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第38話 新たなる旅立ち

一章最終話です。ここだけシンカ視点。

 師匠……なぜ急にいなくなってしまったんだ? こんな雑兵をいくら相手にしたって、俺の欲望は満たされないっていうのに。


 戦いながら、俺はそんな事を考えていた。


 そうだな……強いて言い訳をするなら、リマシィにたじろぐ自分にイライラしてたんだ。ソウルを持たない疎外感もあった……旅立つ寂しさや、多勢に無勢で襲いかかってくる敵への怒りもあったかもしれない。


 それらがフィスカという鎖から開放された途端に爆発したんだ。


 言ってしまえば、つまるところ『八つ当たり』だ。


 逃げるだけなら全力で走れば逃げられた。なのに自分の力を誇示して、身の程を思い知らせてやろうと思ってしまったんだ。


『たかだか千人程度で俺を倒せると思っているのか?』と。


 師匠なら、きっとこんな言葉で俺の幼稚な感情を忌み嫌っただろう。


「そりゃあ畜生道だ。人間性の対極に位置するものだ。その先に武道なんて存在しない」


 あるいはこう一蹴するかもしれない。


「みっともねえ」


 俺は殺到する千人のクヮーコム兵を片っ端から敵をぶん投げてやった。


 自分の生まれた国の古典的話芸に『ちぎっては投げ、ちぎっては投げ』なんて話があるが、まさにそんな感じだった……ただし千切られ、投げられるのはクヮコーム兵だったが。トウモロコシかジャガイモみたいに、敵の衣服を掴んではまさしく『ちぎっては投げちぎっては投げ』して他の兵に投げつけてやった。


 ……正直、その時は壮快だった。


 大半の兵は、何が起きているのかさえ分からずに吹き飛んだ。

 俺の動きを目で捉えている者はほとんどいなかったし、見える者も残像くらいしか追えていなかったはずだ。


 


 数百回は投げ飛ばしただろうか?

 しばらくすると竜巻でも通過したような有様で、敵は総崩れになっていた。

 まだ半分くらいは無傷で残っているが、そいつらの闘志が削がれ恐怖に戦く顔が(その時は)また見物だった。


 その奥で立ち尽くすリマシィの呆気に取られ、茫然自失とした顔を見て、俺はようやく満足した……にも関わらず、俺はさらに目の前まで悠然と歩み寄ってから、俺の両の手で奇声を上げながらジタバタする最後の二人を女将軍の足下に放り、身動き一つ取ろうとしないリマシィにこう言い放ったんだ。


「余興にもならなかった」


 敵の大将はと言えば、一言も喋らず動かず、なんとも形容し難い顔をしていた……恐怖とも放心とも思えない面持ちで、その黒い瞳をずっと俺に向けていた。


 振り返ってその惨状を見下ろしてから、冷静になった頭で、やり過ぎたかもしれない、と猛省した。


 我に返り、己の破廉恥を省みたら、俺はいても立ってもいられなくなって、その場をそそくさと立ち去ったんだ。

 それを阻もうとする無謀な人間はさすがにもういなくなっていた。



 

 クヮコームの隊から離れてからしばらくして、ただただ続く平原の中、俺は冥府に行く事を決心していた。何の事はない、自分のルーツに一番の可能性を感じたのがソレイルだったからだ。


 いずれにせよ旅に出たのは正解だったのかもしれない。


『冥府』


 ああ……なんて素晴らしい響きだ。そこは強者しか生き残れず、騙し合いと悪意で満たされた世界。フィスカやクヮコームなんかより、よほど自分のいた世界に似ているかもしれない。何が起こるか分からない危険に、俺は少なからず胸を膨らませていた。

 ただソウルという疎ましい障害がある以上、俺には関係ないのかもしれないがな……


 …………


 ならばこの先……俺は誰と戦えばいいというのだ? 


 今のところの可能性は、俺との戦いを望んで追って来た狂戦士が、俺と同じ様にこの世界に迷い込むのを待つしかない。


 一つ目の世界で俺は絶望し、逃げ出した……二つ目の世界でも、もうそいつは俺の肩に手をかけているらしい。


 この絶望に耐える時、俺はいつも孤独で、恐ろしくて泣きそうになる……誰かにすがり、助けを求めたくなる。


 誰か助けてくれ……今にもあの空からやって来てくれないだろうか……もうなんだっていい。化物でもドラゴンでも、あのロボだっていい。


 この真っ暗な絶望の世界から、誰か俺を救い出してくれ……




 そんな孤愁の旅の中、ふと名前を呼ばれた気がして振り返る。


「シンカ様ー」


 気のせいでは無かった。空に浮かぶその黒いシルエットは先ほど見たばかりだし、忘れようにもインパクトが強い。


「な……なんてしつこい女だ」


 しかし今回は軍勢を連れていない。一人で空を飛んでいる。しかも『様』って……


「シンカ様! 私、あなたに一生ついて行きますわ」


 何を急にとち狂った事を言っているんだ?


「お前は将軍だろう? 配下はどうした」

「置いて来ちゃいました」


 にっこりと微笑む彼女の顔に、先に感じたような恐ろしさや陰りが見えなかった。


「そんな事、許される訳ないだろう。それに俺が迷惑だ」

「誰にも人の恋路を邪魔する権利なんてありません」


 まさか本当に恋をした訳でもあるまいに。


「俺の旅路を邪魔する権利も誰にも無い」

「だったらそれはそれで構いません。『偶然旅する方向が一緒だった』だけの事です」


 これは何を言っても無駄かもしれない……まあいいさ。いずれ飽きて国に帰るだろう。俺は黙って歩き出した。


 ほとんど表情を見せなかったリマシィが楽しそうに話しかけてくる……顔が近い。もう少し離れろ。


「私、あなたの事をなんてお呼びしたらいいかしら? シンカさん? シンカ様? それとも……」

「知らん……もう好きにしろ」






 この先何が待ち受けているのだろうか?


 とにかく一人の招かざる仲間が(勝手に)加わり、腕に(勝手に)絡み付く中、俺は新天地、『冥府』へと旅立つ事になった。

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