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第33話 クヮコーム攻略戦⑦ 〜戦の後〜

「あ、ルシア様。ご無事で」


 ふわりと着地するルシアに、ノーアルムは仰向けで傷を治療しながらもいつもの調子だった。背中と腕の傷を自分のソウルで治療している。


「おかげでリマシィ将軍を拘束できたわ」

「ホントですかー? それにしてはずいぶん時間がかかりましたねー」


 せっかく褒めているのだから、黙って喜んでおきなさい。ルシアは目線でそんな言葉を送る。


「そんな事よりリマシィ将軍がなんで単独でこんなところにいたの?」

「例の彼、アスミさんが連れて来てくれたんです。その時は大人しかったのに、後から急に暴れ出すんですから。ダボネオールさんがいなかったら全滅してましたよ」

「シンカが?」

「ええ、なんでも詳しい事はダボネオールさんが知っているみたいですよ」


 ノーアルムが指差す方向にはダボネオールが立っている。横では6人掛かりでリマシィを拘束していた。


「ルシア総隊長! こいつどうしますかー!?」


 呼びかけるダボネオールもよく見ると所々傷を負っている。


「とりあえず今はこれで大丈夫でしょ」

「でもあのパワーじゃいずれ拘束兵が先にまいっちまいますよ」

「交替で見張るしかないわね……交替の際には私たちも立ち会いましょう」


 この二人は年下の上司、年上の部下という関係上、言葉遣いが曖昧でコロコロと入れ替わる。ダボネオールが手招きをしてヒソヒソと話し始めると、それがまた逆転した。


「こいつには色々聞かなきゃなんねぇ。なるべく早く聞いちまいたいんだけどよ」

「何を聞くんですか?」 

「なぜアジトの場所を知っていたのか、なぜ我々が攻め込むタイミングと隊編成を知っていたのか、そんなとこだ」

「隊の編成まで知ってたの?」

「少なくとも俺の居場所は筒抜けだったぜ。それで一度捕まりかけたんだ」

「詳しく話してください」


 ダボネオールは自分が見て来た戦場を報告した……ちょっと言いづらい部分は隠しながら。


「意味わかんない。なんでそれでダボネさんが無事なの? しかもリマシィ将軍はシンカが連れて来たって、ノーアルムが言ってましたよ」

「いやそりゃあ……言いにくいんだけどよぉ」

「早く言ってください」


 ダボネオールはまた煙を吹きながら、頭を掻き始める。眼鏡も壊れて曲がっていたため、その姿が非常にみすぼらしく見える。


「俺、アスミが裏切り者なんじゃないかって疑ってて。丁度あいつに食って掛かってる時に取り囲まれてさ」

「それで?」

「あいつに助けてもらったんだよ。あいつはその時ついでにリマシィも攫ってたみたいで」

「後でちゃんとシンカに謝ってくださいよ」

「あ、謝ったよ! つかルシアこそなんで無事なんだよ」

「私はザクライ君に助けてもらったんです。彼、覚醒してまで私を助けに来てくれたんですよ」

「ロロは俺も見たし、止めようとしたんだがな……やっぱりシンカは間に合わなかったか」


 ルシアは満面の笑みでそれに答えた。


「きっと間に合いましたよ。ダボネさんのアドバイスのおかげでね!」


 そんな経緯を一通り話し会い、リマシィの取りあえずの処遇を決めてから、二人は敵大将の前に戻った。傷だらけで拘束されながらも、リマシィの表情には一つの揺らぎも見えない。


「要点だけ言うけれど、このまま大人しくしていれば無事に帰すつもりだから。じっとしていてくれないかしら?」

「それは……嬉しい……要求はなんですの?」


 さすがのポーカーフェイスも、腹と手に酷い傷を負った代償が、声の震えに現れていた。


「捕まっているフィスカ兵の開放と平和協定、とかかな」


 悪知恵の働くリマシィは、痛みの中でシンカを遠ざけた事が奏功したと確信した。


 シンカはただ単純に、『逃げやすいように』遠ざけたのだと考えていた。だが、リマシィはそれに加えて『自分がアスミ=シンカを知る人物』である事を知られては生きて帰れないと判断したのだ。


「あら? わたくしはてっきり……マトゥーヤの身柄を条件にすると思っておりましたわ」

「もちろんそれが最初に出す条件。でもそれじゃ同意しないでしょうから。落とし所としての条件がそれなの」


 断っておくがこれはダボネオールの案であってルシアの意見ではない。しかも決定案でもない。

 こんな会話をきっかけに、一通りの詰問が行われた。逆に違和感を感じるほど、リマシィは流暢に事の経緯を喋った。


 フィスカの布陣はマトゥーヤの能力で予め確かめており、アジトの場所まで感知しながら泳がせておいたと言うのだ。それほどまでに広い能力範囲を隠しておいた事がマトゥーヤの秘策であったと言う。


「話に目立った矛盾点などは無いかと思いますが」

「ノーアルムにも聞いてもらってから結論を出しましょう」


 何の自慢にもならないが、この二人は二人ともが、知性のレベルに限って言えば隊長格六人中まず間違いなく下位三人に入るであろう事を自覚していた。

 ちょうどその時、利口な方に位置する隊長が、馬にまたがりやって来る。後ろにはシンカを連れている。


「どうです? お話聞けました?」

「よかった、ちょうどノーアルムにも話を聞いてもらおうと思ってたんだ」

「是非お願いします。その前に一ついいですか? アスミさんがそこの将軍とお話したいと仰るのですが……」


 シンカを見たダボネオールはまだ気まずさを隠せないようで、苦笑いで大男に手を振った。シンカは自分の隊長に会釈してからルシアに向き直る。


「なぜ? 何を聞くの?」


 こう発声するルシアの声に、シンカが初めて見る隊長としての風格があった。


「至極個人的な話だ。無理は承知しているが、リマシィと二人きりで話す事はできないだろうか」


 続いてダボネオールが答える。


「さすがにそりゃ出来ねぇよ。アスミには感謝してるし、恩もある。だけどな、気を悪くしねぇで欲しいんだが……お前の潔白が証明された訳でもないんだぜ? そうでなくたってリマシィが隙をついて逃げるとも限らねぇんだ」


 ぐうの音も出ないとはこの事だ。シンカは作戦を変える事にした。


「ルシア、ちょっと二人きりで話せないか」

「私と? 構わないけどなぜ?」

「リマシィと話したい理由を、ルシアに話せば分かってもらえると思う」


 ここで一同が沈黙する。ルシアとダボネオールはもう一人の隊長に視線を注いだ。


「な、なんで僕を見るんですか? 別にいいんじゃないですかね? ルシア隊長の許可が降りたら別に何の問題も無いでしょう」




 という訳でルシアとシンカは陣を離れて話し始めたので、残された二人の隊長もそれを遠目に会話する。


「なぁ、話ってなんだと思う?」


 ダボネオールが煙を噴きながら尋ねた。本来ならば寝て治療に専念しているべきノーアルムは平然と答える……彼は治癒に関して目覚ましい力を持っていた。


「さぁ? 聞いてみないと分かりませんね」

「お前なら何となくでも分かってるんじゃねぇの?」

「まあ選択肢はそう多くはないでしょうね。リマシィ将軍と二人きりでないと困る話で、且つ、その理由はルシア様と二人きりでないと困る話」


 ダボネオールには全く分からない。思考と一緒に煙草を投げ捨てた。


「……ってなんだよ?」

「一例としてこんなのはどうでしょうか? アスミさんはフィスカとクヮコームの内通者が誰か、感づいてしまった」

「それなら皆の前で堂々と聞きゃあいいじゃねぇか」

「それがアスミさんともルシア様とも仲の良い人物だったら?」


 言葉を詰まらせるダボネオールに、ノーアルムは続けてフォローを入れる。


「飽くまで一例、仮説ですよ」


 笑ったままの表情で、その蒼い瞳が見えないほど目尻を伸ばしながら、ノーアルムは淡々と語った。



 

 戻って来たルシアの説明はこんなものだった。

 二人きりの面談は許可する。ただしもう暗くなってきているので、明日の朝にすると……説明はそれだけだった。

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