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ジョー・メハラ伝説  作者: 加藤源次
大学生ジョー
6/13

超技術、会得

ジョーは、関東地方の新設大学、東国大学に推薦で合格した。


「ヒマだな」

野球部は、引退したし。といっても後輩は、1・2年生合わせて数名しかいなかったが。

あとは、各科目40点以上をテストで取ればいいだけだし。


ジョーは、ヒマつぶしに、例の自動ノックマシーンで遊撃手の練習をしていた。

そのいっぽうで、ジョーは、打撃について少し考えるところがあった。

地面にボールをたたきつけ、高く跳ね上げるだけでは、面白くないな、と考えたのだ。

「どうせなら、普通のヒットが打ちたいなあ。そのほうが、ラクそうだし」

そう、面倒くさがり屋のジョーならではの、発想だ。地面にボールをたたきつけるのは、けっこう力がいる。しかしヒットなら、ころころと転がすか、内野手の頭上をふわっと越えさせればいいだけだ。

さて、ころころ転がして内野手の間を抜くには、やはり力がいる。強く打たないと内野手の守備を避けれないからと思ったジョーは、内野手の頭上をふわっと越えさせるような打撃方法を、思案した。


ある日、自宅のテレビでスポーツニュースをやっていた。

プロ野球の終わった試合の解説で、解説者が

「彼、うまくバットにボールを載せて運びましたね。ナイスバッティング、です」

というのを、小耳にはさんだジョー。

バットにボールを載せて運ぶ!?

「これ、だーっ!!!!!」

ジョーは、思わず叫んでいた。

バットにボールを載せて運ぶなんて、すごい省エネじゃないか?自分には、最高の打撃方法だ。


翌日からジョーは、さっそくその「バットにボールを載せて運ぶ」技術の独自研究を、始めた。


しかし。

「うーん。これ、ムリ」

ジョーは、ぼうぜん。

地面の上に置いたバットの上に、丸いボールを載せようとしたが、100回やって、100回とも失敗。

卵を立てるみたいなわけには、いかない。卵は実は、殻の表面に微かな凸凹があって、うまくやれば3点倒立させて立てることができる。

ボールにも縫い目があって、それに引っ掛ければ立てれるんじゃ?と思ったが、その縫い目は非常に精巧で、ボールの表面からみじんも盛り上がっていないのだ。いや、たとえ縫い目がかすかに盛り上がっていても、丸いバットの上に載せることは不可能だった。


「あ、そうだ」

ジョーは、大事なことに気づいた。

「ボールは、あちらのほうからこちらのほうに飛んでくるんだ。それを利用すれば、いいんじゃ?」

あちらから飛んできて、こちらのバットに当たり、はじき返されるまでの間にタイムの余裕があると思ったのだ。

<しかし、このタイムの余裕は、ほんの一瞬のことである。常人には到底使えるような余裕ではなかったのだが。(加藤源次氏)>


*****ここで、ジョーの特殊な感覚について、解説*****


ジョーは、バットにボールが当たる瞬間、変な違和感を覚えていた。

それは、初めてバットにボールを当てた時からのもので、ジョーは、バットでボールを打つたびに、その違和感を覚え、そのたびに

「この変な感覚は、何なんだろう?」

と思っていた。

ある日ジョーは、そのことを先輩に相談した。

「先輩、あの、俺…、いや、僕、バットにボールが当たる瞬間、なんだかボールがバットに吸いつくような感じなんすけど、これ、どういうことなんすか?」

すると先輩は

「えっ?」

と驚いていた。

「ボールが、バットに吸いつく?そんなこと、聞いたことがないけど」

先輩でさえ知らない。

ジョーは、そのおかしな感覚は自分だけのことか、とふしぎに思った。

しかし生来ののんきもの、ジョーは、ま、いいか、と放置していた。


*****解説、終わり*****


ジョーは、さっそく、バットにボールを載せて外野に落とす練習を始めることにした。


ジョーは、このとき周到なことに、外野のどの位置にボールを落とせばヒットになりやすいかを、あらかじめ独自研究していた。周到と言う言葉は、正確じゃない。要するに、ラクにヒットを打ちたかっただけだ。


ジョーは、おもちゃの野球盤の上に、守備位置に見立てた人形を並べた。

「えっと、外野は、レフトに、ライト、そしてセンターだな。そんで内野は、ファースト、セカンド、ショート、サードかな」

外野は特に、3人の間の距離がほぼ均等になるように、立ててみた。

「えっと、空いている場所は、どこかな?」

外野手と内野手の間は、近いんで、ヒットになりにくいなあ。

センターとレフトの間は。お互いに守り合うから、その距離の半分走ればいいわけで、これも、狭い。

センターとライトの間も、同じ。

と、いうことは。

「1塁の先と、3塁の先、が、空いてるな」

これには、ジョーに別の確信があった。

野球ダイジェストでたまたま目にしたヒットシーン、打球がふわっと舞い上がり1塁手ファーストの頭上を越えて1塁の先の線上にぽとんと落ちた。ボールはコロコロと先に転がっていき、1塁手はもちろんのこと、右翼手ライトの選手も取りに行くのにすごい時間がかかって、打者走者は余裕で2塁に到達。足の速い人間なら、3塁に行けたくらいだった。

3塁の先にボールが転がった時も、取りに行くのに時間がかかると知った。


バッティングマシーンを動かした。

ボールが飛んできた。

ジョーは、バットを振った。

当たった。

しかし。キャッチャーゴロで、地面にポンと跳ね上がった。

「あ、違う。これはいつものやつだった」

ジョーは、少し思案。

『バットにボールが当たった瞬間、例のあの吸いつきを利用して、バットをボールの下に潜り込ませ、上へ弾き飛ばす』


練習、再開。

ボールが飛んできた。

バットを振った。

当たった。

「今だっ」

バットをボールの下に潜りこませた。急いでやらなくても、バットにボールが吸いついているので、余裕だ。

そして、上へはじき返す。

ポン。

ボールは、ふわっと浮いて、2,3メートル先に、落ちた。

短い距離だったが、ふわっと打つことに、見事成功した。

「やった」

よし、これをどんどん飛距離を伸ばしていけば、いい。

ジョーは、練習を続けた。


この打撃練習を始めてから1か月後、ジョーがふわっと飛ばした打球は、1塁の手前ほどまで飛距離が伸びていた。

そして2か月後には、1塁を少し越えるほどまで行った。

3か月後、打球は、1塁の後方数メートルまで伸びた。


高校の卒業式を翌日に控えたその日、ジョーは、バッティングマシーンで打撃してみた。

打球はふわっと舞い上がり、1塁線のライトの守備位置の向かって右斜め後ろのポールまであと数メートルの位置にまで到達していた。

飛距離が伸びた理由は、なにか。


ジョーは飛距離を伸ばすため、最初は力を加えていたが、やがてあることに気づいた。

バットの芯(真ん中より少し上)とグリップ(根元)の関係性に。

高校の金属バットは、重い。

グリップを振ると、もともと体があまり強くなく体に軸もない、ぐにゃぐにゃのジョーだと、グリップが先に動き、バット本体が後からついてくる。

「そうだ、ムチだっ!」

競馬を見ていて、馬を駆けさせるときムチを使ってるのを見た。

バットをムチのように使えばいいんじゃ?

ふつうはバットを体の一部のように動かすわけだが、ぐにゃぐにゃのジョーはその自分のカラダの特性を生かしたというわけだ。

実はこれは、例の変な男からの

「変に力を入れなくても、いいんじゃないか」

というアドバイスも、あったわけだが。


こうして、ジョーの、常人にはまねのできない超技術が、完成した。


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