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my lover 9

グロくも何ともないですね

 ――――――――――One’s end――――――――――




 目を覚ますと、私は白い光に包まれていた。真っ白な世界の中、羽毛に包まれているような、柔らかい感触のベッドに寝ているような心地だった。

 何があったのかは覚えている。電車が脱線したんだ。脱線事故で、私は死んだ。呆気なかった。吐瀉物が私の呼吸を止め、ゆっくりと呼吸を終えた。

 そして、ここが天国、といったところか?私の胸には鼓動がなく、自分が死んだのだという事を再認識することができた。

「いらっしゃい、お嬢さん」

 柔らかい、温かい声がした。声の主を見ると、真っ白な肌をした、真っ白な長い髪の、真っ白な服をまとった女性が立っていた。

 ――きれいな人だ。

私は、その人を見て、瞬間的にそう思った。

「きれいだなんて、そんな。嬉しいわ」

「……え」

 思ったことが、聞こえているのか?

「えぇ。私は、あなたの心が解るわ。心の声が聞こえるの」

 女性はゆっくりと歩み寄ってきて、私が寝ている横に腰かけた。

「見ていたわよ、あなたのこと。がんばったのね。えらいわ。……あなたががんばって選んだ手袋、彼、きっと喜んでくれると思う」

「あ……え?」

「あなたの予想は、半分正解。ここは、天国に一番近い所よ。私は、その門番。あなたが天国で暮らす資格があるかどうか、見極める者よ」

 女性は私の頬を撫で、目を閉じた。そして一筋、涙を流した。

「……まだ、あなたはここにきてはいけない」

「“まだ”……?」

「ええ。あなたは、やり残したことが多すぎる。あなたも、わかっているでしょう?」

 そう聞かれて、私はいろいろなことを思った。考えた。祈った。

 ――願わくば、私は――、

「私は、まだ……」

「いいのよ。甘えて、いいの」

「……まだ、死にたくない」

 抑えてきた感情が膨れ上がって、目から、口から、次々に溢れ出した。想いは涙になって、想いは言葉になって、想いは鼓動になって、私の体を動かした。

「まだ、レイに、好きだって、伝えてない。ケーキも作ってない。手袋も、あげてない。服だってせっかく買ったのに、着てない。かわいい、って、褒めてほしい」

 嗚咽混じりの声は声になってはいなかった。しかし、女性は黙って、私の体を抱きしめた。

「誕生日おめでとうって、言いたかった。……これからも、一緒にいたかった!」

 私の言葉は、目の前の女性が聞いていた。ただ、この言葉を、レイに伝えることはできないんだ。私はそんなことを考えて、また涙が止まらなくなった。

 最後に泣いたのは、両親が死んだとき。それ以来、私は涙を流さなくなった。その反動が今になってきたのだろうか。涙も嗚咽も、止むことはない。

「……あなたのこと、ずっと見てきた。お母さんとお父さんが亡くなってから、あなたは彼以外に、誰にも心を開かなかった。でも、友達ができたわね。えらいわ。あなた、恋だってしてる。素敵だわ」

 女性は私の涙を指で拭い、自分の額と私の額をくっつけた。

「もう一度、言うわね。あなたはまだ、ここにきてはいけない。ここにきてしまったら、きっとダメになってしまう。あなただけじゃない。レイくん。彼はきっと、全てを失ってしまう」

「……レイが……?」

「ええ。だから、あなたに時間をあげる。……三日だけ、あげるわ。三日で、やり残したことを、済ませてきなさい」

「……え?そ、それって……」

 女性が話を済ませると同時に、私の体はまた光に包まれていった。やがて視界は白く染まっていき、

「じゃあ、がんばって」

「うん。……ありがとう」

 真っ白に包まれた。最後に視えたのは、女性の柔らかい笑顔だった。

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