表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私の家には  作者: 飛鷹
2/3

中編

そして、一時間後…私の目の前には、さっきの材料ではとても作れないだろうというような豪華フルコースが並べられていた。…


「…あれだけの食材でこれは当然作れないよね」

 並べられた料理の中からまずスープを一口分掬いながら、給仕してくれた少年に聞いてみた。

少年は「当然です」とにこりと笑みを浮かべて頷いた。


「申し訳ございませんが、さすがに私が料理のスペシャリストでも、あれではとても作れません。ですので、主様の屋敷から食材を調達して作らせて頂きました」

「主様? …あの自称魔法使いさんの事? 私の夕飯を横取りした人のこと?」

「えっ!?」

 少年は、私の問いに、かなり目を丸くして、その後得心したようでため息をひとつ吐いた。


「お嬢様には、ご迷惑をおかけして申し訳ございません。主様は魔法使いとしては非常に優秀なのですが、変わった料理など目にすると飛びつく…いえ、目がなくて…。それで恐らくお嬢様のお食事も例に漏れず飛びついたのだと思います。…それがなければ、本当に優秀な魔法使いなのですが」

 おおふ…。少年、苦労しているんだね。

だから、何も言わずに私の食事を作ってくれたんだね。ありがとう。

けど、これだけのフルコースを少年が短時間で作ってくれるなら、私のカップめんなんか見向きもされないような感じがするんだけど。

カップめん、コンビニで消費期限間近だった特売の一個100円のものだよ?

このフルコースの食事と比べると、めっちゃ見劣りするんだけど。


「だからなのです」

「ぬ?」

 私の心の中を読み取ったように、少年は隣室でTVを見ながら寛いでいる自分の主を見つめながら再び吐息を漏らした。

「毎日、このような食事では飽きると…主様は申されまして、知識の探求と銘打たれて、いろいろな世界に穴を開けて、各地で食事をされるのが先ごろの楽しみで…。そして、察するに、この世界でお嬢様が食されようとしていたものは、主様が今まで食べた事のない非常にレアなものに位置するようなものだったのではないかと…」


…一個100円のカップめんがああああ?


 贅沢な食事に飽きて、100円のカップめんを大喜びして人のものを食べたという事なのか…

アホか、アホなのか、この魔法使い。

贅沢すぎる悩みで、メッチャ殺意が沸きそうなんだけど。。。


「おい、今、おれのことをアホだとかと思っただろ、お前」

 TVに集中してたやつが、いきなりこっちを向いた。

む。師弟してなんか人の心の中察するのが鋭くないか、こいつら。

でもいいや。言いたい事を言ってやる。

遠慮する謂れはないもんね。


「ええ、アホだと思いましたよ、当然でしょ。これだけの豪華な食事に飽きたからって、人の食事を掠め取るとか、いくらお偉い魔法使い様かもしれないけど、人としては最低だし」

 少年の作ってくれたメインディッシュのお肉を口に入れながら、私は尊敬する欠片も見られない魔法使いに言い放った。

う~ん、少年の作ってくれる料理、メッチャ美味しいねえ。

お肉はミディアムレアで焼き加減が絶妙だし、さっき食べたスープも塩加減とか本当に極上だった。

この食事に飽きるとか、信じられない贅沢でアホとしか思えない。


「ルイスが作ってくれる食事は確かに美味しい。それは俺も認める。…だがしかし、ちょっと変わったものも食べたいと思う事があるだろう」

「うん、それは否定しません。でも人が食べようとしたものを掠め取って食べる事は別問題」

「ぐっ」

 よし、勝った!

私は内心でほくそ笑みながら、少年(ルイス君というらしい)ににっこりと微笑みかけた。


「ルイス君って言うの? 私はカンナ。よろしくね」

「あ、申し遅れました。ルイスと申します。カンナお嬢様よろしくお願いいたします」

「カンナでいいわよー。お嬢様なんて呼ばれた事ないし!」

「いいえ、カンナお嬢様と呼ばせて頂きますね。うちの主様が大変な非礼を働いた事もありますし」

「ん~、ま、お嬢様なんて呼ばれる事なんてないし、これからももう呼ばれる事はないだろうから、ま、いいわ、それで」

 …私は、きっとこれっきりの出会いだと思ってたのよね、このときは…

この後、二人と別れれば、もう二度と会うことはないと思ってたのよ。

…異世界の人だし…


「…おい、俺は蚊帳の外か」

 ルイス君と二人で和気藹々してたら、お邪魔虫が割り込んできた。


「あー、はいはい、そこの人の名前も聞いてあげるわよ、というか、最初に人の家に入ってきた時点で自己紹介ぐらいしなさいよ。無断飲食するわ、自己紹介もしないわで、随分礼儀知らずなんだけど」

「それは、最初は言葉が通じなかったからだが…」

 それでも、自分が拙い状況を引き起こしたという自覚があるのか、自称…いや本当の魔法使いらしき男は目を右に左に泳がせながら軽く謝ってきた。


「うむ…食の誘惑に勝てなかった。済まなかった…」

「はいはい、謝罪は受け取りましょう。それで貴方の名前は?」

 謝罪を受け取り、先を促した。

男は胸を張って名乗り始めた。

「聞いて驚け、多数の異世界に名前を轟かす界渡りの魔法使いとは俺の事、タッヘ・カーナ・オーアだ」


「悪いけど、知らんわ」


 …イケメン魔法使いがorzって格好になった。

うん、だって知らないもんは知らん。

それより、ルイス君の食事はすごく美味しかった。

私は手を合わせてご馳走様とありがとうとお礼の言葉を述べた。


「お口に合いまして何よりです」

 ほんと、このルイス君って、そこの魔法使いより人間が出来てるわあ。少年だよね?

少年なのにこの礼儀正しさ。すばらしいわあ。


「くそ、そういえば、この世界に来るのは初めてだから、俺の名前が響いてないのは当たり前だったな」

 あ、なんか魔法使い、タッヘ・カーナとかいう人が浮き上がったわ。

うん、初めて来たから、言葉も通じなかったんでしょうが、そこに気づきなさいよ。

私は、ルイス君の淹れてくれた食後の緑茶を啜りながら、横目でちらりと魔法使いを見た。

外面がイケメンなだけに、中身がほんと残念だわー、この人。


「とりあえず、カンナとか言ったか。俺はさっき食した『カップめん』というのが気に入った。これから、ちょくちょくここに邪魔する事に決めた。なので、カップめんをいくつか準備しておいてくれ」

「は?」

 なんか、不思議な事をのたまいましたよ、この人。

また来るだと?

そして、カップめんを準備しておけと?

私、極貧だって言わなかったっけ?言ってなかったわね!今、言わなくちゃ!


「人にカップめんを奢るような金さえ、今の私には惜しいほどの極貧なのよ、絶対無理!準備できるかー!」

 秘技、一徹返しをこの魔法使いにしてやりたかったけど、お茶碗とか割れたら今の私にはメッチャ辛い。

なので、心の中だけで、一徹返しをとどめて置く。

そんな私に、魔法使いは懐から皮袋をひとつ取り出した。

そして、私の前にドンと据え置いた。


「代価は渡しておく。この世界でどれほどの価値を持つか判らないが、大抵の世界では、金塊さえあれば様々なものが買え、用立てできた。だからこれをお前にカップめん代として預けていく」

「………金塊?……」

 私は、目の前に置かれた皮袋をそろりと持ち上げ中を覗いてみた。

…砂金というよりはちょっと大きな金の塊がいくつも入ってた。

…本物?

た、確かに、これだけあれば、カップめんは山ほど買える。金が本物ならば…

金じゃなくて黄鉄鉱なら殆ど価値ないけどねー。あっはっはっ。

しかし、これが本物の金なら、そんな大金になりそうなものをぽんと見知らぬ他人に渡すこの人は真にアホだと私は確信した。

私が持ち逃げしたらどうすんだよ、この人。…


「本物かどうか判らないので、とりあえず、一粒だけお預かりして残りは一旦貴方に戻します。で、その一粒は、明日鑑定にもって行きます。そして、本物だったら貴方の望むカップめんが一粒でも結構な数は買えるので買ってきましょう」

 金1gが今相場でいくらぐらいだったかなーと、大学に行く途中にあった質屋さんの前に表示されてるチラシを思い出して明日寄ってみようと思った。

質屋さん、金1gから換金してくれるしねー。


「それでいいですか?」

「お前は意外にも心根が全うなのだな。一粒だけ取って残りは返すとか。それは紛れもなく本物だが、それに納得したら、迷惑料とでも後から受け取ってくれればよい」

 おやまあ、迷惑料とかいう言葉が返ってきた。

アホだけど、それなりの良識は持っているんだね、この人。

しかし「意外」は余計だっつーの。


「けど、そんなにカップめんがお気に召したの?」

「うむ。いろんな世界を巡ってきたが、この世界のカップめんは中々素晴らしい。美味しい上に、作り方が実に簡易だ。どこの世界にもこのようなものはなかった! だからまだ他にもバリエーションがあるなら食べてみたい!」

 タッヘ・カーナさんは、握り拳した。

この魔法使いが来たときには既に私はお湯を入れてたから作り方は知らないと思ったんだけど、私から知識を得て、パッケージに印刷されてある作り方を見たんだな、なんて素早い。

しかしまあ、これだけの贅沢な食事を日夜してるのに、100円のカップめんがこの人の心をこんなに捉えるとは…。

ルイス君がうんざりとした表情をしているわあ。

お姉さんも同情するわ。


「明日もまた来るから、新しいカップめんがあれば準備しておくように!」

「あーはいはい。判ったわよ」


 こうして、我が家に招かれざる異邦者が来訪するようになったんだけど、まさか、毎晩来ることになるとは思わなかった。

カップめんの代金にもらった金粒は本物で、一粒ずつ換金して、その都度様々なカップめんを買い足して、この異邦者と半同棲(?)みたいな生活が始まることになるとは、私は全く予想していなかった。


 そして、カップめんを制覇してしまった次には、袋ラーメンを制覇する事になる事も予測していなかった。


…タッヘ・カーナさん…毎日ラーメンは健康によくないと思います…。



タッヘ・カーナ・オーアさんの名前が変なのは、逆から読むと意味がわかります^q^

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ