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大切なもの  作者: アンスリウム
高校生
21/22

「この部屋広いねーって!」



3人は新しく作る部室へと向かう。廊下の窓からは運動部のものと思われる声が聞こえてくる。






「部を作るのって部員が5人と顧問の先生が1人いないとダメなんだよね?」



「そうだよー」



「他の人って誰なのかな?」



「それはお楽しみってことで」





安達くんは振り向くと私に向けて愛嬌したたる笑い顔を見せる。私はその人懐っこさの滲み出る笑顔にほっこりした気分になった。



奏ちゃんみたいな雰囲気を感じるなあ。



安達くんの顔の横にニョッと手が伸びてきたと思ったら、その手は安達くんの頬を思いっきりつまんだ。





「いでででで」



「もったいぶらないで教えなさいよ」



「引っ張んなって、どうせ後で分かるから!」





安達くんは赤くなっている頬をさすりながら答えた。



うわぁ、痛そう……




そう思いながらも私は2人のやりとりを見ながら、クスッと笑っていた。



気がつくといつの間にか教室の前に着いていた。

安達くんが扉を開けて、3人で教室の中を見た。





「……っ!!!」





中の光景に私は石のように固まった。隣からもカチーンと効果音が聞こえてきた。多分2人も私と同じ状態になっていると思う。



ソファに座る2人の男女の姿。


1人は真っ白な髪を持つ美しい女神のような女性。その女性に寄りかかるようにして眠る金髪の美青年。


窓から差し込む光が薄いカーテンをすり抜けて、2人を照らしている。まるでおとぎ話の世界に迷い込んだような光景。



私たち3人はしばらく見惚れていた。



青年の頭を撫でていた女性が私たちに気づき、こちらに目を向けた。


その眼差しは柔らかく愛情に満ちていた。真っ白な瞳は全てを包み込んでしまいそうだ。


女性は美しい顔を花が咲くように綻ばせた。





「あら、やっと来たのね」





優しい口調で言いながら、頭を撫で続けていた。





「先生何してるんですか、ここはラブホじゃないですよ」





ラブホッ!?





飛鳥さんが口を開いた。顔を見ると、今まで見たことないくらい呆れていた。





「あら、ラブホなんて。そんなつもりじゃないわよ。ふふふっ」





先生は微笑みながら普通に返した。





「ふふふっじゃない!こんなとこで何してるんですか!」





飛鳥さんはドカドカ地面を踏み鳴らしながら、先生に近づいて行く。



こんな飛鳥さん初めて見た。いつも落ち着いていると思ってたから意外だなあ。



私が関心しながら横を見ると、安達くんはまだ固まっていた。大丈夫なの……かな?





「ちょっと、なつきさん。そんなにうるさくしたら、比呂くんが起きちゃうじゃない」



「知りません!」





えっ?比呂?今比呂って言った?




私は先生の横に視線を移した。

そこには私のよく知る金髪の人が風に髪を遊ばれながら眠っている。





「えっ!?比呂っ!?」



「「ひ・ろ??」」





先生と飛鳥さんが同時に私の方を振り向いた。




し、しまった!!




私と比呂は学校では完全に他人の扱いだったんだ。ど、どうしよう……



私の手は汗でぐっしょりと濡れている。





「あーー!この部屋広いねーって!えへへ」





無理やりすぎだ。自分でも呆れる。



先生は事情を知っているみたいで、私を見てふふっと笑う。飛鳥さんは怪訝な顔で私をジッと見ていた。





「ふぅーん、まあ確かにね」





ふぅー、何とか誤魔化せた。





飛鳥さんはそう言うと先生の方を向いて、





「で、何でここにいるんですか?」





先生はケロッとした顔で、





「何でって言われてもね〜、私が映像部の顧問だからかな?」





──ピキーン





飛鳥さんは固まった。





「先生……が顧問……?」



「ええ、今日から映像部の顧問の雪代杏香です。よろしくね」





先生はそう言ってふふふっと笑う。



先生って確か……比呂の従姉妹。





「「えぇぇーーーーー!!!」」




─────

───




「そういうことだったんですか」





飛鳥さんは先生が比呂の従姉妹だということが分かって納得している。先生の横で比呂はまだ眠っている。



起きないのかな?





「だとしても、さっきのは怪しすぎますよ」



「あら、そうかな?私たち家でもこんな感じなんだけど」



「で、でも!」



「でも?」



「む、むぅ……」





邪心の欠片もない顔で話す先生に飛鳥さんは完全にペースを乱している。



飛鳥さんの天敵だ……



そこへいつの間にか復活した安達くんがやってきて、





「まあまあ、なつき。そんな固いこと言うなよ。俺たちだってそれぐら……ぐっは!」




そう言いながら飛鳥さんの肩を回そうとする安達くんの顔に飛鳥さんの拳が……


今のめり込んでない?大丈夫かな?





「うっさい!」





顔抑えてうずくまる安達くん。先生は「あらあら」と言いながら手で口を覆って見ている。


飛鳥さんは腕を組んで見下ろしていた。顔が少し赤かった。


飛鳥さん、恥ずかしかったんだ。





「おい、何も本気で殴ることないだろ」





安達くんはティッシュを取り出して、鼻血を拭いながら立ち上がる。





「あ、あ、あんたがへ、変なこと言うから!」





飛鳥さんの顔は真っ赤で、安達くんを指差して手をブンブン振っている。余裕が無さそう。





「何?照れてんの?うりうり」





安達くんが飛鳥さんを突っつく。





「うるさい!」





天敵がもう1人いた。飛鳥さんの意外な一面が見れた。こういうのは余裕なんだと思っていたんだけどな。


とか思う私も顔が真っ赤なんだと思うけど。





「んっ……んんーーっ、ふぁ〜〜〜」





横から欠伸が聞こえてきた。

比呂起きた!?ど、どうしよう!



教室から出ようと動き出した私を先生は手を掴んで止めた。私が先生を見ると、先生はふわりと微笑う。




え?





「比呂くん起きた?」



「ん?杏?何でここに……」





比呂は落ち着いた様子で目を擦りながら横にいる先生に言った。





「私が映像部の顧問だからよ」



「あっそ。おい」



「うん?」



「近いわ」





比呂が先生を足で押し返す。





「ふにゃ〜〜〜、比呂く〜ん。ひどいっ」





先生は負けじと比呂に抱きつこうとして抵抗している。



先生?なんかいつもと違う……ていうかさっき。



ブラコン?こういうのなんて言うの?



私の隣で安達くんは目を輝かせて見ている。


飛鳥さんは眉間にシワを寄せて睨んでいる。





(さっきの絶対嘘だろ)





飛鳥さん顔怖!それでも綺麗だけど……





「くんなっ!」



「ふげぇ!」





先生はソファから弾き出された。





「んも〜〜〜、比呂くん。ひどい。ふぇ〜〜〜ん」





先生が正座して泣き真似をしている。先生いつもはこんなんじゃないのにな。どうしたんだろう。



そんな先生を尻目に比呂は周りを見渡すと、私と目が合う。私が苦笑いをすると比呂は目を逸らして溜め息を吐いた。




やっぱり怒っているのかな……





「おーー、獅村よく来てくれた」



「ああ、約束だからな。んで、こいつらが部員か?」





相変わらず仏頂面で話す比呂は周りを指差して言った。





「おう、そうだ!」





安達くんが胸を張って言うと、比呂はまた溜め息を吐いて、前髪を搔き上げると、私をチラッと見た。




ううっ……。怒っているんだよね?





「ちょっと幸助!こいつで大丈夫なの?獅村って言ったらあれでしょ?あの有名な……」





飛鳥さんは比呂を指差しながら、語気を強めて言う。





「そうだけど。でも、大丈夫だって」



「どうして大丈夫なのよ!」



「だっていい奴だぜ?ほら、入学式の時も助けてくれただろ?」



「え?あ、まあそうだけど……」



「だろ?」



「幸助が言うなら……」





ホッ、良かった。



比呂を見ると比呂はバツの悪そうな顔をして下を向いている。


すると、比呂が顔を上げ私と目が合った。私は恥ずかしくてパッと目を逸らした。


そして、誤魔化すように、





「あ、安達くん。これで4人だよね?もう1人って誰なのかな?」



「あーー、それがさ今日は来れないらしい。まあ先生にも言ってあるから大丈夫」



「そっか」





先生を見ると大きく頷いて、比呂に視線を送っていた。





「ん?」





突然、飛鳥さんが何かに気付いたように声を出すと、身を翻して扉の方へと向かって行く。





「飛鳥さん?」



「なつき?どうした?」





飛鳥さんは返事も返さずそそくさと扉に向かうと、そのまま扉に手をかけて、





「さっきから覗いているのは誰!」






──ガラガラッ





扉が開くとそこには変なポーズをとっている赤毛のロングヘアーの女の子が立っていた。だんだんと汗が吹き出して、





「あはははっ!よく見抜いたわね!褒めてあげるわ!」





( (すごい変な子来た……))





「何が『褒めてあげるわ!』よ、こんなところで覗いて何の用?」





かなりバカにした言い方をする飛鳥さんに対して、





「そんな言い方してないもんっ!」



「はいはい、分かったから。何の用?」



「くっ……、そうね。そんなに気になるなら教えてあげるわ」





女の子は胸を張りながら胸に手を当てると、もう片方の手で髪をフワッと靡かせて言う。





「ごめん、やっぱいいわ」



「ちょっと、聞きなさいよ!」





この子すっごい我が儘だ……





「は、はぁ」



「いいわ、教えてあげる」





どうしてこんなに偉そうなんだろう。





「私がこのクラブに入ってあげるわ!」



(決まったわ)





バーンと効果音が聞こえそうなくらい胸を張って言った。飛鳥さんは手を振りながら、





「ごめん、いいわ……」



「どうしてよ!」



女の子は地団駄を踏んでいる。





「だって……」



「だって?」



「うざい」





うわ、はっきり言った。





「うざくないもんっ!」



「いやいや、うざいから」



「むぅーーーーー!」





いがみ合う2人の間に安達くんがやって来て、





「まあまあ、落ち着いて。入ってくれるなら良いじゃないか。それにこの子の赤毛も特徴的だし、いい絵が撮れるよ」



「あ、あんたね……」





飛鳥さんは拳を握りしめてプルプル震えて何かを我慢しているみたい。女の子の方は……えっ?



顔をボワッと真っ赤にして、





「あ、あ、あんた!そんな事言ったって嬉しくなんかないんだからねっ!」



「いいねー、ツンデレいいよ!」





安達くんは興味津々。ちょっと目が怖い……


比呂はえーっと……!?



寝てるし。しかも隣に先生……さっきと同じ状態。


なんだか私孤立してるみたい。





「ツンデレ言うなーー!!」



「いいよ、いいよ」





──スパーンッ!





快音とともに安達くんは崩れ落ちた。


うん、例の飛鳥さんのハリセン。



女の子はびっくりして口を開けたまま立っている。





「ちょっと何してんのよ!この凶暴女!」



「だ、大丈夫。馴れているから」



「なに?あんたも受ける?」



「うっ……、大丈夫です」





女の子はハリセンを持った飛鳥さんに睨まれて大人しくなった。飛鳥さんおそるべし。



しばらくして落ち着くと、女の子と話し合う。相変わらず比呂は寝ている。





「それで、何で入りたいの?」



「入りたいじゃなくて、入ってあげるの」



「あっそ」



(ムカつくわ……)





飛鳥さんの額には十字路が。





「それに私が入ればみんなのやる気が出るでしょ」





女の子はポーズを取りながら、飛鳥さんの周りを動き回る。





「確かに、()る気は出たわ……」





飛鳥さんは拳を握り締めながら言った。





「あ、君の名前は?」





安達くんが話題を変えた。





「そうね教えてあげる。私は千歳麗緒(ちとせれお)よ。」





れお?うーん、男の子みたいな名前だなあ。





「ふふっ、よろしくね麗男」



「か、か、漢字がちがーう!!」



「そう?こっちの方が良いと思うけど」





飛鳥さん悪い顔!





「麗男じゃなくて麗緒!」



「まあまあ、落ち着いて。よろしくね千歳さん」



「ふんっ、まあいいわ」





私たちの方も自己紹介を済ませた。でも、比呂がまだ寝ていたので千歳さんが比呂の方へと向かい。





「ちょ、ちょっと起きなさいよ」





千歳さん顔赤い?





「ん?誰?」



「あ、あんたも名前教えなさいよ」



「は?獅村比呂だけど、なんだよ」





比呂はまだ完全に起きていない様子。





「ふ、ふぅーん、私は麗緒。千歳麗緒」



「・・・・・」





比呂はまだ完全に覚醒しきっていない頭で考える。



れお?ちとせが下の名前?外国人みたいな感じか。





「んあー、よろしくな麗緒」





え?れおって言った?





「なっ……!!」





千歳さんの顔は耳まで真っ赤になっていた。





「あんたなんか知らない!」





そう言うとそのまま走って教室を出て行った。





「なんだったんだ?」





残された人たちの頭には全員ハテナが浮かんでいる。比呂は伸びをして欠伸をすると、





「もう、帰っていいか?」



「あ、そうだな。今日はもう解散だ」





こうして1日目の部活は終了した。これからいろいろと大変だけど面白くなりそう。



私は期待に胸を膨らませていた。



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