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ジョー・メハラ伝説  作者: 加藤源次
大学生ジョー
8/13

東国大学野球部

4月。

ジョーは、東国大学の学生になった。


「やあ、リトリ」

例のリトルリーグ経験者で、高校で同じ野球部にいた小柄な男子を学内の食堂で見かけたんで、声をかけた。リトリというのは、あだ名である。リトルリーグ所属というのと、小柄なのを引っ掛けた。

「お、ジョーじゃないか」

リトリは、驚きもせずに言った。

リトリのそばには、リトリのリトルリーグ時代からの付き合いの捕手役のあまり体格の大きくない男子がくっついている。

東国大学は新設大学なので、ジョーやリトリみたいな勉強をさぼりがちな生徒をどしどし受け入れてくれた。

「リトリは、野球部、入るのか?」

「とうぜん。ジョーは?」

「さあ、どっしよっかなー?あまり練習きついの、やだし」

「でも、新設大学だから、上級生いないし、のんびりできるかも」

あれだけプロめざすと意欲に燃えていたリトリが、いまやジョーの悪い影響を受けて、このざまだ。

「それもそうだ。どうせヒマだし、行くとするか」

と、ジョーはまた他人の意見に流されて、人生を決めた。


大学の事務室で野球部の部室の場所を聞いてから、ジョーとリトリ、その女房と3人で連れ立って、そこに向かった。

総合体育館の裏手の、掘っ立て小屋みたいなのが部室だった。

ドアをトントンと叩いてから、開いた。

すると、室内に、いかにも年上という感じの、しかし自分らとあまり年齢の違わない体格のいいメガネ男子が、こちらににらみをきかして座っていた。

『わ?上級生が、いる?』

驚いてしり込みしたジョーに、その男子は、微笑んで

「なぜ、上級生がいるんだ?という顔だな。ムリもない」

と語り始めた。


それによると、この東国大学というのは純粋な新設大学ではなく、3月31日をもって経営難で廃校となった東圀とうごく大学の2・3年生の受け皿として設置された。大学の校舎も体育館もグラウンドも、すべて東圀大学からの譲りものだ。もちろん、経営陣も含めスタッフは総入れ替えされている。

そして野球部員も、東圀大学の2・3年生がそのまま、この東国大学の野球部員になったというわけだ。

野球部の監督やコーチ、トレーナーなども、もちろん総入れ替え。新しい監督には、プロ野球のブッキラーズの選手だった40歳のウシ(あだ名)氏が就任した。

(というか、この東国大学の経営陣は、ブッキラーズの親会社の系列子会社の重役たちなのだが。)


「ここに、希望打順と、希望守備位置と、あだ名を書きたまえ」

「はい」

…って?あだ名?

「野球界では、名前でなく、あだ名で呼び合うのが習いなんでねー」

先に、リトリが書いた。あだ名の欄は、<リトル>と書いていた。いいのになー、リトリのほうが。

次に、ジョーが書いた。

<1番、遊撃手、ジョウジ>

「ウ」のところは強調して、太く大きく書いた。外国人みたいに呼ばれるのは、もうこりごりだ。


「うーん、きみが、リトル?」

リトリを見て、上級生は言った。

「はい」

「きみは、ニョーボ?」

「はい」

「では、きみが、ジョー、だね?」

「はい…、いや、ジョウジって…」

上級生はジョーの言葉を無視して、言葉を継いだ。

「ではさっそく、グラウンドに来てくれたまえ。グラブやスパイク、服など装備は全部、こちらで用意するから」


部室の更衣室に入ると、ロッカーにそれぞれ<リトル>とか<ニョーボ>とか<ジョー>と名札が貼ってあって、そこを開けると、中に、グラブ、スパイク、服、そしてバットが収納されていた。

「しかし、これ、自分に合うかなー」

ジョーはブツブツ言いながら、服を着てみると、まるであらかじめ測ったかのようにジャストフィット!ベルトの締め具合まで、ぴったしだった。スパイクも、足のサイズに適合。グラブも、自分の手のようなフィット感。

そして、バットは。高校で使っていたバットとは比べ物にならないくらい、長い。まるで物干しざおだ。いや、物干しざおほど長くはないが。まあ、ジョーにとっては、バットは長かろうと短かろうと、あまり関係ない。球が飛んで来たら、思い切り振るだけだから、だ。

(そのバットにも、グラブにも、そして服にもアンダーシャツにも帽子にもヘルメットにも、「ジョー」という文字が印刷されていたことに、ジョーは気づかなかった)


グラウンドに出ると、もう30人ばかり(正確には、27人)が集まっていた。全員、新入生だ。

例の上級生が、新入生を座らせ

「では、いまから、練習試合をする。各自、チーム分けしてあるので、それぞれ分かれて試合してくれ。相手は、2年生3年生だ」

一同、とたんにどよめいた。

「ふるい、だ」

という声が、聞こえた。

「そう、お察しの通り、これは、ふるい、だ。この試合の結果しだいで、諸君の今後1年間の練習環境が変わる。公正を期すため、いまから3試合を連続でやってもらう。始め!」


えー?今から3試合?1試合2時間かかるとして、6時間かよー。いま、午後1時だから、7時までやれってことか。めんどくさいなあー。

というジョーの声が聞こえてきそうだが、当のジョーは

「きつい練習やると思ってたんで、ホッとした。試合なら、遊びじゃん。ふるいとか言ってたけど、俺には関係ないし」

と涼しい顔をしていた。

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