道君? どうしたのかな? 外で何かあったの?」
そこで授業をしていた教師が、狼狽したように僕を呼んだ。
三枝穂乃果という女性教師だ。担当、国語。ちなみに、僕のクラス担任でもある。
この春から教師として働いているという彼女は美人というよりも、可愛いと言った方がしっくりくる顔立ちに、淡い茶色の髪をしている。
髪の毛は染めているわけでは無く、生まれつきの地毛であるそうだ。
普段は非常におっとりとした雰囲気の女性だが、流石に生徒の一人が授業中突然立ち上がって窓の外を覗き込んでいるこの状況ではそうもいかないらしかった。
「先生。この学校って、屋上からバンジージャンプ出来るんですか」
「は?」
僕の馬鹿な質問に固まる三枝先生。
「いや、そんなアグレッシブな事を生徒にさせる訳には……というか、屋上は立ち入り禁止だから……」
よほどテンパっているのか、それとも、元々そうした親切な性質なのか、僕の突拍子もない質問にも、三枝先生がきちんと答えてくれている間に僕の視線の先に立つ少女は、また一歩、屋上から踏み出した。
落ちてくる。落ちてくる。あっという間の目の前を通り過ぎて、追った視線のその先で、少女は地面に吸い込まれるようにして消えていった。
僕はもう一度、屋上に振り返る。
白。じゃない。少女はやっぱり、そこに居た。
「それよりも、六道君! 今は授業中です! 一体、何があったの?」
ようやく己の職務を思いだした三枝先生が叱るような声を出した。
それでも、最後には心配そうに近づいてきて、僕が見ているものを一緒に見ようと窓を覗き込んでいる。
その目の前を少女がまた落ちていくけれど、彼女の目には見えないようだった。
やっぱりそうか。迂闊だった。
恐る恐る、教室を振り返るとクラス中の視線が僕に集まっている。
しまった。出来るだけ、目立たないようにひっそりと過ごすように、散々言い聞かされているのに。
夏休みのあの日から、あの出来事からこっち、こういうモノが見えるようになっているのは知っていたはずなのに。
「驚くようなものは何もないみたいだけど……ねぇ、六道君」
「いや、はい。すみませんでした」
小首を傾げながら不思議そうな顔を向けた三枝先生に、僕は謝った。
「すみません。ただの幽霊でした」
その余計な一言を付け加えた事を、僕はその後で散々後悔する事になる。
色々あって、昼休みだ。
色々というのは、まぁ、具体的に、転校初日からクールで近寄り難いオーラを放っていた転校生がクラス中の大爆笑をかっさらい、担任である新人教師を意味不明な発言で混乱の極地へと叩き落としたりと、まぁ、色々あったのだ。
その後、お調子者の男子から「幽霊って何のことだ?」とか聞かれたり、女子たちの僕を見る目つきが明らかに異常者に対するそれになっていたり、落ちた消しゴム拾ってあげただけで「ひっ」と身体ごと仰け反られたりとか、詳細に説明すると僕の気持ちが折れそうなので割愛させてもらう。
ともかく、ようやくの事で昼休みになり誰もが各々の昼食に舌鼓を打っている最中、特に物を食べる必要のない僕は一人、屋上へ通じる扉の前に立っていた。
一人という事を誇張すると僕が寂しいヤツみたいに思われるかも知れないが、別に僕は友達を作れないわけでは無い。
ただ、必要としないだけだ。
そもそも、お姉ちゃんが居るのに何で友達なんて作る必要があるんだ?
姉がいれば人間は生きていける。
それに、屋上にいる女の子に会うなら一人で行くべきだと思う。
この学校で、僕の他に幽霊が見える人なんていないそうだし。
という事で、昼休みが始まるなり一人教室を抜け出して屋上に向かったのだけれど。
「どうしようかな、これ」
目の前にある屋上へ通じる扉を見て、僕はぽつりと呟いた。
屋上への立ち入りは禁止だと三枝先生が言っていたように、扉はがっちりと施錠されていた。
よほど、生徒の侵入を阻止したいのか、チェーンロックの豪華版みたいなものが壁とドアに取り付けられていて、鎖でぐるぐる巻きにされた上に南京錠まで掛かっている徹底ぶりだ。
生憎、ボルトカッターの類は持っていない。
ここを通るのは無理そうだと、視線を上へ向けたところで。
「お」
天井の少し下に、小さな窓があるのを発見した。
床からの高さは二メートル程。ジャンプすれば届きそうだ。
問題はその窓が採光用なのか、換気用なのかはともかく、人が通るには少し狭すぎる事か。
まぁ、そもそも窓というのは人が通り抜ける為には作られていないのだけど。
流石にここを通ろうという発想に至る生徒が居るとは思っても見ないのか、よくあるクレセント錠以外に、カギは掛けられていないようだ。
僕はしげしげと窓を観察しながら、自分の肩幅と窓枠の幅を見比べる。
「うん」
そして、僕は頷いた。
小さいとは言っても、頭をぎりぎり通す事は出来そうだし、これくらいなら、肩の関節外せば潜れそうだ。
よし。物は試しだ。一先ず、窓枠に飛びついて――。
「ちょっと、君。何しているの?」
唐突に背後から声を掛けられて、僕は動きを止めた。
「生徒が屋上へ出入りする事は、校則で禁止されているのは知っているでしょう。もしかしたら、友達いなくてトイレでお弁当っていうのが嫌なのかもしれないけれど、例え如何なる理由があろうとも、私の前で堂々と校則違反をさせる訳にはいかないわ」
凛とした声でそう言いながら、階段を昇って来たのは何処かで見た事がある女子だった。
背中まで伸ばした黒髪をさらさらと揺らしながら、細縁の眼鏡を掛けている。
上履きの色を見る限り、同じ学年のようだから集会か何かで見かけたのかも知れない。
三枝先生が可愛い部類に入る女性ならば、目の前の女の子は文句なしに綺麗と謳われるタイプの女性だった。
「えーと」
さて、どう言ったもんかなと僕は頭を掻いた。
言い訳はともかく(そんなものは星の数ほど思いつく)、勝手にボッチ認定された事は断固、否定したいと思う。
僕は一人では無い。
だって、僕には、この世界には、唯一血の繋がった、たった一人の最愛のお姉ちゃんがいるのだから。世界が滅びるその日まで、僕は一人ぼっちにはならない。
と、口を開こうとした所で。
「って、あれ? 六道君?」
「え? 君、誰?」
何故か知らないが、目の前の女子は僕の事を知っていた。
「誰って……私の事、憶えてくれて無いの? 一応、同じクラスなんだけど……」
そう、彼女は呆れたような、ちょっとだけ寂しそうな顔で言った。
「えー、と」
ヤバい。マジに誰だか分からない。
同じクラスって言われても、ぶっちゃけこの学校に来てから三日しか経っていないのに、個々人の顔の見分けなんてつくか?
「ちなみに、クラス委員長なんだけど」
女の子がさらにヒントをくれる。
「ああ! 道理で見覚えあるわけだ!」
納得したように、僕は手を打ち合わせた。
そうだ、そうだ。
転校初日、誰よりも最初に声を掛けてくれたのがクラス委員長だっていう女の子だった。
学校で分からない事があったら何でも聞いてとか、困ったことがあったら何でも相談に乗るからとか、ちょっと時期外れの転校だけど、僕がクラスに馴染めるように最善を尽くすとか、そんな委員長っぽい事を言っていたような気がする。
そう言えば、見た目もなんかこう、委員長って感じだ。
「見覚えって……私、君に対して割とがっつり会話を交わした覚えがあるんだけど……」
「ごめん。僕、目の前の光景がスクリーンに映る遠い残景にしか見えないタイプなんだ」
嘘では無い。
「うん。良く分からないけど」
なんでだ。
「ともかく、君にとって私は道端の石くらいにしか認識されてない事は良く分かったわ。超ムカつく。何? 殴って欲しいの?」
うわ。すげぇ。
物凄い良い笑顔なのに、なんでか知らないけど底知れぬ恐ろしさを感じる。
こめかみに浮いてる青筋のせいかな?
「い、いや。ごめんなさい、イインチョウ」
「日那潟伊吹」
「え?」
「私の名前よ。二度と忘れないように、手の甲に刻んでおきなさい」
「心じゃなくて?」
「手の甲よ。彫刻刀か何かで」
なんでこの子は委員長なのに発想がバイオレンスなんだ。
「ほら、痛みを伴う記憶って忘れにくいものだから」
僕の心を呼んだかのように、さらっと付け足す委員長。
「成程。確かにそれは経験がある」
僕は頷いた。頭の中で夏休みの、あの光景がエンドレスで繰り返される。
それを振り払うように首を振ると、僕は彼女に言った。
「じゃあ、君の事は委員長と呼ぼう」
そう決めた。
「もしかして、名前覚える気無いの?」
「そんな事無いヨ。委員長、もしかしてその眼鏡からレーザービーム撃てたりする?」
本音を言い当てられたので、適当な話題を振って話を逸らそうとした僕に委員長は冷たく応じた。
「撃てるわけないでしょ?」
いや。撃ってるよ、今まさに。身が竦むような怪光線をレンズの奥から。
「それで?」
どうでもいいやり取りが終わったところで、委員長は改めるように口を開いた。
「六道君は、ここで何をしていたの?」
もちろん、屋上に行こうとしていたのだけれど。
少し話しただけで分かったが、委員長はあらゆる規則と規範を遵守する人間であるようだった。
まさに、THE・委員長。
そんな人に「いやー、ちょっと校則破って屋上に行こうとしていたんですよー」とか言ったら普通に止められるし怒られるだろう。
さて、どうしたものかなと考えていた時、委員長が再び質問を重ねた。
「もしかして、授業中に言ってた幽霊がどうとかって事と関係があるの?」
「あー、それはえーっと」
その通りなのですが。
そうだとしても、そこで僕が委員長の言葉を肯定したら、蔑んだような目を向けてくるに違いない。
くそ。JKはこれだから。
女心を押し付けてくる前に、男子のナイーブな気持ちをもっとよく考えろよ!
「そうね。まずはあの発言について、説明してもらおうかしら。三枝先生をこれ以上、困らせる訳にもいかないもの」
「ん? なんで三枝先生の名前が出てくるんだ?」
はてなと首を傾げた僕に、委員長は呆れたような溜息を漏らした。
「さっき行ってきたけど、職員室中、君の幽霊発言で持ちっきりだったわよ」
何故だ。
そう思ったのが表情に出たのか、委員長はますます眉を顰めた。
「三枝先生が他の先生方に相談したんでしょうね。私も相談されたわ。君は知らないかも知れないけど、三枝先生は君の事、随分と心配していらっしゃるのよ? ほら、君ってクラスに馴染めないっていうか、馴染もうとしてないでしょ? 友達も出来ないみたいだし、どうしてあげればいいかって」
「ああ。そういう……」
いやいや。それは杞憂ってもんですよ、三枝先生。
僕の事は放っておいてくれれば、それでいいのです。
教師としての使命感みたいのは僕よりも、もっと他に向けてあげて下さい。
納得できないかもしれないけれど、僕の事はそう、“そういうモノだ”と割り切って貰えれば。
という本心を口にするのは、流石に三枝先生に悪すぎるので黙っておく。
「そんなに心配されなくても。もう、あんな風な事は言わないようにするし、迷惑をかけないように気を付けるよ」
「だから、そういう事を言っているんじゃなくてね……」
僕の言葉を聞いた委員長は、ますます不機嫌そうになった。
「ああ、もう。三枝先生も可哀想に。教師になって初めて受け持ったクラスに、二人も核爆弾級の問題児が居るなんて」
「二人?」
二人って、あと一人は誰だ?
いや、それ以前に、まずその二人の中に僕が含まれているのか?
「ああ。良いのよ。別に、その話は。大体、二学期始まってから一日も学校に来てない私の幼馴染の事なんてどうでもいいのよ」
何故か、委員長が急に説明的な口調になった。
「今は、今回の話をしましょう」
彼女は脱線しかけた話を強引に元の路線に戻すように、そう言った。
つまり、あれか。もう一人は次の話か。次があるのか。
「さ。話してもらうわよ。何があったのか、なんであんな発言をしたのか。詳しく、詳細に、事細かに」
そう言って、委員長はぺたりと階段に座り込んだ。
梃でも動かないって雰囲気をビシビシと感じて、僕は降参したように両手を挙げる。
「分かったよ」
まぁ、委員長は僕よりもずっとこの学校の事に詳しいはずだし、あの女の子の幽霊について話してみれば案外、解決の糸口が掴めるかも。
それにしても、詳しく、詳細に、事細かにか。
「分かった。それじゃあ、出来るだけ詳しく話してみるけど……その前に、委員長」
「何?」
「僕は正直、発表やスピーチが苦手だ。だから、いくらか言葉が足らない場合もあるかもしれない」
「良いわよ、別に。その時は、私から質問するから」
委員長はさっと髪を払うと、涼しげにそう答えた。
「助かるよ。僕に出来る限り努力して答えるから」
それじゃあ、まずは――。
あの授業中。二時限目の現国の時間。
三枝先生が教科書に載っている無駄に教訓的だけど、いまいち何が言いたいのか分からない話に付いて説明している時。
僕は授業中の暇つぶしの為に、いつものようにお姉ちゃんの事を考えていた。
陶器のような白い肌。黒真珠のように輝く、濡れ烏の髪。
星の光を閉じ込めたが如き水晶の瞳と、すっと通った鼻筋、勝ち気な曲線を描く唇。
僕よりも頭一つ分低い身長にもかかわらず、包容力に富んだ膨らみ。
女性として完璧なプロポーション。
古代ローマの彫刻家たちが目指したであろう、究極の人間美を体現したような存在。
それが僕の姉、六道辻離だ。
朝、借りているぼろアパートの部屋の前で別れたのは、三時間は昔の遠い過去の出来事だった。
割のいいバイトを見つけたと、毎日どこかへ働きに出ているお姉ちゃんだけど、まだその仕事内容については僕に教えてくれない。
お姉ちゃんの事だから、当然、社会に対して後ろめたいような仕事をしているわけがあるはずもないけど、それでも、やっぱり弟として心配だ。
心配といえば、そうだ。
そう言えば、昨日の夜、お風呂でお姉ちゃんの髪を洗っている時に枝毛が3本あった。
何て事だ。僕は弟失格だ。
姉のキューティクルを、常に最高の状況に保てなくて何が弟か。
今日は帰る前にドラッグストアに寄って、一番高いシャンプーとトリートメントを買わなくては。
正しい洗髪法も学ぶ必要がある。書店にも寄ろう。
いや、美容院で店員さんに直接聞いた方が早いかな。
ああ、それから乾かし方にも問題があるのかも。
家で使っているドライヤーは物量ジャングルの某巨大ディスカウントストアで、1980円で買ったヤツだ。
とても お姉ちゃんの髪に向けて風を吹きかけて良いような性能であるはずもない。
どうしようか。新しいドライヤーも買うべきか。
いや、いっそのこと僕が手ずから髪の一本一本、水分を吹き上げた方が良いのかも。
昔、親戚から何かの機会に貰ったコットン100%のタオルがあったはずだ。
うん。そうしよう。
それから――――
「うん。ちょっと待って。いや、凄く待って」
ようやく、僕の中で話に対する気持ちが固まってきたところで、突然委員長が遮るように手を振って言った。
「何さ? まだ話は全然序盤なんだけど」
「長いわよ。ていうか、何が発表やスピーチは苦手よ。むしろオペラ歌手でもやって行けるくらいに朗々
と語り出したじゃない、天才か君は!」
委員長はそこで言葉を切ると、何故かげっそりとした顔を僕に向けた。
瞳が濁っている。いわゆる、生ごみを見る視線だった。
「何よりも……何で、唐突にクラスメイトとそのお姉さんのディープな関係について赤裸々に聞かされなきゃいけないのよ!?」
「いや、だって、委員長が言ったじゃん。詳しく、詳細に、事細かに話せって」
言われた通りにやってみた僕の努力を踏みにじるどころか、逆切れをされるなんて思いもしなかった。
あげく、委員長は頭を痛そうに抱え始めた。
「あー……うん。ごめん。分かった、私が悪かったわ。言い方を変える。出来事について、説明しなさ
い。君の克明な心理描写は語らなくていいから。ていうか、語らないで」
すっと顔を上げた委員長は、明日世界が滅びますと知らされたような感情を浮かべていた。
「まさかだけど、六道君。君って、いつもそんな事考えていたの?」
他に何を考える事があるのか。
「他に何を考える事があるのか」
「あ。目がマジだ。ごめんなさい。私、全然悪くないけど謝るわ。ごめんなさい。生きて来てこれ以上の恐怖に出会ったことが無いわ」
震えていた。
「ねぇ、確認するわけじゃないんだけど……六道君って、あれ? シスコンってヤツ?」
「ああ、姉を愛する事に対してそう言うレッテル張りをする人種がいるって、お姉ちゃんから聞かされた事はあるけど、委員長はそっち派なんだ」
「大多数がこっち派だと思うけど。なんで私が異端扱いされているの」
「まぁ良いんだよ。僕は平和主義者だから、どんなレッテルを張られたって気にしないよ。異なる価値観に相対した時、排斥しようと考えるのは愚か者の所業だってお姉ちゃんも言っていたし」
「平和主義者っていうか、狂信者の域よ、それ」
委員長は寒いのか、自分の身体を抱きしめていた。
「ねぇ、これで最後の質問だけど、姉弟は結婚できないって、六道君知っている?」
恐る恐ると委員長にそう尋ねられた。
「知ってるよ。当たり前だろ。そもそも、何時、僕がお姉ちゃんと結婚したいなんて言ったんだよ」
まさか、僕が日本の法律すら知らない未開民族に見えるのか。
確かにこの街に引っ越してくる前に住んでいたのは、過疎化まっしぐらの寒村だったけど、日本の法律はちゃんと適応されていた場所だ。
だから引っ越してこなくちゃいけなかったんじゃないか。
「うん。良かった。最低限の自覚はあるみたいだね」
ほっと胸を撫で下ろしている委員長。
一体、何の話だろう。大体、結婚なんて。
「大体、結婚なんてただの制度上における男女の関係を表すだけのただの言葉だよ。ずっと一緒に居るためには、結婚っていう手続きが必ずしも必要とは限らないし。なによりも僕たちは血の繋がりがある姉弟なんだから、関係の永続性は結婚なんかよりもずっと確かなものだよ。結婚には離婚っていう終わり方もあるけど、僕たち姉弟は死が僕らを分かつまで続くんだから」
「前言撤回。そんな段階はとっくの昔に踏み越えちゃってたのね、君」
もはや委員長の目は蔑みを通り越して、哀れみに近かった。
どういう事だ。僕の何処に憐れまれるような要素があるのだ。
「うん。分かった。もうこの話は終わりにしよう? 私が振っちゃったせいもあるけど、これ以上聞いていたら、私、もう二度と君を正視できなくなりそうだから」
委員長は聖母のような慈愛に満ちた笑みを浮かべ、悟ったような声音でそう言った。
「あった事だけ、見た事だけ。事実のみを語りなさい。次にお姉ちゃんの“お”の字でも出したら、舌引っこ抜くから」
バイオレンス委員長が帰って来た。
「……それってつまり、僕に呼吸を止めろって事?」
まぁ、呼吸する必要、無いんだけどね、僕。
「姉への想いじゃなくて、空気を吐き出しなさい」
ぴしりと言われた。




