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それは、子育てノイローゼになりかけたおばさんを心配したうちのママがあたしを連れて遊びに行ったときのこと。


始めのうちはふたりで同じ部屋で遊んでたんだけど、持って行ったお土産のケーキを皆で食べようとおばさんがリビングに呼んだら、ノリくんのイヤイヤが発動して一人でその部屋に閉じこもっちゃったのだ。


おばさんは泣き叫ばれるのを恐れたのか、それとも疲れきってしまっていたのか、仕方なさそうに溜息を吐いてノリくんを放っておくことにした。


それからおばさんとママがボソボソとおしゃべりを始めたので、あたしはノリくんが隠れたカーテンの内側を覗いた。

そこはただの窓じゃなくてオシャレな出窓で、窓ガラスに引かれた目隠しのレースカーテンがまるでお姫様のベッドみたいだった。

カーテンを引くとその出窓だけが隔離される。子どもからしてみれば、秘密基地にしか見えなかった。


あたしがワクワクしながら出窓によじ登ると、膝を抱えて顔を伏せていたノリくんがそれに気付いた。


「すごいね! ここ、ノリくんのおしろ?」


キラキラと目を輝かせて言うあたしとは反対に、ノリくんは怒り出した。


「かってにはいっちゃだめ!」


「そうだよね、おうさまにプレゼントしなきゃいけないよね」


怒られたことも気にせずに、あたしは持っていたポシェットからアメ玉を出した。

保育園の遊びで、お城に入るには貢ぎ物が必要なことになっていたからだ。


「おうさま、これでいれてください」


「いや!」


即座にノリくんが首を振るけど、あたしはノリくんとあたしの間にアメ玉を置いた。またポシェットを探って、今度は海で拾ったガラス石を出す。


「じゃあ、これでいれてください」


「だめ!」


そんなことを何度か繰り返して、ノリくんとあたしの間にはシュシュや小さなぬいぐるみやラメが入ったスーパーボールが並んだ。

それでもまだイヤと言われ、あたしはポシェットの中に残したいちばんのたからもの───アヒルさんを取り出した。


「あのね、このこ、いちばんのたからものなの。サンタさんにきこえるの。だからね、いつもいっしょにいて、このこにはうそついちゃいけないんだよ」


もちろんそんな機能はアヒルさんには付いていなかったのだけど、当時のあたしはそれを信じていた。

子どもにとって神様的存在のサンタさんに嫌われたくない───悪い子認定されてプレゼントが貰えなくならないように、イイコになろうと日々頑張っていたのだ。


ちゅちー!


アヒルさんを鳴らす。


「サンタさん。きょうからは、ノリくんがこのこをもちます。ノリくんがすきなものを、プレゼントしてください」


両手の上にアヒルさんを乗せて、お辞儀をしながら言う。

ノリくんはサンタさんの名前に驚いていた。


「はい、じゃあこのこはノリくんのね。だいじにしてね」


笑ってアヒルさんを差し出すと、ノリくんが恐る恐る手を伸ばしてきた。

そっとアヒルさんがノリくんの手に移動した瞬間。


「アイー? ケーキ食べないのー?」


ママがあたしを呼んだ。


「たべるー!」


喜ぶあたしは出窓から降りようとして、動かないノリくんに振り向く。


「ノリくんはたべないの? いちごのケーキ、きらい?」


あたしの問いに、ノリくんが急に怒った顔になって口を開く。きっと、いや! って言うつもりだったんだろう。


ちゅちー!


だけど聞こえたのはアヒルさんの声で。

ノリくんの目がアヒルさんを見て、あたしを見て、それからカーテンを───きっとその向こうにいるおばさんを見て、またアヒルさんに戻って、一旦口が閉じられる。


「…すき」


それからボソッと呟いたのはノリくんの本音だったんだろう。


「じゃあいこう? これでサンタさん、ノリくんがいちごのケーキすきってわかったね」


後半部分をノリくんの耳にコッソリ言うと、あたしとノリくんは出窓から降りた。


揃って現れたあたしたちに、おばさんが驚いたのは言うまでもない。

その後ノリくんのイヤイヤ期はかなり治まったのだ。

ほんとうに、アヒルさん様様である。




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