57.そして、樹海では……ファリス視点③
神殿の鏡に再び『神の涙』の反応が現れた。それに最初に気付いたのは、ルーカスという神官だという。
彼の事は知っている。エドワルドと親しくしていた神官で、何度か言葉を交わした事もある。彼はエドワルドがハイランディア領の神殿へ異動になった後も連絡を取り合っていて、リナのことも気に掛けてくれていたようだ。
陛下は神官達に命じて、国外でも『神の涙』の反応を掴める方法や、その秘宝が持つ特別な力について調べさせていた。ルーカスは、その為に急遽組織された研究グループの一人に選ばれていた。優秀な神官である彼は徹夜で文献を読み漁っている最中、真夜中にふと胸騒ぎがして神殿の広間に足を踏み入れた。そして、樹海のほぼ中央部に『神の涙』の反応が薄らと現れているのを発見したのだそうだ。
報告を受けた陛下は、直ちにセリル村に駐屯している騎士達に樹海の捜索を命じた。
移動魔法で飛んできた部下からその命令を受けたリザヴェントは、すぐに同じやどりぎ亭の一室で休んでいた俺に知らせに来たようだ。
だが、昨日の夕刻から夜中にかけて行ったクラウスへの尋問で、予想以上に精神的なダメージを受けていた俺は、奴がドアを叩く音に気付かないほど深い眠りに落ちていた。しかも、部屋に入った時、無意識のうちにドアに鍵をかけてしまっていたらしい。
業を煮やしたリザヴェントは、ドアを風魔法で吹き飛ばすという暴挙に出た。さすがにその音で目は覚めたが、まだ寝ぼけている頭では部屋に飛び込んできたリザヴェントの言う事がよく理解できなかった。
「……それはつまり、どういうことだ? リナが樹海の奥にいるということか?」
「まだリナが『神の涙』を身に付けているとしたら、そこにいるということだ」
それはつまり、リナが樹海の奥にいるという確証はない、ということではないのか?
そもそも、リナはフェルゼナットに連れ去られたのだ。リナを載せた馬車が国境を越えてもう三日以上になる。それなのに、何故樹海の奥などというとんでもない場所にリナがいるというのか。どう考えてもおかしいだろう。
だが、身を翻して去っていくリザヴェントの嬉々とした様子を見ていると、この男はそこにリナがいると思っているようだ。我々に樹海の捜索を命じたということは、陛下も同じお考えなのだろう。
ともかく、樹海を捜索せよという王命が下ったからにはそれに従わなければならない。
フェルゼナットに内通していた者達は捕らえた。奴らを王都へ送ったら、あとは軍の受け入れ準備をする他は、樹海の調査をするぐらいしかやることはない。例えこれが空振りに終わったとしても、騎士団にとっては良い訓練になるし、動いていた方が気が紛れる。
じっとしていると、余計なことを考えてしまう。リナは今頃どうしているのか。そして、何故あいつらはあんな馬鹿な真似をしたのか。
――どうして皆様、聖女様が無実だって信じられるんです? この国の人間でも、ましてやこの世界の人間でもない。貴族の位を与えられるに相応しい実力も持たないのに、優遇されて勘違いしているただの無能な女なのに。
クラウスの言葉が、今も耳の奥にこびり付いている。
奴は、リナともう十か月近くも同じ部署で働いていた同僚だった。確かに、傍で見ていて決して友好的とはいえない態度を隠そうともしていなかったが、敢えて厳しくすることでリナに文官としての模範を示しているものとばかり思っていたのに。
……まさか、あんな悪意を秘めていたとは。
しかも、俺は傍にいたのに、気付くことが出来なかった。
クラウスは、最後までカシュクロール伯爵に利用されただけだと繰り返すだけだったが、あれほど優秀な男が、かの伯爵ごときに利用されていただけだとは考えにくい。
俺の縁談相手キャスリーン嬢の父ヴァセラン伯爵の妹が嫁いだシトラン家は、ヴァセラン領では影響力の強い役人を代々輩出してきた家ではあるが、貴族ではない。中央の官吏になる為地方から出てきたクラウスは、高い能力を持ちながらも貴族ではないというだけで辛酸を舐めることが多々あっただろう。自分よりも能力の劣る者達が王城の中枢に採用される中、クラウスは陛下に見いだされて対魔情報戦略室のメンバーに抜擢されるまで、幾年も王立図書館の文献管理という閑職に甘んじていたのだから。
――リナ様の存在自体が許せなかったのだろう? 自分が苦労の末にようやく掴み取った職に、何の努力も無しに迎え入れられたリナ様が憎くて仕方がなかったのだろう?
ウォルターの言葉に動揺したクラウスの表情を思い出す。
それほどリナのことが憎かったのか。他国と通じ国王陛下を欺き、多くの者を巻き込んでまで、リナを排除したかったのか。それが露見すれば、自分の身はおろか身内にまで累が及ぶと分かっていただろうに。
あれは、対魔情報戦略室が立ち上がったばかりの頃だった。リナが帰宅した後、残務を終えた数人が互いに抱負を語っている場面に居合わせたことがある。その中にはクラウスの姿もあった。これから先、魔族の侵攻を食い止める為に人間は国境を越えて協力し、力を合わせて立ち向かう必要がある。その中心たる組織になるのだとやる気を漲らせていた、晴れやかなあの表情を思い出すとやり切れない。
ルドルフもそうだ。騎士としては気弱過ぎるところがあったが、温厚で人当りも良く真面目に働いてくれていた。組織のトップに立つ器ではないが、副官として上司と部下とを調整する能力に長けた貴重な人材であったのに。
相手がフェルゼナットなら容赦はしない。敵として、完膚なきまでに叩き潰すのみだ。だが、今回の事件のように、同じ王に仕え共に国の為に身を捧げる決意をした有能な者達を断罪し失わなければならないのは、裏切られた怒り以上に悲しみや虚しさに苛まれる。特に、奴らの能力に期待していた陛下の御気持ちを考えるとやり切れない。
……駄目だ。今は余計なことを考えている場合ではない。
迷いなく制服に袖を通し、リザヴェントが砕いたドアの破片を避けながら部屋を出た。
「『神の涙』の反応は少しずつこちら側へ向けて動いているらしいですね。もしかしたらリナ様は、樹海を通過してこちらへ戻って来ようとしているのかも知れません」
普段通りの冷静さを装ってはいるが、ウォルターの目は輝いている。この男もあまり眠れていないのか色白の顔は更に青白く目は充血していたが、やはり期待に満ちた表情をしていた。
「お前も、リナが樹海にいると思っているのか?」
そう問いかけると、ウォルターは不思議そうに首を傾げた。
「意外ですね。ファリス様はそう思っていらっしゃらないのですか?」
「そうであればいいとは思うが、場所が場所だ。何故リナが真夜中に樹海のど真ん中にいるのかと疑問に思うのが普通だろう」
「……そうですね」
ウォルターは表情を曇らせて目を伏せた後、ぽつりと呟いた。
「けれど、そうであって欲しい、と思うのです」
ウォルターの言いたいことは分かる。リナが自力でフェルゼナットの手を逃れ戻ってきてくれれば、戦争は避けられる。何より、我が国の非難を無視してフェルゼナットがリナに危害を加える、といった事態が起こるのではないかと憂う必要も無くなる。
ウォルターは樹海の捜索に加わりたいと申し出てきたが、同行を許す訳にはいかなかった。魔物が出現する樹海では、何の訓練も受けていないウォルターは捜索の足手纏いになる。そう言って断ると、覚えていろよと言わんばかりの恨みがましい目を向けられた。後が恐ろしいとは思ったが、だからといって連れて行く訳にはいかない。
早朝、樹海に向けて出発する準備が整ったところで、リザヴェントの部下が王城から移動魔法を使って現れた。その魔導師のもたらした情報では、確かに『神の涙』は少しずつグランライト領に近づいているらしい。だが、その動きは酷く不安定で、まっすぐグランライトの方向へ進んでいる訳ではないとのことだった。
『神の涙』を発見するには、樹海を大掛かりに捜索する必要がある。最低限の人数をセリル村へ残し、俺は部下と案内役の村人達を率いて樹海へ向かった。
樹海に足を踏み入れた時には、朝と呼ぶには少し遅い時刻になっていた。
樹海には魔物が出没する。いくら訓練によって魔物と戦う知識や技術を身に付けたといっても、騎士達には魔物との実戦経験はほぼ無いと言っていい。魔将軍の襲来時に初めて実物の魔物を見たという者も少なくなかったほどだ。あの時のような大型で強力な魔物はこの樹海にはいないのだが、当時の恐怖感がよみがえったのか騎士の中には若干腰が引けている者もいる。
魔物と遭遇した場合を考え、俺は騎士達を三人から五人ほどの班に分けた。受け持ちの範囲を定め、セリル村側から樹海の中心部に向けて捜索していくことにする。
だが、樹海内部には地図どころか目印になるものも少ない。下手に分け入り過ぎると捜索する方が遭難してしまう事にも成り兼ねない。そこで、樹海に足を踏み入れた経験のあるセリル村の若者達を各班に一人同行させ、迷わないように木に目印を付け、また隣の班と連絡を取り合いながら奥へ進むよう徹底させた。
日が高く昇った頃、樹海の入り口付近で指揮を執っている俺の元に、指示していた通りに各班から定時報告があった。
まだリナも『神の涙』も見つからない。本当にリナは樹海の中にいるのか、という疑念がますます強くなっていく。
魔物と遭遇した班もあったが、これまで寄せられていた被害情報から推測していたよりも随分と少なかった。訓練の成果が発揮され、手当てが必要な怪我を負った者もいない。正直拍子抜けしてしまったが、予想していたよりも捜索がしやすいのでこれは嬉しい誤算だった。
昼食の時間帯になると、一度樹海内から各班が戻ってくる。全員で情報交換をしつつ、セリル村から運ばせていた昼食をとる。
その最中のことだった。セリル村に残してきた部下の一人が馬を駆って現れたのは。
よく見れば、その背後から腕を回して必死にしがみ付いている魔導師がいる。痩せたその若い魔導師には見覚えがあった。やどりぎ亭で薬物を飲まされた三人の魔導師のうちの一人だ。あれから回復して、今では他の魔導師達と共に情報伝達を担っている。
「ファリス様、大変です。内通者二名が逃亡しました」
部下の言葉にその場が騒然となった。
本来なら、今朝には内通者らを罪人として王城へ移すはずだったのだが、未明に樹海捜索命令が下ってその準備に手を取られてしまった。俺達が村を出立した後、改めてリザヴェントが移動魔法で移送することになっていたのだ。
「逃げられただと?」
「はっ。魔法陣まで連行する途中、隙を見て見張りの騎士を殴り倒して逃走しました。リザヴェント様を中心に残った者達で後を追ったのですが、奴らは村の民家に侵入し住民を人質にして立てこもっています」
カッと頭に血が昇る。それまで胸の内で燻っていた奴らへの同情の念が、一瞬にして霧散した。
「下衆がっ。この手で成敗してくれるわっ!」
怒りに任せてそう叫ぶと、近くにいた副官代理の騎士に捜索の指揮を託し、剣を片手に馬の元へ駆けだす。が、途中で間の抜けた声が背後から俺の名を何度も呼んでいるのに気付いた。
「何だ!」
振り返ると、魔導師が伸びあがって懸命に手招きをしている。こいつは部下が俺に報告をしている間、馬から転げ落ちるように降りると、そのまま地面にしゃがみ込んで何かをしていたのだったが。
「ファリス様~。魔法陣ができましたぁ。これで僕がセリル村までお送りしますぅ」
「それならそうと早く言え!!」
苛立ちをぶつけるように怒鳴りつけてもキョトンとしている魔導師の元に駆け戻ると、奴より先に魔法陣に足を踏み入れた。
やどりぎ亭の前にある魔法陣から出ると、苦虫を噛み潰したような表情のウォルターが立っていた。
「やはり戻ってこられましたね」
「何だ、悪いか」
「こちらはこちらで何とかするので、捜索に専念していただけますか」
「王命には従う。だが、罪人を取り逃がし村人を危険に晒している状況を放置している訳にもいかんだろう。俺はこの村にいる隊の責任者なのだからな」
そう応じた俺に、ウォルターは無言で頭を下げる。どうやら、内通者二人を逃がしてしまった負い目を感じているらしい。
「そもそも、お前は騎士でも官吏でもない、貴族家の執事だ。隙を突かれて殴られ内通者に逃げられたのは俺の部下で、お前が罪の意識に苛まれる必要などない」
「分かっております。ですが、リナ様の捜索に支障が出るようなことになれば……」
「後は部下に任せてある。俺一人がいなくなったところで捜索の指揮が落ちることはない。騎士の能力を見くびるな」
偉そうなことを言ったが、内通者の逃亡を許してしまった後では少々説得力に欠ける。奴もそう思ったのか、浮かない表情を変えることはなかった。
ウォルターに案内された民家は、やどりぎ亭から二区画ほど離れた村の外れにあった。中に二間ほどしかない小さな木造の平屋で、若い夫婦の新居なのだそうだ。夫は今朝から樹海の捜索に加わっており、人質になっているのはその妻だった。
「中の状況がよく分からない。魔法でドアを吹き飛ばして突入するのは簡単だが、そんなことをすれば女の命は保障できない」
どうすべきか判断が付かずに二の足を踏んでいたのだ、と振り返ったリザヴェントの眉間には深い皺が刻まれていた。
「で、奴らの要求は?」
「足の速い馬を二頭、金と食糧もだ。しかし、要求通りに渡しても、すぐにはあの女を解放しないだろう。恐らく、フェルゼナットに逃げ込んで己の身の安全が保障されるまで連れて行くに違いない」
「だろうな」
見回せば、村の住民たちが不安げに顔を見合わせながら事態を見守っている。
樹海で報告を受けた時、村の住民が人質になっていると聞いて、捜索隊に加わっている若者達も驚いた表情をしていた。誰かは分からないが、あの中に人質の女の夫がいたのだ。
我々に協力してくれている間に妻をこんな危険な目に遭わせてしまうとは気の毒でならない。何とか無事に救い出して夫の元に返してやりたい。
それにしても、奴らも無謀な真似をする。こんなことをしても逃げ切れる訳がないだろう。
半ば呆れながらも、このまま放置する訳にはいかないと部下を呼び寄せる。
「要求通りの物を用意しろ。出てきた所を叩く」
強引に突入するよりも、奴らが屋外に出てきた隙を突くほうが人質を無事に解放できる可能性が高い。
部下が鞍に適当に金や水筒の入った袋をぶら下げた馬を二頭引いてきた。その手綱を受け取ると、そのまま内通者が立てこもった家の前に引いていく。
「要求の物は揃えた。人質を解放して出て来い」
そう何度か大声で呼びかけたが、中から応答はない。
「聞こえないのか!」
声を張り上げて呼びかけながら、何かがおかしいと脳内で警鐘が鳴り響く。
離れた所にいた部下に目配せをして裏口に回らせ、抜剣すると同時に屋内に飛び込んだ。その瞬間、血の匂いが鼻孔をかすめる。
剣を構え、警戒しながら回り込むと、竈の横に縛られた女が震えながら座り込んでいた。素早く駆け寄った部下が猿轡を取ると、女は震えながらドアを指さす。寝室として使われているらしいその部屋のドアは開いたままだった。
部屋に飛び込むのと、中にいたクラウスが己の首筋にナイフの刃を添えるのが同時だった。
「待て……っ!」
制止しようとしたが、間に合わないと直感的にそう思った。
その時、俺のすぐ脇を風が吹き抜け、クラウスを包んだ。風に揉まれ、クラウスはバランスを崩して転倒し、ナイフが床に転がる。風に揉まれた時に掠ったのか、首に添えていた刃が皮膚を傷付けて血が流れてはいるが、頸動脈を切断するほどの深さではなさそうだ。
部下がクラウスに飛びかかり、足で床に落ちたナイフを蹴り飛ばして手の届かない場所へ離す。床に押さえつけられたクラウスは、俺を見上げると不敵な笑みを浮かべた。
「どういうつもりだ。何故こんな真似をした?」
一度視線をクラウスから離し、血溜まりに沈んだルドルフに目をやる。この家の物らしきナイフの柄が、ルドルフの背に突き立っていた。
クラウスは声もなく笑い続け、質問に答えようとしない。屈みこんで髪を鷲掴みにして引っ張り、頭部を持ち上げ至近距離から睨みつけると、ようやくクラウスは挑発的な笑みを浮かべたまま口を開いた。
「……この男が逃げようって言うから、僕は付き合っただけですよ。でも、とても逃げ切れそうにないから諦めようって説得したのに、言う事を聞いてくれないから言い争いになって、弾みでつい」
尤もらしい言い訳だ。だが、昨夜の取り調べでの態度を思い返すと、それが本心だとはとても思えない。
クラウスの頭を床に押し付け、髪から手を離して立ち上がった。すでにクラウスは部下によって後ろ手に縛り上げられている。
背後に立つリザヴェントを振り返り、クラウスには見えないように目配せをした。一瞬、訝し気に目を細めたリザヴェントに、察してくれよと心の中で祈る。
「樹海の捜索は一旦打ち切りだ。騎士達を一度樹海から引き揚げさせる。悪いが、魔導師を樹海に向かわせて、そう伝えてくれないか」
「……分かった」
そうして、リザヴェントや部下達を促し、クラウスを残して部屋を出た。
その直後、戸口に身を隠し、そっとドアの隙間から室内の様子を窺う。そして、一人残された奴の反応を目にして、己の推測が正しかったことを知った。
クラウスは身体を折り曲げて身体を震わせていた。笑っているのだ。上手くいったと、堪えきれないようにほくそ笑んでいるのだ。
「やはり、それが本心か」
再び室内に踏み込み、地を這うような声で問いかければ、クラウスの表情は凍り付いたように一変した。
「聖女の捜索を妨害するのが目的だったのだな。その為にルドルフを唆して逃亡し、こいつが弱気になって投降しようとしたので背後から刺し殺した。俺達が踏み込んだのに合わせて自殺しようとしたのは、罪の意識に苛まれているという体裁を取り繕う為か。それとも、己の命を盾に俺達をここへ引き止め、少しでも捜索を遅らせる時間稼ぎをするつもりだったか?」
「……くっ」
悔し気に顔を歪めたクラウスに、部下が飛びかかって口の中に布を押し込む。舌を噛み切るのを阻止する為だ。
「自ら命を絶つなぞ許さんぞ。お前は俺がこの手であの世に送ってやる!」
「落ち着け、ファリス!」
抜身の剣を振り被った俺の腕をリザヴェントが掴む。
「離せ、リザヴェント。こいつのせいでリナは……!」
「お前の怒りも分かる。私とて同じ気持ちだ。だが、この男にはまだまだ吐いて貰わねばならぬことがある。それに、陛下の御前で犯した罪に相応しい罰を受けて貰わねばならない」
「そんなことは分かっている!」
分かっている。だが、どうしても許せない。それほどまでにリナが憎いか。本当にリナがそこにいるかどうかも分からない樹海の捜索を妨害する為に、ここまでやるのか。
「やどりぎ亭の元の部屋に閉じ込めておけ。聖女の捜索が優先だ。王都への移送は、捜索が終わってから行う」
こいつは俺が責任をもって王城へ移送し、一筋縄ではいかない奴だとあちらの取調官に伝えておかなければならない。
そして洗いざらい吐いた後、俺の手で成敗してやる。必ず。