「意外とバカなんだね…」
俺は教室に着くと、さすがに焦って椅子に座り机の上に問題集を開いた。
机に向かう俺を周りが好奇の目で見ている。
多分自分でもこれは見ると思う。
そこへ、男子生徒がバケツを持ちながら歩いて来る。
「おい、今頃真面目ぶんじゃねェ!」
──バッシャーン!
比呂はうつむいたまま固まっている。
金色の髪からポタポタと滴る雫。
水も滴るいい男とはこういうこと?
だが、教室の反応は違う。
笑い声が教室に響き渡る
さすがに頭に来た……
比呂が目線だけを上にあげ、男に向けてギラリと鋭い眼光を飛ばすと、男は怯んだ。
「な、なんだよ……」
声が震えている。
こいつが完全にビビっていることが分かった。
「……失せろ」
低く重々しい声で呟いた。
──ゾクゾクゾクッ
生徒全員に悪寒が走り、教室が死んだように凍りつく。
「チッ」
俺は舌打ちをしてから、カバンを拾い上げると、ビショビショになった問題集を持って教室を出て行った。
俺が通った後には水滴で線が出来ている。
もういいや……
教室に行かなくても勉強は出来る。
俺はそのまま保健室へと向かった。
比呂が立ち去った後の教室はいつもの雰囲気に戻っている。
加奈の前に座る女子が加奈の方を向いて、
「何今の、すっごく怖かったんだけど」
「……そうだね」
「うんまあ、それより加奈濡れてない?」
「うん、大丈夫だよ」
「よかった〜。あいつもやりすぎ、加奈にかかったらどうすんの」
怒るとこそこなんだ……
「そうだね……」
比呂、大丈夫なのかな……?
─────
───
─
「獅村くんは教室に戻らないの?」
俺は体操服に着替えた。ベッドに寝転がって問題集を開きながら、
「ああ、戻らねェ」
敬語じゃなくなっているんだけど……
「明日からここで勉強するわ」
そう言うと俺は先生の返事も聞かずに、寝転がり、また手を動かし始める。
それを見た先生は頭を抑えながらため息を吐いた。
「好きにするといいわ、どうせ他の先生も何も言わないでしょうから」
その言葉に一瞬だけ手の動きを止めると、俺は何も言わずにまた手を動かした。
─────
───
─
教室では私は相変わらずボーッと隣の誰もいない席を眺めていた。帰ってこない……
──コツンッ
「あたっ」
私は頭を撫りながら前を見ると、友達がこっちを向いていた。……犯人はあなたね。
「いきなり痛いよ」
「加奈ずっとボーッとしてる、どうしたの?」
「そうかな〜?」
「うん、してる」
自身たっぷりに言い切られた。うぅ…
「受験だから、かな?」
「ふぅーん、そうかな〜?」
苦笑いして誤魔化す私に、友達はニヤニヤしながら私に迫る。
怖い……、笑顔が怖い。
「な、なに?」
「もしかして〜、恋、してない?」
「ふぇっ?」
友達の意外な言葉に私は身体が一瞬跳ねて、眼鏡がズれた。友達はまたニヤニヤしながら腕を組んで、やっぱりと言った。
私はズれた眼鏡を直して、
「そ、そんなことないよ、第一私なんて……」
呆れた友人は加奈のほっぺを軽く摘んで、
ふにゅ〜〜、痛くはないけど、顔が持っていかれりゅ〜〜〜。
「そんなこと言わないの、加奈は可愛いんだから」
「え?そんなこと……、言われたこともないし」
「そう?私思うんだけど、なんでそんな地味な格好してるの?」
友達は首を傾げ、私を見つめる瞳は澄んでいる。
「これは……、そのー……、なんでだろう?」
──ズコーーッ!
私のとぼけた様子に友人は思わずズッコケた。だって本当に分からないんだもん。
友達は机にしがみついて立ち上がりながら、
「加奈って意外とバカなんだね…」
「ふぇっ?そう、なの?」
バカ……
「もういい、取り敢えず明日からそんな格好辞めなよ」
「うん……、分かった」