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彼と私のぐだぐだ恋愛日記。

ぐだぐだ過去話

作者: ひばり れん


例えば。

好きな人に逢えたことを運命の出会いだという人がいたとして。

それはきっと他の人にとってはどうでもいいこと。

特にその人がバカップルだったりすると、もっとどうでもいいことなんだよね。



私は彼との出会いを運命とは思ったことがない。

この出会いは必然であり、今こうなっているのは偶然だ。

だってそうじゃないか。そうでも言わないと、おかしいじゃないか。


私たちは一日に何人の人間と出会っているのか考えてみたら。

その中の全てが運命の出会いであって、ただ付き合わないだけだ。

話をしたり、遊びに行ったり、そういった人間関係を築かないだけ。

出会いはいつだって傍にある。



「ねー、これきっと似合うよー」

「え・・・いらないからね?」

「えーなんでー。ちょーいいと思うんだけどー」

「無駄遣いしちゃだめでしょ」

「無駄じゃないよー」



いつものように私を後ろから包み込む彼。

いつも通り、彼の部屋である。

最近はよく外でデートしていたから、その分こちらで過ごすことになりそうだ。





彼と私は幼いころからご近所で、小学校から一緒だった。

私は幼稚園、彼は保育園だったので最初の出会いは小学一年生の時。

きょどきょどしていた、かわいい彼はもうどこにもいない。

今はこんなに大きくなっているし、ずうずうしいくらいに突っかかって来る。

いや、訂正。全身で突っ込んでくる。

最近は本気でヘルニアとかぎっくり腰とか心配になってきたくらいだ。


でもだからといって、嫌いになる要素はどこにもない。

最初は本当に何も話をしなかった関係だったのに。

小学、中学と学年を上がっていく内に知り合いが少しずつ減ったから仲良くされただけだ。


その付き合いが少し長く、深くなっただけだ。


彼は知らないけれど、私には憧れていた人がいた。

それは恋愛にすらならなかったけれど。

ただただ、目だけで追いかけていた。そんな日々もあったのだ。

その人は手が綺麗で、とても器用な人だった。


それに対して、彼の手はとても大きい。

それにバイトをしているからか、それとも学校の授業の所為か血豆が目立つ。

ごつごつしていて、ちょっと日焼けしているからお世辞にも綺麗とは言えない。

でも、とても優しい手だ。

私が重いものを持っていたら、雑談交じりに私の手から奪い取って持ってくれる。

私がよろけたら支えてくれる。

いつも迷子になりに行く私の手を引っ張ってくれる。


だから、好き?なのかな。

どう考えても私頭弱い子かも。

もう少し、好きな部分あるはずだよね。普通。

これじゃ私にとって都合のいい相手だからって突っ込まれても仕方ないかも。


それに出会いだって華やかな花が咲き乱れるようなものの方がきっとバカップルっぽいもん。

たぶん。



「そういえば最初に会った時さ、俺睨まれたよな」

「え゛」

「確かあの時って、俺の後ろの方にいた上級生を見てた?」



あれれ、おかしいな。

彼にはばれていないと思っていたのに。がっちりばれていた。

そう、お隣の家のお兄さん。

私が見ていたのはその人だった。今は県外の大学に入学して、一人暮らしをしているという。

お母さんが教えてくれた。


お兄さんはどうやら教師になりたいらしい。

教育学部に進学して、将来は中学校の教員になるのだと前に言っていた。

あの手でチョークを持って教卓に立って──。

私にしたのと同じように、あの綺麗な手で他の子の頭をなでるのだろう。



「な、ななんで!」

「いや、あんなにも険しすぎる目で見られたの人生で初めてだったし」

「うぅ」

「それに、いまならちゃんと意味わかるし」



そういってから彼は私の頬にキスをする。




「好きだよ」




彼に隠し事はできないことを改めて知った。

なんで、今まで誰にも話したことのない、気づかれたことのないことを知っているのだろうか。

本当に不思議で仕方がない。

愛の力とか冗談かまされたら、殴ってしまいそうなほどだ。



「でもまぁ、今は俺だけ見ててよ。ね?」



なんだかんだあっても、彼は私の気持ちを推察してくれる。

しかも嘘発見器並みに正確。

だから、すごく、嬉しいのだと思う。

誰もしないことを彼はやすやすとやってくれる。

こんなにも小さくてしょうもない、私のことを気にかけてくれる。

私自身が気づけない、私を知っていてくれるから。



「ちゃらい」

「っう゛。チャラ男は嫌い?」

「変わった脳みその形してそうで、興味深い」

「ええ!ほんとに?!」

「なんで喜んでるの・・・」



クラスメイトとか「ずっ友」とかいう謎の物体から離れる切っ掛けをくれた彼には多大な感謝をしている。

嘘つきばかりの有象無象。あれは本当に苦行だった。

「仲良くしよう」なんて口では言いつつ、和を崩そうとすると即座に排除しようとする。

友情は何時だって儚いもの。泡沫の夢、砂上の城。


その事実に気付いてしまってから、私は変わってしまったように思う。


嘘を吐くための仮面を作り、外に出るときは手放せなくなった。

楽しくなくても笑えるように、道化の仮面を。

他人と同調できるように、悲しそうな喪女の仮面を。

「友人」という怪人が喜ぶ、笑顔を張り付けた人形の仮面を。



彼に没収されて漸く気づけた。

自分に嘘を吐き続けた、自分の非情さに。



だから彼は、私にとっての特別。

彼にとっての私も、そうあって欲しいけれど。

あまりそういうことは言わないでおこう。

だって、これ以上特別扱いされたらきっと、完全に彼に寄り掛かりたくなるから。


今充分幸せだから。これ以上はいらない。



「俺には、君がいてくれれば充分幸せだから」



こうして、何気ない日常を共に過ごせるこの時間が何よりも愛おしい。

いつか離れるかもしれない。

いつか、この時間が失われるかもしれない。


それでも、今この時のことはずっと忘れない。

ここで彼と過ごした時間は、偽りじゃないから。

私はこの時間だけ、本当の自分で在れる気がするから。


「私も、」



幸せだって、言い返す前にぎゅぅっと抱きしめられて窒息しかけた。




***


追記。


「ぎぶ、ぎぶだって・・・」

「えー?きーこーえーなーい」

「しんじゃうって、」

「息止まったら人工呼吸してあげるからー」

「止める気・・・?」

「じょーだんだよ」

「・・・・――・・・・はぁー」

「息し辛い?やっぱちゅーする?」

「・・・・結構です」


彼の腕力は半端じゃない。

軽くお花畑が見えたから、今後彼の腕には気を付けておこう。





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