表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

六花

作者: おこめ。

雪が降る季節

確かにある記憶の一つ



暖炉に火をくべるとパチパチと火の弾ける音が静かな部屋に響く

あたたかい光が暗い空間を埋めていく

今日は一段と冷え込んでいる

あたたかいスープを作ろうと椅子から立ち上がると、トントンと扉を叩く音が耳に入った。


外は吹雪いていて見えない

こんな天気に人が訪ねて来るなんて…


不思議に思いながらも扉を少し開けると白いコートに身を包んだ男が立っていた。



「すみませんが一晩泊めていただけませんか?」



その言葉に我に返り、私は急いで男を家に入れた。

こんな天気じゃ外に出るのは自殺行為。すぐに火に当たるように声をかけ、スープを作るため台所へ向かった。




白い湯気をあげたスープをトレーに置き、パンと一緒に持っていく。

男はゆらゆらと揺れ動く火を見つめていた。

色素の薄い髪に、端正な横顔。

あまりにも綺麗なさの姿に息を飲む。



「…あたたかいスープ。いかが?」

「いただきます。」



熱いから気をつけて。と一言添えてスープを渡す。

私たちはそれから一言も言葉を交わすことなく、ただ時間だけが過ぎていった。

しかしこの空間か、時間がとても心地よかった。



「…あなたは、この家にお一人で住んでいるのですか?」

「はい。」

「さびしくは…ないのですか?」



“さびしい”

その言葉が胸に落ちてくる。



「…さびしくはないです。」



森の木の葉が揺れ音

太陽のやさしい光

月のやわらかな光

小鳥たちのさえずり

動物たちの元気な姿


さびしくはない。

こんなにもあたたかい気持ちなのだから。



「…いつも遊びに来てくれる野うさぎがいるんです。」



頭に浮かぶ色素の薄いうさぎ



「今は冬だし、会えていないのだけれど…」

「…会いたい、ですか?」

「ええ、会いたいわ。」



会いたい。



元気なのか。

怪我はしていないか。

浮かぶ姿につい口元が緩む


かたり、軽い音が響き目を向けると男が立っていた。

そのまま私の前に来ると、まるでスローモーションのように私の身体を包み込んだ

突然のことに頭がついていかない。



「えっ、と…」

「…六花です。」

「…え?」



“六花”



私があの野うさぎにつけた名前…



「森の神様に頼んで人間の姿にしてもらったのです。」

「なんで…」

「好きです。」



真っ直ぐな目

思わず涙が零れた。


胸が、熱い…



「…ただ伝えたかったんです。」



生きている時間

進む時間

同じ時間(とき)は過ごせない



「それでも、あなたに伝えたかった。」



かなしそうに笑う六花

やめて。そんなかなしそうに笑わないで



「…さようなら。」



そう六花ご笑う

私の記憶はここで終わり

目が覚めると毛布が身体にかけられていた

あれは夢だったの?


空には美しく輝く月が浮かんでいた。

扉の外にはうさぎの足跡が続いていた。


冬が終わり春がきて、夏がくる

秋がきて、また冬がくる。

けれど、私の前に六花が訪れることはなかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ