「見たら分かるだろ」
ガラガラッ
いつものように教師の扉を開けると、バッとクラス中の視線が私に集まった。
え?何?
息を呑むほどの美少女は扉の前で凍ったように固まる。赤面した可憐きわまるその顔はクラスの男子を魅了する。
『うぉーーーーー!!』
なんだろう。
すっごく恥ずかしい…
少女は顔を隠すようにうつむいたまま自分の席へと向かっていく。恥ずかしそうにうつむく横顔と歩くたびに揺れる長い黒髪がクラスの男を骨抜きにしていく。
その間、周りから『誰?』『転校生?』などの声が聞こえてきた。
みんな私のこと忘れちゃったのかな……
自分の席に着き、カバンを下ろして座ると同時に
『えーーーー!!白咲!?』
教室がどよめいた。
前に座る友人も目を丸くしてこちらを見ている。
私は訳が分からず、頭の中がずっと混乱している。
何も分からないので前にいた友達に向かって、
「何か顔についてるかな?」
「え……、あ、あ、んた、加奈?」
開いた口が塞がらないとはこういう状態のことを言うのかな?友達は口を開けたまま喋っている。
でも、なんでそんな質問するのかな?私って分かってないの?
「そうだけど?どうかしたの?」
「えぇぇ!!、ちょっと変わりすぎよ!別人の域よ!なんであんた今まであんな格好してたのよ!」
一気に捲し立ててくる友人に私は苦笑いしか出来ない。別人・・・そう言えば家でも弟によく言われるような、言われないような。
「そんなこと言われても…」
「白咲!俺と付き合ってくれ!」
「ふぇっ?」
突然の告白に私は完全に拍子抜けだ。
「いや!俺と!」
「こんなやつじゃなくて俺と!」
次々とバーゲンセール時の主婦のように、男子が人を押しのけて私の周りに集まってくる。私は半額とかじゃないのに……
なんで、どうしてこうなったの?
「い、いや、私はそんな……、あぅ……」
私は友達に助けを求めようとして前を見るが男子で隠れて見えない。
怖い……
なんで突然。
迫りくる男子に恐怖が湧いてきた。
バァンッ!!
突然机が強く叩かれた。
周りの男子はびくりと肩を動かすと、動きを止めた。
「ちょっと、男子!加奈が困ってるじゃない!どっか行って!」
友人の叱責に男子は適当に返事を返すと、私のもとから離れていく。ホッ、怖かった〜。
ただし視線はずっと加奈に向けられていた。
「ありがとう」
「ううん、良いよ。それにしても加奈も大変だね」
「みんないきなり人が変わったから怖かったよ」
私が安心していると、友達がニヤッと笑い、前かがみになると私に顔を近づけてきて、
「この格好だと、加奈の意中の人もイチコロだね」
「ふぇっ?そ、そうかな……?」
「なぁに、やっぱりいるんじゃん」
「あっ、い、今のは……」
「まっ、追求はしないから安心して」
「うん……」
私は完全にはめられた。
まだ好きってわけじゃ……、多分。そう思う私の頭には1人の男の子が浮かんでいた。
今日も来てないんだ……
私は隣の席を見ると、はぁ、とため息を吐いた。
─────
───
─
あの日以来初めての勉強会
私は震える身体を自制しながら、インターフォンへと指を伸ばしている。
ピンポーン
緊張してきちゃった。私って気付くのかな。気付かなかったらどうしよう……
ガチャ
玄関から出てきたのは比呂だ。
ドキドキ、
私の顔を一度見てから、視線を全身へと移動させてから顔をもう一度見ると、
「あぁ、白咲か、入れよ」
「え、うん」
気付いたの?
比呂について行き居間に行くと、奏ちゃんを発見する。今日も絵を描いているみたい。ほっこりするな。
奏ちゃんは私に気付くと、ぽかんとした表情を浮かべた。
「おにいちゃん、だれ?」
ガーン
奏ちゃんにとって今の私は完全に、知らない人だ。
やっぱり普通そうなるよね。
私はため息を吐いた。
「白咲だけど」
「え!?うそ!かなねぇ?すっごいびじん」
奏ちゃんは目を輝かせている。
加奈姉?加奈姉?加奈姉?
奏ちゃんの言葉が私の頭の中で無限ループしている。
私はそのまま比呂の部屋へ、本棚以外の他にはベッドぐらいしかない部屋。
弟と違って男の子っぽくない部屋だなあ。でも、やっぱりベッドの下にはあるのかな……
ダメだ、変なこと考えないようにしよう。
寝るときはこの部屋は使わずに他の部屋で奏ちゃんと2人で寝ているんだって。まだ幼稚園だもんね。
比呂の部屋には勉強机は無く、床に丸いテーブルが置いてある。
私たちは床に座ると、私はもじもじしながら、気になっていたことを尋ねた。
「ひ、比呂はど、どうして私だって分かったの?」
「どうしてって、見たら分かるだろ」
「そうかな?」
「ああ、もういいか?そろそろ始めたいんだけど」
「あ、うん、そうだね」
見たら分かるって、他の人は見ても分からないんだけどな。
結局疑問は解決されなかった。
─────
───
─
勉強が終わると私は比呂に尋ねる。
「もう学校に来ないの?」
「……今日も行ったんだけど」
「え?そうなの?」
「ああ、教室には行ってないけどな。保健室でずっと勉強してる。中学は別に授業に出なくても卒業は出来るからな」
「そうなんだ……、じゃあもう教室には来ないんだね」
私はしょんぼりと頭をうなだれる。
比呂は苦虫を噛み潰したような顔をして、
「お前、何で雰囲気変えたんだ?」
話題を晒した。
「え?それは……、友達に言われて。あ、やっぱり似合ってないよね?」
私が苦笑しながら言うと、比呂は意外にもあっさりした口調で、
「いや、そのほうがいいと思う」
「ほ、ほんと?」
「ああ、多分」
私は嬉しくてニコニコせずにはいられなかった。
あっ、そうだ。本返さなきゃ。
私は持ってきた自分のカバンの中をゴソゴソと探って、例の本を取り出して、比呂に差し出した。
「はい、これ面白かった。ありがとう」
「読むの早いな」
「うん……、無性に読みたくなっちゃって」
私は下を向いてうっとりしてしまった。ハッとしてすぐに我に帰り、
「あっ、ごめん。こんなこと言われても困るよね」
「いや、別に気にしてない」
「そっか」
比呂が立ち上がろって本を棚に戻そうとしてる。その間、私はカバンから一冊のノートを取り出す。
「あ、あと」
「何?」
「これ!」
私はそう言って、頭を少し下げて両手を伸ばし、ノートを比呂の前に出すと、恥ずかしくて目を瞑ってしまった。はぁ、ダメだな
比呂はノートに触れずノートと加奈を交互に眺めながら、
「えっと、何これ」
「私、たまに小説書いているんだけど、よかったら感想とか聞かせて欲しいなぁって、ダメ、かな?」
私は少し顔を上げ、片目をチラッと開いて比呂を見た。比呂はノートを受け取り、
「いいけど、そんな大したこと言えない」
「ううん、全然大丈夫!比呂に読んで欲しかっただけだから」
「え?」
あ、私は自分の失言に気が付いた。
あぁぁあああ!!!やばい!!私今なんて言った!?
「あ!違っ!そう言う意味じゃなくって!その、あー、私何言っているんだろ」
私はかなり焦って、手をブンブン振り回し、顔を真っ赤にして、誤魔化した。目もグルグル回っていたかもしれない。うぅ……、ダメだ。
「分かったから」
比呂は私を見てふっと笑って言った。
え?今笑った?
初めて笑ったところ見た……
その一瞬の笑顔に胸の高鳴りを覚える。
私は先ほどとは違い、ポワッと頬を夕日のような鮮やかな赤色に染めた。
「じゃあ、感想待ってるね……」
「ああ」
名前付けるか迷う…




