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ちゅちー!
なんとも情けない声である。
声の出場所はその突き出た嘴じゃあなく、腹の中に仕込まれた笛からだ。圧迫されると空気が漏れて音が出る。
「うわ! 懐かし~!」
あたしは幼馴染の部屋にあったアヒルさんを鳴らしながら言った。
「あんま…さわん、な」
部屋の主のノリくんにベッドからジロリと睨まれるけれど、そんなカッスカスな掠れ声じゃなに言ってるのかわかりませーん。
体も怠くて痛くて動けないって、成長期って大変だねえ。
「ね、ね、覚えてる? このアヒルさぁ、ノリくんがいーっつも持ってたよね!」
ちゅちー!
そうこの音! 多分、他に100個くらいアヒルがいたとしてもこのコの事聞き分けれると思う。それくらい聞いたもん。
ノリくんってば、イヤイヤ期のときなにもかもぜーんぶイヤしか言わなくてさ。
オモチャもイヤ、出かけるのもイヤ、食べるのもイヤ、寝るのもイヤって全部拒否しちゃって、唯一おとなしくなるのは体力の限界がきて眠ったときだけ。そんなだから体重は減っちゃうし、ほぼ一日中泣き声か絶叫が聞こえるからご近所からは虐待を疑われるしでみんな困っちゃって、おばさんなんかノイローゼ間際くらいまで追い詰められちゃって。
そんなノリくん一家を救った救世主。
それが、この魔法のアヒルさん。