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ジョー・メハラ伝説  作者: 加藤源次
高校生ジョー
4/13

1回裏打撃、それを見ていた男

ノーアウト、ランナーなし。

ジョーは、打席に立った。服は、普通の体操着、上は半袖、下はジャージ。しかし、頭にはしっかりとヘルメットをかぶり、靴はスパイクだ。そして、バットは、金属バット。


投手は、1年生。同い年ということで、ジョーは気楽。

しかし、ジョーは知らなかった。その投手、リトルリーグの経験があり、この4月に入部した新1年生の中では飛びぬけて才能のある男子だ。

ということで、第1球は、目にもとまらぬ速さのスピードボールだった。

ふつうのど素人なら、びっくりして手も足も出ないところ。

ところがジョーは、ど素人以上に超ビビりだった。

「わ!わ!わあああ???」

ジョーは、超驚いて、その拍子にバットをやたらめったら振り回した。

カン!!!

何と、バットにボールが当たった。


「やった!」

小躍りして走り出そうとしたジョー。

しかし、打球は無残にも、バットに当たった後、ぽろりと地面に落ちた。そこは、捕手のすぐ前。そう、打球は、キャッチャーゴロだった。

「あれま?」

と言いつつも、ジョーはせめて1塁まで全力疾走しようと走り出す。

そのとき、だった。


「うわっ?」

捕手の驚いたような声が、した。

地面に落ちたボールは、当然、跳ねたのだが、その跳ね方が異常だった。

跳ね上がったボールは、高々と舞い上がり、なかなか落ちてこない。

ジョーは、そのすきに走った。

ジョーは、走力はまあ普通と言ったところ。普通に走って1塁に到達し、止まろうとした時、味方が

「おい、ジョー!止まるな止まるな!走れ走れ!」

と叫んでくる。

わけが分からずジョーは、言われるままに1塁ベースを回って、2塁に向かった。たぶん、捕手がとり損ねてエラーでもしたんだろうと思って。


2塁ベースに到達し、捕手を見ると、なんだか空を見上げている。やがて、捕手が、落ちてきたなにかをミットでポン、と捕った。

ジョーの打ったものは、なんとキャッチャー前2塁打になってしまった。

「いやあー、それにしてもよく跳ねたなー」

先輩が、感心顔。


こんなふうに初めての試合は進んでいった。

ジョーの守備は、まるでアクロバットのよう。

ジョーの打撃は、打ってるというより、めちゃくちゃ振った、たまたま当たったみたいな。ほとんどが、キャッチャーゴロで、ほとんどがワンバウンドして跳ね上がるパターンだった。2塁打になったのは1打席目だけで、あとの打席は全部、シングルヒット止まり。いや、ワンバウンド跳ね上がりだけでヒットを1本とっているのだから、大した偶然だ。


けっきょく、ジョーは1番バッターらしい働きをして、試合は勝った。


この光景を、校舎の窓からじっと眺めていた男が、いた。

男は、この高校に通う生徒の叔父で、じつは、元プロ野球選手である。名を、加藤源次と言った。

加藤は、選手時代はポジションは捕手で、大きな当たりは打てないがバットにボールを当てるのがうまいので定評があり、平均2割6分台は打てていた。しかし、タイトルとは無縁で、けっきょくプロ生活は12年を過ごし、昨年ピリオドを打っていた。プロ球団からコーチとして招かれる予定もなく、ぶらついていたら、この日、甥の進路指導相談に甥の父親に代わって赴いてきたというわけだ。

ほんと、人と人との出会い、巡り会いというのは、不思議なものである。


加藤は、ジョーが第1打席でめちゃくちゃバットを振ってボールに当てたのを見て

「あっ!」

と小さな声で、しかし、しっかりと叫んだ。

そして、ジョーの第2打席、第3打席、第4打席を、こんどはグラウンドの隅からじっと見ていた。

そして

「うん、うん、なるほど」

とうなずいていた。


加藤は、その日の夕方、プロ野球時代の同僚で、今は球団の打撃コーチをしているものと、酒の席にいた。

「きょう、原石を見た」

加藤がいきなり、切り出す。

「源次、お前、その子に惚れ込んだな?」

「わかるか?もう、べたぼれだ。一目ぼれというやつだ」

「それで、投手か?打者か?」

「打者だ。あれは、すごい。天才だ。鍛えれば、あるいは日本のプロ野球を代表する選手になるやもしれぬ」

「そんなに打つのか?」

「うん、今はホントの原石だ。片りんを見せているだけで、今はあまり打ててない」

「それで、どうするんだ?その子を」

「うーん。まだ高1だし、今後3年間、あるいは5年間、成長を見守るよ」


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