表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

たずね人

作者: 夢育美

 残業疲れで、PCの電源を入れるのもおっくうだった。

 ここ数日スパムしか見ていなかったし、知人からのメールもない。

 毎日の習慣で、なんとなくメールチェックしている。


『たずね人』


 20通ほど届いていた中、シンプルなタイトルが目についた。少し興味をひかれてクリックしてみる。


「<たずね人>

 

 突然のメールで失礼します。

 少しのお時間が頂けるなら、最後までお読み下さい。

 ある人を探しています。あちこち探したり、

 知り合いに声をかけたりしましたが見付かりません。

 探偵社に依頼してみようとも考えています。

 もし、以下のような特徴のある方をご存じでしたら、

 お手数ですがわたし宛にご連絡下さい。

 

 <特徴>

 ・身長… 57m

 ・体重…550t

 ・特技…巨体を唸らせながら、空を飛ぶ事ができる

 ・好物…超電磁エネルギー

 ・その他…もともとは、5人だったらしい


 ……なんだこりゃ。新手のチェーンメールか?

 知り合いの悪戯かと思って発信者のアドレスをチェックしたが、知らないアドレスだった。

 念のためヘッダを表示して、From: や Sender: を確認する。

 どうやら、メールの転送サービスを使っているらしい。BCC: を使っているて、どのくらいの人数に送られたものかも分からない。

 面白そうだと思ったが、ゴミ箱に捨てた。頭の中では、答えは多分アレだろうな、などと考えていた。

 いわゆる「懐かしのヒーロー」ってやつだ。俺と趣味が合うとはなかなか珍しい。


 それから三日ほどたった頃に、再び『たずね人』メールが届いた。

 文面は前回と同様、送り元も同じだったが、特徴の内容が違っていた。


「<特徴>

 ・外見…胸に流星のマークを付けている

 ・特技…ジェットで敵をやっつける

 ・出身…光のくに

 ・口癖…ジュワ!

 ・その他…普段は、一般成人男子の姿をしている


 なるほど。今度はアレの事なんだろうな、と思いながらゴミ箱へ。

 いったい、どんな奴が送っているんだろうとか、返信した奴はいるのか、など興味がわいて来る。

 二通目が来たという事は、まだ続きが来るかもしれない。

 案の定、それからもこの怪文書ならぬ怪メールは、二、三日置きにやって来た。

 内容が不快な物でもないし、目くじら立てる程でかいメールでもない。

 寂しいひま人の、ちょっとしたお遊びに付き合ってやっている、程度に楽しむ事にした。


 たずね人の特徴は、毎回手を替え品を替え懐かしのヒーローを表す物だった。

 中にはかなりマニアックじゃないか? という、頭を捻らないと思い出せないような物もあった。

 不思議に思いながらも、家に帰ってからの楽しみになっていた。

 一度も返信した事はなかったが、相変わらず届いている。気が付けば、いつの間にか数十通の『たずね人』メールが溜まっていた。

 よくもこれだけネタがあるものだと、見返すほどに感心してしまう。


 ところが、急に終わってしまった。もう一週間以上、『たずね人』メールが来ていない。

 次はどのヒーローだろう、このヒーローは来ないだろうな、などと予想するのが非常に楽しみになっていた。

 それだけに残念でもあり、何か、裏切られた気分になっていた。


 思い切って、送り主に返信してみようか。

 そう思った矢先に、待ちに待っていた『たずね人』メールが届いた。

 あせる気持ちを抑えて、タイトルをクリック。

 書式はいつも通りだったが、特徴は今までとは少々違っていた。


「<特徴>

 ・年齢…28歳

 ・職種…XX商事営業担当

 ・出身…長野県

 ・特技…木登り、たかおに、ドルゲのまね

 ・好物…ソフトクリーム

 ・その他…最近残業続きで、疲れているらしい


 ……そうか、やっと分かった。忙しい、仕事だ、時間が無い、なんて全て言い訳に過ぎない。

 幼馴染の彼女とは、職場のビルが隣同士で偶然再会した。

 何度か会ううちに彼女の方から告白されて、付き合い始めてもう二年になる。

 良く気が付くし、料理もうまいし、結婚対象としても申し分なかった。


 ただ、子供の頃の自分を知られている、その話題が折りに触れて彼女の口から出て来る、その事に少し嫌気がさしていた。

 自分を全部把握されているようで、既に自分は彼女のものに決まってしまった気がして、酷くつまらなく思えてしまった。

 なんて自分勝手な考えだったのか、と思う。


 彼女に謝らなければ。それから、今度の休みは彼女の好きな水族館に一緒に行こう。

 その前に、まずは電話かな……

 ディスプレイの前でしばらく思案した後、[返信]ボタンを押して、返事を書き始めた。


「<たずね人>

 

 突然のメールで申し訳ありません。どうか最後までお読み下さい。

 私の大事な人を探しています。一月近く音信不通で、

 どうしているのかとても心配しています。

 それから、私はその人に謝らなくてはなりません……


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ